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その1 『わたしとキツネさんと赤い本との初日』

初めまして。 Ri_zです。 お話や設定を考えるのは好きですが、

今作が処女作となります。 温かく見守ってもらえると幸いです。


*全て主人公視点。(違う場合は以後明記します。)

書き始めは何にしよう…私は困ってしまった。


徒競走でスタートしようとしたらピストルの音を待ちわびているのに鳴った瞬間走る気力が無くなったっていうか、さぁ頑張るぞ!って言ったら何を?と質問されて何だっけ?と答えてしまうくらい。

んー何を書こうか、ね。 まずそもそもの始まりは『この本』だ。



本日は快晴、だけど24時間ずっとお空を見ていたわけでないのでずっとお日さまがジリジリしていたとは限りません。 所々に雲があったのでもしかしたら場所によっては時々曇りかもしれません。

5月中旬の、13日の水曜日。

15歳の私が通う高校は毎週水曜日に職員会議を行う。

学生である私には関係ないんで、それに帰宅部な私は時折お世話になる図書室にお邪魔していた。

試験が近いわけでもない放課後の図書室に人が多いわけが無く。

おかげでゆったりと一般図書のコーナーをそれこそ不審者並にうろつく。

入学して興味のある本は読んでしまったので、新刊か新たなジャンルを開拓するしかない。

専門書はそもそも趣味の範囲である読書とは離れるのでアウト。 頭使いたくないし。 

ノンフィクションは基本的に思考が現実的であるので、こーゆー時くらい夢見させてくれ、でアウト。


まぁ学校の図書館なんで、そういった条件が付いてしまうと絞られてしまうワケでして。

そして、うろついてうろついてうろついて見つけたのが、一冊の本。

手に取るが古ぼけて、古すぎて表紙の文字が読めない。 そのため表紙をめくる。

中表紙という普通ならそこに作者と本のタイトルが書いてあるその場所を見て思わず、という感じに…


「それがないってどういうことよ?」


言っちまった。

図書館特有の静寂の中声を出せば当然の事で、複数の視線が背中を突き刺す。

私の頬は羞恥のため赤くなり、固まったのは数秒。再起動してからは無言で自動貸出機で処理し、足音を最低限に抑えて図書館を後にする。 

そのままの勢いで下駄箱まで歩き、自分を落ち着かせようと冷静になれと言いつける。



「何で棚に戻さなかったんだ…!」


後悔先に立たず。

すでに腕の中の赤い布製のカバーの本はしっかり貸出処理済でしっかりと腕の中に存在している。

小心者の私に今から本を返却しにいこうなんていう勇気のいる行動が出来るはずも無くて。



仕方なく、本を持ち帰ることにした。


私の帰路は駅まで徒歩15分、電車は乗り換え一回含んで22分、駅から家まで徒歩で5分。

計42分が私の通学時間。 それが長いか短いかは人によってだから置いといて。 家からもっと近い高校はいくつもあったけど、私服おkで共学っていう条件で選んだため今の学校にしたのだ。



駅までの徒歩、そして電車。 いつも通りなのに何か違う。


電車に揺られながらチクチクと感じる違和感の正体を探し、そして気が付いた。

「目が合う」のだ。

例の本は中々の厚さだし、色々詰められたバックに入るわけがなかったので腕の中にいる。

本を抱いている女子高生なんて珍しいから? 

いや、確かにそうだけど珍獣を見るような視線に感じないのだ。

視線を感じて顔を向けてみれば視線が合う。歩いていても視線を感じて目が合う。誰と、ではなく複数。合う度に気まずさを感じて逸らすが最寄り駅の改札口を出てからも感じる人目に「異常」と判断する。

もはや「目立つ」で片付けられないとし、私は家ではなく「キツネさん」に会いに行くことにした。



カランカラン……


喫茶店のような店はやはりこんなベルの音が付くべきだと思っていたり。

実際はギィ・・・と場面によっては怖い展開が待ち受けている音なのだけど。

「こんにちはー」

常連っていうわけじゃないけれどちょくちょく来るこの喫茶店『たぬき堂』なんてツッコミ満載なこの店は5人掛けのカウンターと2~4人用のテーブル2つ、小さい個人経営のにしたらそんなもんか、な静かなところだ。

