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その6 『わたしが初めてバイトした日』下

作中の紅茶の淹れ方は適当です。一応調べたのですが、素人ですので。

紅茶をおいしく淹れるのには「ゴールデンルール」というものが存在するらしい。

キツネさんからそう「お話」された。

こーゆー。

「新鮮な水」を使い、「温度を落とさない」ようお湯を扱い、茶葉を「躍らせる」。

あとは好みで「蒸らし」て、「最後の一滴」まで味わう。

ことらしい。

私個人の解釈も混じっているからこれがそのまんまそれとは限らない。

あくまでキツネさんの説明を受けて、なので。


店に戻ってからもタヌキ様にお店はお任せして、用意されたエプロンを付けて簡単に髪を纏める。

紅茶の淹れ方を教わることになり、まずはキツネさんのお手本を説明付きで見る。

順番はあとで覚えればいいから、取り合えず「動作」に注目する。

沸騰し切れていない微妙なラインからの動作。

茶葉を躍らせるトコロなど一連の動作を全て「記憶」する。

勿論私とキツネさんの体格差も考えて。


「さぁ、やってみて下さい」


一度頭の中でシュミレーションを行い、「模倣」する。

そして出来上がったのをキツネさんが淹れたのと並べる。

「色が違う?」

「そうですね」

「匂いも違う」

「そうですね」

「ん…味も大分違う」

「そうですね。 …初めてにしては中々出来ていたと思いますよ」

「どうもです」


とはいってもこれは「三回目」なんだけれども。

一回目二回目は「飲む」までいかなかったんだよね。

やっぱり『こうすればおいしく淹れられる』方法があるっていってもやはり「喫茶店」というお店で商品として出すのはそう簡単にいかないようだ。

キツネさん曰く一人一人好みがあるから絶対にコレ、というのはないんだそうな。

茶葉の質やその日の湿度によっても味が変わってしまうし。

なので自分の中で一定のラインがあって、それをクリアしていればおkなそうな。

…ということは私の壁はキツネさんの味覚ですか。



「キツネ君、ヒナちゃん!  もう出れるかい?」

「「はい!」」


タヌキ様の声にキツネさんから紅茶のレクチャーを一旦中止し、私とキツネさんはカウンターのほうへと向かった。

何度も言うようであるが、今日は私のバイト初日である。





だいぶ日が長くなった今日この頃。

窓から差し込むふと目をやり、『冬』を思い出した。 

すぐに真っ暗にならないのが不思議に感じてしまって。

これからどんどん長くなるのに。


店内にはお客さんが何人か。

えーとカウンター席に二人組みのお客さんがいて、これはキツネさんが対応。

タヌキさまはどうやらお知り合いの方がいらしたようでテーブルに向き合って話し込んでいる。

結構にこやかながら雰囲気が真剣なのでもしかしたらタヌキ様の「副業」関係の人かもしれない。

そして私といえば。


『はぁ…やはり日本語はマスターしないといけないですよね…?』

「んー、目的というかゴールがそうなら結局はそうじゃない?」

『結局、というのは?』

「何も一本道じゃないってコト。ノー、ワンウェイ。」


外人女性さん相手に相談相手を請け負っております。


仕事中に何してんだとか何故話しが通じているのかとかまぁ色々あると思いますが。

こっちだって大変苦労しているんです。

聞き取りなら向こうも日本人学生ってことで簡単な単語をなるべく使うようにしたりゆっくりと話してくれているオカゲで何が言いたいかは分かる。

だけどこっちが何と言えばいいか分からない。

日記なのでアワアワした部分はちょっと省いて…というかテンパッてて会話を鮮明に覚えていないんだなコレが。

なので「よくコレで通じるよね?」な表記なのです。


外人女性さん、「スフィー」。


この前タヌキ様と近所のおっちゃんが話していた「引っ越してきた外人さん一家」の奥様がスフィー。

実をいうと「外人さん一家」というのは訂正がいる。

察しが良い人はもうわかるとは思うけど…スフィーの息子さんがあの「君島トオル」なのだ。

まぁ再婚なので血は繋がっていないし、君島トオルは前にも書いたけど純日本人なので。


で、スフィー(こう呼んでくれ、と言われている:書き忘れ)の悩みというと…


再婚した旦那さん(=君島トオルの実父)とは向こう(アメリカらしい)で入籍、日常会話も全て英語だったし、君島トオルとも決して仲が悪いわけでもないらしい。

しかし旦那さんが日本に戻されることが決まってからは家の中で昔のカンを戻すためか親子で「日本語」を話し始めた。 

それを耳にする度に疎外感を味わい、暗い顔をした新妻を旦那さんが置いていく筈無く…家族三人で日本へとお引越し。

引っ越したからといって余計に日本語しか耳にしなくなるし旦那さんはお仕事急がしそうだし息子は学校で昼間いないし。


で。 まぁスフィーが英語で話しかければもちろん英語で答えてくれるし、

家族とのコミュニケーションには問題ないがそれはそれでどうしよう? 

