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その7 『タヌキ様ご乱心の日』

5月18日 月曜日。

本日はバイト二日目。

学校が終わってから有希ちゃんは部活があるし、君島トオルはどうしてなのかは想像し易いが有希ちゃんに引っ張られて消えた。 

とにかく、有希ちゃんが君島トオルを連れ去ったので「要請」は勿論本日はナシ。

即効で直行で「たぬき堂」に向かった。


濡らした布巾でテーブルを拭きながら。

「…今週はあと木曜日と金曜日。で、決まっている土日ですか」

「明日はオーナーがいますし、水曜日は定休日ですから」

ふーん。

何の会話って、私の今週のバイト日程について。

昨日初日で今週は5日…高校生のバイトにしては多すぎるとは思っているがどうもタヌキ様がココのところ忙しく、お店に来れない日が多々あって仕方ないのだとキツネさんに説得された。

まぁ来れば来るだけ給料も増えるので、と現実的に前向きに考えよう。


それからポツポツとのほほんと私の好きな「平穏」にゆったり味わっていると、ソレをブチ破る勢いでドアが開かれた。

バァアン!!


「やったよ! やっとお宝ゲットしたよキツネ君、ヒナちゃん!!」


びっくりしてドアの方を見ると。

素敵なオジサマキャラな筈のタヌキ様が、少年のように目を輝かしていた。

…「平穏」が崩れる気がしたのは間違いない気がする(現実逃避含む)。



今日は小雨の中、登校した。

私は別に濡れてもあまり気にしないんだけど、これから教室で授業となればそうはいかない。

100円ショップの脆いビニール傘を差しながら隣の少女を見る。

普通の傘より骨が多めで丈夫そうかつ優雅な水玉模様の傘は彼女に良く似合っていた。

漆原うるしばら 有希ゆきちゃん。 友人。


「……」

「……」


駅のホームで待ち合わせをしていて、顔を合わせた時は「いつもの」有希ちゃんだった。

「おはよー」と普通に挨拶したし、電車の中でも授業のこととかまぁフツーの会話をしていた。

けれど。

昨日と一昨日については有希ちゃんに対しては「禁句」だと思っていたので一切出していないにも関わらず、時が進むに従って口数が少なくなり、駅から学校への歩き道になってからはどこかぼんやりと無口になってしまった。

まぁ静かになったならからって気まずくなるとかでもないのでそのまま互いに無言で歩いていた。

BGMとして雨音もあるし、いいかって思ったのだ。

けれども。

流石にいつもと「こう」違うとイラついてきたのも事実で。

赤信号で立ち止まったのをタイミングとして話しかけようとしたその瞬間…


♪~♪~♪~


有希ちゃんの携帯の着信メロディが鳴り響いた。

まず二つ折りのソレをパチンと開いたのでどうやらメールらしく、話しかけようとしたのを一旦止める。

「…っ!」

「静」だった雰囲気が「怒」? いや「困惑」?

携帯を持つ手が震えているので少なくとも「喜」や「楽」ではないのはわかる。

原因であろう携帯をそっと覗き込む。


『待ち受けにさせてもらったよ』

短い文に添付されているのはどうやらガラス製の鳥…小物かな?


中身を確認させてもらってから送信者の欄をこっそり。

『君島トオル』

あぁ。納得。


信号が青になっていたのに気が付き、わなわな震えている有希ちゃんに「青だよ」と声をかけて進む。

何故有希ちゃんが怒に近い困惑なのか、何て聞くまでもない。

十中八九「昨日のデート」と「ガラス製の鳥」…そして「君島トオル」。

いやー、実に簡単な事で…とはいってもラブコメに本格的に巻き込まれたくも無いのでこれ以上追求も何もしませんが。


私立のお嬢様学校を通り過ぎ、私が通う共学の公立高等学校に到着する。

実は今年度からの新しい校舎で…私は一年生なので旧校舎は見たことも無いが…見るからに新しい校舎へと歩く。

隣に有希ちゃんがいるせいか、やや視線が痛い気もするがそこは頑張って無視。

だって、教室までの我慢だから。


でもちょっと折れて傘をかなり低めに差して顔を隠す動作をしたのは「しょうがない」と思うんだ。




昼過ぎには雨もすっかり止んでしまって。 

お荷物な傘を「置き傘」として学校に放置してくるなんていうのには全く罪悪感がない。

タヌキ様の両手の間にあるダンボールは雨に濡れてはいないが、見たこともない興奮の様でいつその中身が零れるかわからない。

取り合えず、私ははしゃぐタヌキ様にいつも通りに接することにした。

「お帰りなさい、タヌキ様」

「うん、ただいまヒナちゃん」

にこやかな笑みに汗がちらりと見えるがまぁ落ち着いてもらったみたいなので見なかったことに。

ちらりとキツネさんに視線を送る。

タヌキ様の見たこともないはしゃぎっぷりに驚いて動きを止めていた。

…そんなに驚くことなのだろうか?