「はいはい、こんにちわ。いらっしゃいませ」

店内には客はいないようで、カウンター内に一人の男性、『キツネさん』がいた。

『キツネさん』は『キツネさん』で、本名は知らない。 

私が『キツネさん』と呼んだ時からオーナーの緑川さんもたまに見かける私以外のお客さんもみーんな『キツネさん』と呼んでいる。 ちなみにオーナーは大体『タヌキさま』と呼んでたり。



「相変わらずお客さんはいないんだね、キツネさん」

「おやそうですか? お客さんならホラ、一人いるじゃないですか?」

キツネさんはヒマなようで「お話し」の相手になってくれるようだ。

隣のイスにバックと重たい本を置いて、私はカウンター席に座った。

「私がお客さん? じゃコーヒーお願いします」

「はいはい、コーヒーね」

そういって用意されたのはコーヒー2杯と一口サイズのクッキーの山。

キツネさんはブラックを、私はコーヒーの苦さを打ち消すほど甘くされた、いつものコーヒー。

別に苦いのが嫌いだったり甘いのが好きでもないけど、前に『コーヒーってどれくらい甘くできるんだろうね?』と言ったらそれ以降私に出されるコーヒーは甘いコーヒーだ。

ちなみにインスタントだったり。 だってお金取られないし。キツネさんも飲んでるし。

「ふぅ…甘いね」

「えぇ、甘さが苦さを超えました」

一息ついてクッキーに手をつけたらキツネさんの目が『それで?』と問いかけてきた。


『キツネさん』・・・そんな名前をつけちゃうように、キツネさんの目は細い。

まぁ細すぎて線になるようなことは無いけれど、すくなくとも黒目の動きははっきりと見れる。

ついでにいえばキツネさんはカッコいい部類に入る。 真ん中分け黒髪に、健康的な白い肌、スレンダーで手足の長いキツネさんは彼のオーラもあって近づきにくいカッコいい男性、という位置付けになる。

私から言わせてもらえば、おもしろい人が一番に浮かんで来るんだけどな。


無言の問いかけにクッキーを口に放り込み、バックの上に置いた本をドンッとコーヒーがこぼれない様にカウンターに置いた。 キツネさんは「ふむ」と顎に手を当てて『考えてます』のポーズをとる。

「学校の図書館から借りてしまいました」

そういって何か書いてあろうけど全く読めない表紙をめくる。

中表紙には何も書かれていない。さらにめくっても全て白紙なその本。

「ふむ…これはこれは」

「何でしょう?」

嫌な予感がかなーりしますが、聞いておかないといけない気がして。


「随分ご立派な『主人公フラグ』を立てましたねぇ」

「……はぃ?」



甘いコーヒーはまだ温かさをもっているが、そんなのを飲んでいる状況ではなくなってしまった。

主人公フラグ…それは何もしなくてもトンデモなイベントに強制参加、多少の補正はアリかもしれないけれど、鬼畜な場合は死亡フラグも遠慮なく待ち受けている。

うん…明らかに私が好きな平穏とは程遠いよね。

「も、もしかしてココに来るまでやけに人と目が合ったり視線を感じたりしたのは…」

「えぇ、『主人公』だからです」

「でもなんで? 主人公だから目立つのはこの際認めるけどさ、それって身近なトコだけじゃないの?」

例えばハーレム設定の物語の主人公とヒロインたちだけ、とかさ。

「何言ってるんです、主人公に鈍感というオプションは付きモノですよ」

ガクッ

「…この本を返したらフラグも返却できますか?」

「無理ですね」

でーすーよーねー。

「返そうとしても『この本は我が校の物ではありません』とか言われて手放せないでしょうね」

「じゃあ捨てたら…?」

例え図書館の本とされても「無くしました」とちゃんとした手続きとかすれば問題ない筈。

通常ならば、の話。

「ホラーな展開、望みますか?」

いーやーだー。

ゴチン

木製のカウンターに額を押し付ける。 頭のすぐ側にあるであろう元凶にため息が出た。


そしてそのまま1,2,3で、ハイ。


「キツネさん」

「何ですか?」

ため息をついてそのまま悲観に暮れてもしょうもない。

顔を上げ、まっすぐキツネさんの顔を見る。

キツネ目の中にある真っ黒な瞳が私の茶色の瞳とぶつかる。

「どうやったら早く終われると思います?」

主人公という役目を負ってしまったからすでに「物語」が始まっている、もしくは待ち受けていると考えられる。 すでに「不可解な本を手に入れた」なんていう「イベント」が起きてしまったのだから。