簡単な挨拶ならやっと出来るようになったがこのままではいけない、だからどうしよう、と。


「…小鳥さんの言うことは最もですが、曖昧すぎですね」

「キツネさん。 あれ?お客さんは…帰ったのか」


カウンターの方を見ると今は無人。

キツネさんは自分のコーヒーと私にいつものコーヒー、スフィーにはもう冷めてしまっただろうと淹れ立てのコーヒーが置かれた。

「アリガト、ゴザイマス。」

「いえいえ」

私とキツネさん、スフィーの間にはチョコチップの入ったクッキー。

…色々と準備を済ませての登場らしい。


「私が英語に訳してあげますから、遠慮なくどうぞ」

「さすがキツネさん。 そこで日本語に訳すといってくれないのは優しさですか」

「小鳥さんは聞き取りならできるんでしょう?」

うん、まぁね。


「そもそもさ、日本語習いたいとかなるべく日本語で話さないで欲しいとかいうのは旦那さんに言ったの?」

『ご家族に日本語についいてはお話されたんですか?』

『いいえ、忙しそうですし迷惑を掛けたくないので…』


キツネさん、私の言葉とはすこし違くありません?(聞き取りは出来るのでわかる)

まぁ言いたいことも聞きたいことも合っているからいいんだけどさ。


「じゃあ何? 家族に知られないように日本語習いたいの?」

『ご自分ひとりで日本語をマスターしたいのですか?』

『可能な限り、です。 私のことは気にせずそれぞれに打ち込んで欲しい、安心してほしいのです』

自分の要望、というか希望を語ったスフィーは心の底からそう願っているようで。

…確かに立派だとは思うけど。 

キツネさんと目を合わせる。

返してくれた視線を私と同じ意見であると(勝手に)判断し、結論を下す。



「どうやって巻き込もうか?」



キョトンとした瞳はとても年上の女性だと思えないくらい可愛かったです(感想)。




『今日であったスフィーという近所に越してきた外人女性さんは君島トオルのお母さんだった。 日曜日だというのに旦那さんは会社の用事でいないし君島トオルも有希ちゃんとデートだ。 自分以外いない日本の家にいたくなくてせめて家の周辺の雰囲気でも慣れようと散策して「たぬき堂」に立ち寄ったらしい。 そこからの話は地味に長く面倒だから書かないけど、 私はスフィーと火曜日に買い物に出かけることになった。 』



店内には私とキツネさんだけ。

タヌキ様はずっと話し込んでいたお客さんと出かけてしまった。

閉店時間が近いのとお客さんがいないので私はキツネさんの指示で片付け、掃除を行う。

ドアに掛けられている「OPEN」のプレートを「CLOSE」に替え、カーテンを閉める。

そして現在。

どこかいつもと違う雰囲気の中、キツネさんとおしゃべりしながら私は例のモノを書いていた。

戸惑うスフィーを私とキツネさんで上手く丸め込み、納得の表情で帰って行った。

そろそろ旦那さんが帰ってくる時間なんだとか。

「でもさ、きっとあの爽やかな表情は『自分の悩みに共感し味方になってくれたから』だよね?」

カキカキカキ。

「まぁ悩みというのは話すだけで軽くなりますしね…」

カキカキカキ。

キツネさんが隣の席に座る。 お仕事中ではないからカウンター内にいる必要も無いしね。

「というか小鳥さん」

カキカキカ…。

そうだ、あの見かけた街頭インタビューは書いたほうが良いんだろうか。

まぁスフィーの息子の話題だし…時計を見る…書くか。

「何ですか?」

カキカキカキ…

「これって巻き込まれじゃありません?」

カキカキ、カキ。

「あ。」


そーゆーことは今更って…そうか、キツネさんもか。

なら良し!



5月17日 日曜日。 

どうも私のバイト初日、早速「巻き込まれ」たようです。 キツネさんもご一緒に。



紅茶は家庭用のティーパックでもこのゴールデンルールで

淹れたらよりおいしくなるようです。


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