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その6 『わたしが初めてバイトした日』上

5月17日 日曜日。

目覚ましが鳴る一分前に起きてカーテンを開ける。うむ、静かな朝だ。 

カーテンの向こうの朝日でも拝んでわずかに残る眠気をぶっ飛ばそうかなと気分で行動。

そして空に視線を向けてみれば青空:雲=4:6という微妙な様子。

ぼんやりとした眠気が飛んだかどうかよくわからないまま一階のリビングに降り、禁煙を何度も挫折している母親に「おはよう」と挨拶し、それに煙をふぅと吐いてから「おはよう」と返される。

適当に自分の分だけの朝ごはんを作り、食事、片付け、いつもより長めの準備。 出発。


今日は「たぬき堂」でのバイト初日である。



「で、早速買い出しですか」

「えぇ、そうですね」

「おかしくないですか?」

「いいんですよ。 もしもの時、小鳥さん一人をお店に残すわけには行きませんから」

「左様ですか」


そして現在街中をキツネさんと歩いている。


飛びすぎか。

いや、まぁ私もそう思うけどバイト先「たぬき堂」に入ったらすぐに外に追い出されたのだ。

キツネさんに。

笑顔で「さぁさぁ」を背中を押され、視界の奥のこれまた笑顔のタヌキ様に手を振られ。

カウンターに新しいエプロンが置いてあったと思うからここで働くのは間違いない。


仕方なく抵抗を諦めてこの早速の仕打ちの理由をキツネさんに聞くことにする。

で、要約すると以下になる。

…オーナーのタヌキ様不在時のアシスタントが私・小鳥遊小鳥たかなしことりだったわけだがタヌキ様が今日急遽お店に出れることになった。 それなら私がいらないわけだが今後頼ることもあるかもしれないので丁度お店で使うコーヒー豆が少ないし、ならお客さんの少ない午前中に買出しの店でも案内しよう、とのこと。 

ちなみにそのお店があるのは先日私と有希ちゃんが行った「あの街」です。(君島トオルは削除)


