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異世界編 その7『勇者が帰還するってさ』

本編後に勇者アイザワサイドのおまけがあります。

ネタばれとか関係ない予定です。

飛行獣・・・命名「ラバル」を競売で落とし、それらの手続きや色んな事々の処理に

追われてあっという間にその日が過ぎてしまって。

先程まで空の旅になるので防寒服を調達したりして、準備は終わった。

とはいっても「聞き込み調査」をしなければならないので休むのはそこそこに。

明日は勇者凱旋で皆落ち着かないし話を聞くヒマもなさそうだし・・・というか、

明日はもう「旅」に出るつもりなんだけど。



「明日、ですか?」

我が家に向かう馬車の中、キツネさんとお話し。

私の発言は想定していなかったらしく「驚き」という珍しい表情のキツネさんが見れた。

「そう。 王城内での調査によれば凱旋から一月後に勇者は現実世界に帰還する。

 つまりは別に凱旋直後に直撃インタビューしなくても良いってことでしょ?」

それに凱旋直後にそんな時間が取れるかわからないし。

だったら多少落ち着いた時にゆっくりと話を聞きたい。

「まぁ確かにそうですね・・・飛行獣での移動ですから特別な事が起きない限り

 3週間はかからないでしょうし・・・いいんじゃないですか?