つまり。 「物語」が無事終幕を迎えることが出来れば私の「主人公」という役目は終わり。

これまでの平穏な生活を過ごしてきた私に戻れるのだ。

「…そうですねぇ」

ブラックのコーヒーを一口。ついでに私も甘いのを一口。

「無駄にイベントを起こしまくって、早く結末へ近づくことですね」

スッと細長いきれいに整えられた指が何も書かれていない本をめくる。

私はただじっとその様子を見ていた。

赤い布製のハードカバーは擦り切れていて何が書いてあるのか読めない。

その中の何も書かれていない白紙がパラパラパラと。

「何も書かれていない本…これが始まりなら、白紙を埋め切れたら終わりでしょう」

「埋め切れたら、ねぇ…」

私を「主人公」なんていうポジションにした原因を睨む。

一見何て事のないその外見にムカつきが沸いてくるが、カバンに入らなかったり「重い」と感じることからソイツはムダに厚い、とてつもなく。 ムカつき度アップ。

「インクを垂らして真っ黒に」

「却下。 何が起きるか予測できません」

「他の人に差し上げる」

「却下。 すでに始まっているから他人に譲ることは出来ないでしょう。

 それに何かあった時のために手元にその本があった方が良いと思いますよ」

「むぅ・・・せめて白紙じゃなくて未来が書いてあるパターンならなぁ」

その通りに行くとは別にして、そのきっかけや流れを知っているといないでは大分違う。

『構え』という姿勢が取れれば対処もしやすいし、常に気を張らなくて良いからね。


トントン。

考え込んでいた私を現実に引き戻して、キツネさんはこう言った。

「未来日記、というのはどうでしょう?」

「はい?」

「ですから、これから起きることを本に書いてしまうんです。 

 未来をこちらで決められるなら心配は無いですし、ラクに埋められるでしょう」

書いたことが本当に起きるかはわかりませんが。とまぁ・・・何て素敵な方法でしょう。

「ノった!!!」

静かな喫茶店に私の声が響き渡る。

良かった、他にお客さんがいなくて。うん。


善は急げ!とかじゃないけれど早速実行することにした私。

カバンから筆箱を出し、中からボールペンを取り出す。 

何でシャーペンじゃないかって? 

消しゴムで消えるような文字だとこれから書く未来の信憑性が薄そうだな、と。

まぁあとは私がシャーペンよりもボールペンが好きなだけなんだけど。

「突拍子の無い事は書かないほうが良いですよ。 ちゃんと現実で有り得る範囲でないと」

「んーそれじゃあ明日の予定ぐらいでいいか。 

 学校に行って帰りにココに寄って家に帰りました、みたいな。

 まぁ試してみましょ、って感じで。 これでハプニングが起きれば書いても意味が無いって事だし」

「そうですね、取り合えずそのような感じであれば問題が起きない筈ですから」

では早速!

ボールペンを持ち、まずは何だろう…明日のことを書くのだから、5月14日、か。

カリカリ…?

「?」

「?」

カリカリ…カリカリ…ガリガリ…ッポイ。

「無理です」

書けない。

指で触った感じも見た感じも特に何ら特殊加工されていない普通の紙なんだけど、その上にボールペンを走らせても何もない。思いっきり力を入れても紙はへこみもしない、有り得ないただの紙だった。

最後は諦めてボールペンを投げた音。

「ということは…何らかのイベントが起きた後に文字が浮かんでくるとかでしょうかね?」

「ん~…もしかしたらさ、自分でそのイベントが起きた後にソレを本に書くんじゃないのかなぁ」

「……」


あれ?