…絶対何かあるような予感がするんですが。




ややどんよりな天気の中、都心街であるこの街は休日の若者で賑やかだ。

ファッションは勿論、映画やカラオケ、レストランなど大抵の店はあるから偏りのない、色んな人だ。

そんな賑やかな街の中、私とキツネさんはとある一軒のお店の前にいた。


「…ホントにこのお店なんですか?」

「えぇ。 これで開店しているんですよ」

「マジですか」


人通りの多いエリアを抜け、やや寂れたエリア。 

周囲は何が入っているのかわからない雑居ビルと昔からここにいます、な古い住居。

実際に人が住んでいるのか疑ってしまうくらいの。

そしてそんな中にあるお店。

看板は長年の風雨で消滅したらしく、店名はない。

日に焼けまくったカーテンが埃のこびりついた窓の向こうで不動状態にて完全に店内をシャットアウト。

ハッキリ言って一見、閉店して何十年もたったお店その1、な感じなんですか。


そのドアは果たして本当に開くのか!?なんていうナレーションが入ってもいいと思う。

私の疑いの視線を受けたままキツネさんは自然な動作で店内へ。 …入れるんだ。

「おはようございます、ご主人」

一度深呼吸してから私も続いて。


アレルギー持ちじゃないけどアレルギー反応がでるほどの埃を覚悟していたら…そんなことは無かった。

まず入って感じたのは埃など何処?な清潔感。 

目立つのはコーヒー豆を煎るための機械らしきもの、コーヒー豆の袋。袋は何個もある。

アンティークが好きなのか配置されている家具は高級そう。

皿などが飾られた食器棚の上にはこれまたアンティークな西洋人形。

固定された笑顔がいくつも並び、怖い印象を与えるが店内の雰囲気がそれを明るくする。

そしてそれらに囲まれている最新のリクライニングチェアーには一人の人物が。


「おぉ、なんだタヌキのトコのキツネ君か。 …ん? 後ろの子は?」

見かけたことのない子だね、とコチラに体を向ける。

それが私のことだとはすぐにわかったのでペコリと頭を下げてから自己紹介する。

「タヌキ様のお店で働くことになった、小鳥遊 小鳥です。 

 今日はキツネさんのアシスタントで来ました」

「今後こちらに伺う時彼女一人かもしれないので、よろしくお願いします」

「ふむ……。」


その人はタヌキ様とはまた違ったオジサマだった。

タヌキ様のようなポヤポや感が無く、なんというかキリッとした威厳あるオジサマ、だろうか。

白髪混じりの黒髪はとても似合っており、全て後ろに流してオールバックにしている。

…そして腕の中でまんまると眠っているシャムネコもとても似合っています。


アイテム、というのは人の印象を左右するモノだと初めて知りました。


やの付くお仕事…それも雲の上という所属の。そんな感じがします。

…挨拶を済ませてからオジサマの姿を直視して良かったです。えぇ。

でも、怖いもの見たさでもう一度オジサマの方に向け…目が合った。


「…!!」

ビクッ。


「中々オモシロい子を見つけてきたもんだね、キツネ君」

「オーナーが話されましたか。 …えぇ、常連客なのですよ」

「ふむ、覚えておこう。 ところでいつもの豆で良いんだね?」

「お願いします」


猫を床に降ろしたオジサマはキツネさんを連れて店奥へと行ってしまった。

とはいってもガサゴソと聞こえるしたった扉一つ向こうなのだけれども。

そして残されたのは猫と私。


「…」

「…」


キツネさんに「ついて来い」とは言われなかったのでその場にいたが、猫と睨み合うハメになった。

ピタッと動きを止めた猫に合わせて私も動きを止める。


「ニャー。」


まぁそれも10秒と立たずに向こうが終わらしたが。

足元に近寄ってきた猫を抱き上げて、まずはフワフワな感触を楽しむ。

「…どうしよっかなー」ニャー。

コチラはやることは終わってしまって、どうやら猫も私と同じで一緒に悩むことに。

ヒマだ、と。


取り合えず一通り部屋を見回してみる。

先程と同じ、てかついさっき見たしね。 

アンティークかそれっぽいかはわからないし、オジサマのものなんで触るわけにもいけないし。

次の案。猫と遊ぶ。

一応仕事中でバイト初日でもあるので猫と遊ぶのはどうかと思う。

まぁ猫を抱きながら思うことでもないんだけど。


「ついてくるな、ともいってないし…そうするか」

扉の向こうにいるであろうキツネさんの手伝いをすることに。

ペーペーですが荷物持ちくらいは出来ると思うし。


そうと決めれば名残惜しいが猫をご主人様であるオジサマ…ボスが座っていたイスの上にそっと置く。

「ニャー」

ありがとうかだっこの催促かは分からないが、軽く一撫でしてから扉の方へ。

そして開こうとしたら…


ガチャリ。


勝手に開きだした扉。

伸ばされた手は何も掴むことなく彷徨うハメに。

「小鳥さん…手伝っていただけ」


猫、カモン。 ニャ。


「うりゃ」

猫パンチ。ペチン。


「……いつの間に人様の飼い猫を従えているんです?」

小鳥のくせに。という台詞は聞かなかったことにして。

「ボスに会いたかったんですよ、猫が」

そう言って腕の中に飛び込んで来てくれたがすぐに離すと猫はちゃんと着地。

キツネさんの後ろにいるボスの元へとトコトコ歩いていった。

ぴょこんとジャンプし、ちゃんとボスの腕の中に納まったのを確認して。


「手伝いに来たんです」


上司の言うことは(なるべく)聞かないといけないですから。

遠慮なく、手伝いますよ?




私2キロ。 キツネさん2・5キロ。


決して体重の数字ではないことは明白だけどここに明記しておく。

ついでに言えば私:155センチ キツネさん:176センチ。 身長差は21センチ。

…キツネさんは男性だもんね、成人だもんね、働いているんだもんね。

悔しくは無いんだもんね。


「何失礼なこと考え流してんですか」

「いや、それって何気に私に対しての失礼じゃね?です」

「気付いているのなら良いじゃないですか」


何という陰しツなドえ…

あえて崩してみたけれどまた気付かれそうだったんで言い切るのを止めとく。


よいしょ、と抱いている荷物を持ち直してキツネさんの隣を歩く。


まぁ荷物が何かなんて隠す必要はないんで。

コーヒー豆です。

ボスが煎ってくれた、もの。

結局本当にボスだったかは確認できませんでしたが小心者なんです、仕方ない。


手伝います、と名乗り出た私にキツネさんは「小鳥さんは2キロです」といってすぐさま麻のような布地の袋を押し付けられ、「私は2・5キロです」と私と同じなのか大きいのかよくわらないサイズを軽々と抱いてボス=ご主人に礼を言ってから店を去った。

これが果たしてキツネさんの言った通りの重さかはわからないので腕の中のを「2キロ」としといた。


いつもの雰囲気でテンポでキツネさんとおしゃべりしながら歩く。

とはいえキツネさんとこうして歩くのは数えるほど。

ほとんどたぬき堂で会ってさようなら、だからね。

意識はしていないけどちょっと興奮しているかも?

興奮…別に感情的にではなくあくまでも気分的、です。


赤信号。


「これってお客さんから注文されたら挽くの?」

袋に視線を向けながら。

「日によりますね。 忙しい時はある程度まとめて挽いておきますが、平日は

 基本的にその都度挽きます。これは小鳥さんでもできますね」

「じゃあ今日にでもヒマだったらお願いしますよ」

「急に頼まれたにしてはやる気ですね…とはいっても小鳥さんには紅茶の淹れ方からの予定です」

「じゃ、それでいいや」

「そうですか」


青信号。


この歩道を渡りきったら目の前は駅。

とはいえこの歩道はやたらと長く、もしかしたらここで50m走できるかも、な感じです。

しかも人もかなり多いってか多すぎるくらいだけど。休日だし。


その途中。

「あ」


人を避けながら歩いていると目に入ったのは大きなテレビ。

遠くからもわかるよう、自宅用ではなくこうした街中の宣伝用というか…まぁ業務用だよね。

思わず足を止めてしまうところだったが…危ない危ない。ふぅ。

そのまま信号をやっと渡り終えてからキツネさんから声がかけられる。


「どうしたんです? 何か、あったんですか」

私と同じで「何か」に巻き込まれたくないキツネさん。眉を顰めてる。

「あれです、あれ」


『わ、私はただの付き合いでっ…!』

『今日はデートです、僕たち』

『アンタなんてウソを!』

『ウソは言ってないよ?』


「……」

固まったキツネさんに再起動させるべく説明する。

「漆原有希ちゃん、友達。あと君島トオル。以上。」

「…ラブコメ、ですか」

「良かったですね、テレビ越しですけど顔を知れて」

「そうですか・・・」

「良かったですね、今日は巻き込まれなくて」

「…そうですか」


だから最初に思ったんだよ。

昨日の今日で、何も起こらないはずがないってネ。



取りあえずな感じで書いてたらこんなことに。

決まっていたのは『街頭インタビュー』だけでした。

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