 今は小鳥さんが私の上司ですし」

「なら決定で」

旅の準備は終わっているのだ、あとは「出発」するだけ。

「日の出と日の入り時には霧が出ますから飛べるのも動けるのも日が出ている

 時間だけ。 ・・・明日の早朝からラバルの飛行準備は私がやりますので、小鳥さんは

 その間も聞き込みしますか?」

「んー今日までの聞き込みで大体聞いたしなー…荷物の確認と出発の報告を済ませとくよ」

お話しは家に到着してからもしばらく続いた。




そして次の日、つまり今日が勇者帰還の日であり私とキツネさんの旅出発の日。


仕事場である司書長室で用意した旅装を着て、確認する。

黒上下のインナーの上にワンピースのような膝上丈の赤い服。

黒の太めのベルトには特注で作った本や紙を収納できるポケットを3つほど付属。

肘と膝には簡易な防具。

こげ茶色の何の皮かわからないけど皮製の防寒具。

腕を通すようなものではなく被って前のボタンを止めるだけのモノ。

両手足首には身体能力を上げる魔術道具マジックアイテム

あと今はつけて無いけど手袋がある。


・・・こうして述べてみると何だか重装備に感じるけど私の格好はかなりの軽装。

まぁ魔術道具マジックアイテムがあっても攻撃力はないし、逃げることしかできないし。

それに比べてキツネさんは自身の属性である「風」と「水」の法飾が刻まれている立派な

ファンタジースタイル。 私と同じデザインの防寒具がなかったらホントファンタジー丸出しだよ。

ちなみにキツネさんとは王城まで馬車で一緒で、あとで待ち合わせしてある。


「さて、と」


荷物の中身を確認し、忘れ物はなし。

ラバルの食料とか飛行装具はキツネさんが準備してくれてるし、報告しときますか

ミレシアン様に。


図書庫に念のため鍵をかけ、水晶の間へと向かう。

昨日まで王城内で聞き込みをしていたオカゲか大体の構造・ルートは覚えてしまった。

なのでこうして1人で歩きまわれるんだけどね。

そのことをキツネさんに伝えたら「小鳥さんも立派な異世界人ですね」とか言われたし。

まぁその後「キツネさんの方が立派な先輩ですけどね」って言い返したけど。


水晶の間へと通じる道の前には見張りの兵士がいて。

身分を名乗ってミレシアン様に用事があると伝えると、現在確かに水晶の間にいるが

誰も通すな、とのことで通せない。

じゃあ言伝でも言いか。

「国家図書庫司書長小鳥と補佐、任務によりしばらく国外に出るため留守します、と

 ミレシアン様にお伝えお願いできますか?」

「了解です。 言伝お受けしました」

銀色の鎧のせいで顔は見えないけれど、声音から思ってたよりも年齢が若そうだ。

そう思いつつ見張りの兵士にありがとうと礼を言い、さてと。



「キツネさんの様子でも見に行こうかな」

準備が出来ているようなら図書庫に置いてある荷物を持ち出して、すぐに出発しよう。


通路の外、庭園にある噴水が目に入る。

今歩いている通路をまっすぐ歩いて建物の中に入れば図書庫は近い。

入らないで建物をグルっとして出るとキツネさんのいる獣舎小屋が見えてくる。


夜勤だった兵士がそろそろ交代の時間のようで、朝の霧が出始めていて生憎見えている

噴水は多少ぼやけていた、実は。

けれど。

そんな静かな情景の中騒がしい気配を感じた。

「訓練、にしては時間が早すぎるし・・・何かトラブル?」

噴水の向こう・・・確か西門だったような。

騒ぎの内容が聞こえてこないし、距離としてもそれほど近くは無いんだろう。


そんな風にぼんやりと考えながら歩いていると前から走ってくる人物が、1人。

とても忙しそうなので通路の端に寄って道を開けようとすると・・・

「あ、すみません言伝をお願いしても良いですか!?」

・・・この異世界、言伝多くね?



陸軍総司令官室。

「あああーー!!  ホントすみませんっ!管理司書長殿にこのような下っ端の仕事をさせて!」

おつかい気分で言伝を伝えるとものっすごい勢いで頭を下げられた。

・・・国家図書庫管理司書長っていうのはほんとーに偉いようです。

「まぁ気にしないで下さい。 丁度手が空いてたので…それに私も聞かせてもらって良かった、

 くらいなんで。」

「『勇者帰還を一日遅らす』、ですか?」

そう、言伝というのは勇者帰還を一日遅らすという・・・いや、急過ぎないか?