確かに「見たこと無い」くらいだったがキツネさんが「動きを止める」ほどなんて…まぁいいや。

その内再起動するよね、きっと。


「何? それってタヌキ様の「副業」の戦利品ってヤツなの?」

カウンターにダンボールを置いたタヌキ様。

「そうだね、まぁコレクションになるのかな?」

「中見せてもらっても良いですか?」

「どうぞ~」

お宝ゲットのタヌキ様はホクホク顔で。

それを見せるというか見せびかせてくれるようでダンボールの中から出てくるのは…



古びた赤いリボン…傷だらけのどこかの手帳…何度も直した痕のあるクマの人形…黄ばんだ本数冊…すんごい古めかしいランプ…フレームだけのメガネ…etc…



「た、タヌキ様? この共通するのが『古い』っていうだけのモノたちは何ですか?」

脳裏で緊急アラームが鳴り響いているのはおかしくない…ハズ。

「ん? これらはねぇ・・・」

ガサゴソとダンボールの中を漁り、取り出したのは欠けてしまったティーカップ。

「何らかの想い入れがあって捨てられないモノ…価値としては低いんだけど本人だけの『宝物』。 

 僕はそういったものを『コレクター』するのが趣味でしてねぇ…「副業」というのは稀に

 価値のある物品も紛れるのでそういったのを「鑑定」や「処理」をするのです。 

 まぁ「鑑定人」や「仲介人」でしょうか」

…その趣味で暮らしていかないで「副業」とするのがタヌキ様らしいです。

っていうかここ最近アワアワしてたのってそのダンボールをゲットするため?

まぁタヌキ様がそんなに喜んでいるのならいいんだけどさ。


その後、タヌキ様はウキウキな状態でダンボールを再度抱かえて2階の趣味部屋へと消えた。

きっと2階ってカオスで異様な空間なんだろうな…。

私は好奇心でその空間に決して関わらない、そう決めた。




スタンドライトが眩しいな、とかちょっと思ったりしながら現在私は自分の机へ。

そしてお気に入りのボールペンでカキカキ。


『お店を閉める時間になっても降りてくる気配がないタヌキ様。

キツネさんによると「副業」というか「趣味」に走る時はいつもこーなんだとか。

いつもこーなら何でキツネさんは一時停止しちゃうほど驚いていたのだろうと聞いてみると、『ダンボール箱で来たのは初めてだったので』とのこと。

なら大漁だったんだとか思っていたら「もしかしたら小鳥さんの『本』のせいですかもね?」って。』


「そんなハズ…そんなことはない、ハズ」

ですよね?キツネさん。

そう問いかけたら苦笑が返された。 ちくしょー。


5月19日 月曜日 雨のち曇り。


今朝の有希ちゃんとの登校やタヌキ様の興奮っぷりをつらつらと書く。

最後に私の望む「平穏」は一体どこにいったんでしょうか?と心の底からの本音も書いといて。

ちょっと強引に終わらせると読み返すことも無く本を閉じた。


ここまでくるともうわかっているとは思うけど、就寝前の自室。

今日はさっさと終わらせたかったので早足で進むことに。

早く終わらせて、寝たかったんです。

「不貞寝ですね」と(脳内)キツネさんに爽やかな笑顔で言われたが言い返すことなく肯定しといた。

…だって、そうですから。


せめて「睡眠中」ぐらい(記憶ないけど)「平穏」に眠りたいんです。

これ、切実。



あ…明日ってスフィーと買い物だっけ…待ち合わせには間に合わなきゃな。

では、おやすみなさい。



タヌキ様の副業発覚。 こういった職業が本当にあるかは調べが足りず不明ですが、おそらく「鑑定人」の仕事からの分岐の一つではないかな、と思います。


脳内キツネさん…アニメや漫画といった架空のキャラクターで妄想する時、頭の中で色んな行動を勝手に起こさせたりするでしょう 小鳥はそれをキツネさんというキャラクターで行っているだけです。

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