異世界編 その3『ついでの把握』
我が家だというこの洋館。
私の役職・国家図書庫管理司書長は一応王族直属の部門の長になるのでこんな扱いなんだとか。
でも仕事場には私(司書長)とキツネさん(補佐)しかいないんですがそれはどうなんですか。
あぁ、それは元々何代か前の王様が私的に創った部門だから、とね。
…というかキツネさん。
「一体どこまで調べたんですか」
私が質問するたびにちゃんと答えてくれるキツネさん。
一週間前に来た、というわりには何だかかなり博識な感じが、する。
そこで早く来ちゃった可哀相なキツネさんの話をそれぞれ説明してもらいながら話してもらうことに。
だって、この我が家…私とキツネさんしか住人いないしね。
「可哀相は余計ですよ」
「私がそう思ったんですから、それは気にせずどうぞ。」
一階にある談話室で机を挟んで向かい合う。
勿論、な感じに机の上にはクッキーが置いてある。
真ん中に置いてあるけど絶対キツネさんの方が食べるよなぁ…。
キツネさん調べによる私の設定。
私・小鳥遊 小鳥は庶民の子ではあり幼少の頃流行り病で両親を亡くし、その両親と親交があった経済財務大臣の秘書であるロウ氏が養女として引き取った。
ロウ氏には既に息子が1人おり彼が跡を継ぐことは決まっている。
異世界の私はロウ氏の為にも働きたいと言い、空席であった国家図書管理司書長に
国家試験を合格後自ら志願。
永久の窓際と言われる役職に就職…ついでにキツネさんは同時期に補佐に就任しているそうな。
「キツネさんの設定は?」
「私の方は…軍の方に所属してましたが、ハッキリ言って年下の上司に飛ばされた、ですね。
生まれは一般庶民そのものです。」
「わぁ…ちなみに記憶ってある? 私はないけど」
「私だって一週間前から、ですよ。 必死になって調べたんですから」
そりゃあそうだろうなー。
気が付いたら魔法ありの異世界で上司に私がいて、何が何だかわからないんだから。
ん?
「異世界の私に聞かなかったの? ここはどこですかーとか」
私はこうして調べ終わったキツネさんから聞けるから良いけど。
「言いましたよ、最初だけですけど。
その時のコトリさんは『何キツネさん…窓際に突っ立ってんの嫌だから精神病患者専用の
牢獄行きを希望なの? 何その自殺願望』とか言い返してきて…仕事の方はほとんど
コトリさん1人で済むようなので城の中歩き回ったりして大変だったんですよ…ハァ」
「…」
無言でクッキーのお皿をキツネさんの方に寄せる。
「これって異世界トリップになるんですかね」
「召喚モノでもないようですしね…」
「絶対に『アレ』のせいですよね…」
「そうではなかったら何ですか」
ホント、燃やしたくなるくらい怨みますよ。
ボソッとキツネさんに言われた。
『魔術道具』。
その名の通り、魔力を動力に魔術を発現するための道具である。
「人の使う魔術には『回路』と属性魔力が必要だが、魔術道具は魔力さえあればいい。
ただ仕込まれた魔術しか使えないし、なら自分の言霊で指定できる人の魔術の方が
使い勝手が良いから魔術を使う人間が多いオルブライト王国ではあまり魔術道具は使わないな」
ヤンリさんは一旦話を止めると紙とペンを用意し、何かを書き始めた。
「純粋魔力を空の宝珠に移したってまた使うには籠められた純粋魔力が抜けないと駄目だしな。
他に害がないのは確かだが空の宝珠がそこらにあるとは思えん」
宝珠とは自然に存在する魔力を長い年月をかけて内包し溜め、人の手によってその魔力で擬似的な『回路』を作ることによって通常よりも少ない魔力で大きな魔術が使える、という魔術の補助道具の一つ。 空の宝珠は己の魔力を込めてその色が自分の属性になるそうな。
「確か城下町の…ケヲスの商店だったか?