甘いコーヒーに口をつけながら引っかかる。

「…今なんて言ったか思い出してみましょうか」

「『自分でそのイベントが起きた後にソレを本に書くんじゃないのかなぁ』、です」

やべぇ。

「もしかして私、やっちゃいました?」

「えぇやっちゃいました」

「や、やっちゃいましたか…」

やっちまったゼ!なんて決め付けている場合じゃない。



ここには物語の方向性を示すものがない。

主人公はどうすればいいのかというのとか、説明してくれる相棒もしくは脇役…そんな存在。

私がこの本を手にしてから物語が始まったとしたら、ここまでの登場人物は二人。

私とキツネさん。

けれど「どうしよう」の段階でそういった存在がいないとなれば大体が登場人物の誰かしらが言った台詞に「答え」が隠されているもので。

つまり。

私は「自分でそのイベントが起きた後にソレを本に書くんじゃないのかなぁ」が「答え」で、そうやって白紙を埋めるしかないということだ。 

イベントというのに完全に受け身であるこの状況はヤヴァいのである。



「…ハァ」

「まぁ今まで通りの行動しか取らなければ最低限のイベントしか発生しないでしょう」

「受けるのはやってくるモノのみって事ですか」

それがトンデもな事じゃなければ良いんですけれどね。

心の中でそう足してクッキーを何個か口に放り投げて甘いコーヒーで流す。

ふぅ。

口の中にモノが無くなったところでキツネさんと目が合う。


「残りのクッキー1枚、どちらが食べましょうか?」


…食べたければどうぞ。

私はあえて視線でそう答えた。




しばらくの間、私は白紙と向き合った。

一軒家である私の家は小さい二階建て。 両親と兄と私の4人暮らしなので特に小さいとは思わないし、ちゃんと兄妹各一室与えられているので不満は無い。 

現在自室の電気は消しており、机の上のスタンドライトのみが私と白紙を照らしている。

手に持っているのは「タヌキ堂」で書けなかったボールペン。

念のため先程メモ用紙に試し書きは済ませておいた。これでボールペンに問題なし。

「……」

何を書こう。

何の説明も無いこの状態で気楽に書けない。

まぁ自分の発言から今日のことを書くんだな、という答えはすでに出ていて。

つまりは「日記」に近いんだな。


そうとわかればペンが動く…わけではない。

自慢じゃないけど、私は「日記」は続けられない。

過去に書こうとして挫折したこと4回以上。 小学生の夏休み日記もある程度溜めてから書いていたし。

そんな私が「日記」を書けば途中で飽きて放置する。

例えそれが私を「主人公」に仕立て上げたとしても。嫌なもんは嫌だし。めんどい。


何だか段々イライラしてきた。

「あーもぅ!」

隣の部屋では両親が寝ているはずなんで、声は抑え目で。

それとは反対に、ペンは荒々しく動いた。

とにかく思ったことを書いていけばいいんだろう!


『書き始めは何にしよう…私は困ってしまった。

 徒競走でスタートしようとしたらピストルの音を待ちわびているのに鳴った瞬間走る気力が無くなったっていうか、さぁ頑張るぞ!って言ったら何を?と質問されて何だっけ?と答えてしまうくらい。

 んー何を書こうか、ね。 まずそもそもの始まりは『この本』だ。  』



書き始めてみると意外とスラスラ手が動いた。

学校の図書館で変な本を借りてしまった事、タヌキ堂でキツネさんと本について話した事…。


書き終わってから読み返してみるとキツネさんの名前(キツネさんも本名じゃないんだけど)しかないことに気づく。 慌てて私の名前を追加して、こう締めくくることにした。


『最後に。ちなみにコレを書いている私は 小鳥遊たかなし 小鳥ことりという名前。

 キツネさんからは小鳥さん、オーナーさんからはヒナちゃん(小鳥=雛鳥)

 学校の友達からは小鳥遊、小鳥遊さん、小鳥さん…さん付けが多い。

 家族からはヒナと呼ばれている。(オーナーと同じ発想)

 追記。

 但し、「ヒナ」と許可無しで呼ぶことは禁じます。    』



そうして本を閉じ、明日は何事もないよう祈りながら私は眠りに落ちた。


…って。何フツーに書けているのをつっこまないんだ、私。

 


本文は日記の内容か物語のそれかは読者さんの判断でどうぞ。


*8/4(木) 修正。

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