私にはそれほど関係ないし勇者の異世界滞在が一日伸びたくらいにしか思わないけどさ。

「はぁ・・・あとでアイツには厳罰として(地獄の)トレーニングさせておくとして…失礼ですが

 管理司書長殿に今回の凱旋とどのような関係があるか聞いてもいいでしょうか?」

ヴィストリア総司令官は部下の処罰を考えながら、私の方に上目遣いで聞いてきた。

それに私は敬語はナシでいいですし「コトリ」でいい、と最初に付け足して。

「国家図書庫に『勇者アイザワの旅路』を収集することが決まりまして・・・なので勇者の情報は

 何でもいいので仕入れたいのですよ」

「ほぉ・・・」

50代ぐらいの貫禄あるヴィストリア総司令官。

いくら位がこっちの方が上だとしても私は現実世界に住んでいた女子高生。

正直目を細められてじっと見られると気まずくなる。

「はっはっは。 何、歴史を決める者が目の前におるんです、興味を持つのは当然でしょう。」

「むぅ。 でもまぁ、安心はしてください。 私は全てを公平に見るだけなんですから」


全てを公平に。

この言葉は「国家図書庫管理司書長」の仕事をまとめた文章に書かれたもの。

王族直属の部署であるが、全てにおいて公平でなければならない。

何故なら、そうでなければ国家のためにならないのだから。

そして説明書の余白に、こんなことが手書きで書かれていた。


王に不利なことを書いたなら、王はそれに対処しなければならない。

大臣に不利なことを書いたなら、大臣は相応の処分を受けなさい。

兵士に不利なことを書いたなら、兵士は大人しく口でも噤んでいなさい。


走り書きされたメモは私らしくて一度目にしただけで覚えてしまった。




その後。

陸軍総司令官のご好意で兵士の待機場、まぁ休憩所みたいな所で勇者の訓練に

付き合ったという男性騎士とゆっくり話せた。 そこで訂正が一つ発覚。

「勇者アイザワは14歳、ね」

「えぇ何でもニホンジンは童顔だから実年齢より下に見られやすいとか・・・」

「助かった。 聞き込みでは12って聞いてたから会った時に失礼だしね」

「あー、あと身長の方も気にしているようなので、触れない方が良いかもしれません」

「ふむふむ」

14歳・・・中学生かな。 身長は小さいようで、禁止語句と。

特注のポケットに紙とペン、赤い本(触れなければ大丈夫)は旅装で出歩いていたので

急なインタビューにもこうして対応できた。

「ありがとうございました、急にお願いしてしまって・・・」

「いえいえ。 アイザワ達が今日帰ってくると思うと恥ずかしながら眠れなく、定時より

 早く来てしまって。 ・・・コトリ殿とお話しして大分落ち着けました」

「それはお役に立てたのなら何よりです。 まぁ勇者たちの凱旋は明日に延期ですがね」

「・・・え」

向かいから聞こえたマジな「・・・え」に紙から男性の顔へと視線を変える。

「いや、私もこの話題を偶然聞いてそこからの縁でこうしてお話ししているんですけど。

 ・・・そうらしいですよ?」

「あ、あぁそうらしいんですか・・・はぁ・・・。」

ため息を深くつき、肩を落とす様は実に気の毒なんで持ち直す方法を考える。


こーゆー時は、こうだろう。

「・・・そんなに勇者一行を待ち侘びているなんて、何方か親戚でも一行にいるんですか?」

「義理弟と、昔面倒を見たことのある子が一行にいるんです」

「どんなヒトか、貴方から教えてくれませんか? お好きなんでしょう、その2人のことが」

好きな思い出を語らせて、それに浸らせる。

「すみません、気を遣わせてしまったようで・・・」

「いいえ。 時間ならありますし、これも私の仕事のウチになるようですしね」


そして。

ヒルパキルス・J・ベイトソン(35)は脳裏の映像に心地よさそうに目を閉じながら、語った。






↓今回から勇者アイザワ一行サイドのオマケ付きです。


デスマウンテンを飛行魔獣で降り、旅の始めに立ち寄ったエルフの里に向かう。

あの魔界での戦闘後しばらくは高揚していたが、デスマウンテンに背中を向けた時から

口は開けなかった。


目的は果たした。

しかしココロの全てが喜んでいるわけではない。

喜びの内に悲しみが不動し、後悔を誘うが・・・それは出来ない。

何故なら『してはならない』からだ。


前を向け。


魔界から脱し己の命の存続に歓喜する中で。

己の剣を恐れるように怒るように、嫌悪を顕わにしてアイザワは大地に突き刺した。

誰もがそのココロを察し、見守るしかない。

しかしフランフォルグ・クローリストは違った。

彼はアイザワの前に立ち陽を遮ると己の杖で突き刺した剣を横に、殴り飛ばす。


ココではない。前を向け。


ソレに縋ってはいけない、そんなの望みやしない、誰も。

喜べ。 世界を救ったのだ。

『魔王』を打ち破ったのだ。


『魔王』という言葉にアイザワは顔を上げる。

逆光のせいでフランフォルグの顔は見えない。

自分と同じく泣いているのだろうか 自分に怒っているのだろうか

やがて慣れてきた目がその表情をみる。


「・・・なんで何も無いんだ、フラン」


アイザワの涙が大地を濡らしても、何も無い。

ただ見つめたまま沈黙を続けるフランフォルグ。


そんな彼らを見ているしかなかったカトリーヌ・ヴィストリアは地面に転がったままのアイザワの

剣を拾うと隣のケルヴィン・J・ベイトソンに目で合図を送り、こう言った。


「帰りましょう、いつまでもココにいたら・・・悲しいだけだわ」



そうして『魔王討伐』を果たした勇者一行は旅の始まり「オルブライト王国」へと

帰還する、のだった。



オマケをあとがきにいれるか迷いましたが、取りあえず本文内に入れときます。 あとがき内の方が良ければそう一報ください。

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