まぁその店が補助仕様の『魔術道具』専門店でな、場所は覚えているんだが
店名がわからん。 地図をやるからそこに行くと良い」
「補助の…」
渡された紙には中腰で書いていたけれど真っ直ぐな綺麗な線で。
見やすくわかりやすくもあり、これなら店名がわからなくても大丈夫だろう。
「つまり、小鳥さんの純粋魔力を魔術道具で消費する、ということですか」
「そーいうこった、補佐さん。 軍に所属してたなら魔術使えるだろうし知識もあるだろう。
お前さんもついていってやれ」
嫌な顔はされなかったが、面倒だな、と顔には書いてあった。
この正直者め。
「ってか軍人ってみんな魔術が使えるんだ?」
もちろん、キツネさんも含める。
「このオルブライト王国の8割以上の人間が魔力持ちですからね。
魔術を使いたい、学びたいのであれば軍に所属するのが一番ですから」
とうとう器まで抱きしめながらキツネさんはそう答えた。
まぁお腹空いてないし、別に良いんだけど。
「で、今はその知識を私に自慢でもしたいんですか」
「得たモノを有効活用するには当たり前じゃないですか」
左様ですか。
ヤンリさんとこにあった空の宝珠は私が使った一つしかなくて。
初めて魔術を行使した時なんかに起きる『魔力酔い』にそれは使うらしく、
今の私に自分の純粋魔力を放出する術がない。
いつ許容範囲をオーバーするかは正直わからないのでキツネさんと話して明日にでもヤンリさんが教えてくれた店に行くことになった。
これまで何故症状が出なかったかだけが不思議だが、わかったのだから対処しなければならない。
そこで気が付くと現実世界と同じ1~12の時刻表示の壁掛け時計の針が9時を過ぎていて、
「今日は色々と疲れたでしょうから」と私の寝室だという部屋まで案内してもらった。
他にも書斎や執務室もあるらしい。
この異世界はどうやらヨーロッパ風なようで。
お城の内装もそうだしこの洋館もそうで、この始めて入る私室にしてもそうだ。
靴のまんま部屋に入るのは引けたけれど、ここで裸足になったら汚れるだろう。
我慢して部屋のものを物色する。
木製の小さな机と椅子。 机の上には本と筆記道具。
姿見の鏡。 楕円形で、装飾は金色の花と蔓で。 やっべ、高そう。
あと、壁一面を利用したクローゼット。
自分の趣味が感じられないけれど、生活感はある…そんな私室。
キツネさんがいうにここは「寝室」なのだから私の事だ、あんまり寝る以外でいなかったのだろう。
現実世界では小物がちょくちょくあったり本がたくさんあったり…趣味は「読書」なのだ。
これまでの原因でありキツネさんが怨む例の「赤い本」をゲットしたのも学校の図書館だし。
「書斎」がある、ということは私はそこに入り浸っていたかもしれない。
そう考えると何だか異世界の私が気になって、鏡に自分の姿を映す。
「こんな服着てたんだ」
漫画で見るような、西洋の服装。
とはいっても中世の女性のようなわっさわっさしたドレスではなくて、男性のような
動きやすい服装。 まぁ私仕様なのかサイズはぴったりですが。
ふとキツネさんの服装を思い出す…あぁ、たぬき堂での服装とそれほど変わらなかったからか。
よくよく思い返してみれば兵士にしてもミレシアン様にしても見かけた騎士にしても現実世界からしてみれば「コスプレ」じゃないか。
私にしてもこの格好、その範囲に入るだろう。
何故気にしなかったのか…。
「何故? 異世界だよ、ココ、服装が違うのなんて当たり前?
でも意識はまるっきり現実世界のまんま…?」
1人っきりの部屋でブツブツ呟いている様は誰にも見せられない。
見られてないからこそ口に出しているんだけど。
現実世界で読んだ事のある異世界トリップモノの小説を思い返す。
「そうかっ!」
急いで机に駆け寄り、適当に本を開く。
文字が、読める。
私はよく読んでいた召喚モノやトリップな感じではない。
憑依?にしても該当するかどうかはわからないんだけど。
まぁとにかく。
私が異世界にやってきた今日のそれ以前にもこの異世界に私は存在した。
異世界の記憶も知識も全くない私。
つまり、こういうことだ。
「違和感」だけをすでに「理解」しているのだ、と。
異世界の私と現実世界の私が入れ替わったのかはわからないけれど、異世界に来た
現実世界の私が混乱しない程度には既に私は理解し(わかっ)てるのだ。
お城の中にいても驚きはしなかったし、むしろ装飾が高そうとか思ってた。
服装なんて今さっき気にしたのだ。
国家図書庫なんていう場所にいて目にする本の名前が読めることを気に留めない。
唯一過剰反応したのが現実世界には有り得ない『魔術』だけ。
そりゃー空想でしか存在しなかったからね。
「そーゆーこと」に収めるには少々容量がでか過ぎるが、そうでもないと確かに頭が
パンクしそうだ。
おそらくキツネさんも「そーゆーこと」で考えるしかなかったんだろう。
それに考えても現実世界に戻れるとは思えないし。
「……」
額に触れる手がやや熱く感じてる。
フラフラとベットに歩み寄ると、ベットの上には寝巻きであろうゆったりとしたパジャマが。
…使ったものをその場に放置。
共通の習性に感情を動かすこともなく、何も考えずに着替える。
そのオカゲですんなりと着替えが出来たけど。
ふんわりとしたその感触に私の意識はすんなりと落ちた。
…何だか今日、寝て起きてばっかりだな。
小鳥の異世界初日終了。 異世界編ではサブタイが全て決まっていて、
それに合わせて話を進めているので一日の区切りではないです。
異世界でも相変わらずのんびりと説明を交えつつやっていきます。
*投稿後に色々なミスを発見。 各所修正一応してます。