予定調和
セブルスが、夕食を恵んでもらいに孤児院を出た所で、買い物かごを持った私は、セブルスの目の前を横切る。
セブルスの、ハッとした感じが伝わってきたが、そのまま通り過ぎた。セブルスは、特に何もしてこない。翌日も、同様にセブルスの前を横切る。その次の日も…。
セブルスはまた会えると思っているだろうが、そこで一時中断だ。毎日会えると思っていたのが、突然会えなくなる。すると、どうだろう? 次に会ったら? その膨らみはち切れんばかりの欲望を利用するとしよう。
しばらく間を空けて再開すると、セブルスは、孤児院の前で通りの様子を伺っていた。いつものように目の前を通り過ぎたが、何もしてこない? こちらも余計な事はせずに、そのまま通り過ぎた。
翌日は、ちょっと仕掛けてみるか…。
セブルスの目の前を通る時、自然とセブルスと目が合うようにする。偶然、目が合った…演技をした私は、ニコリと笑いお辞儀をして、通り過ぎる。いよいよ明日は、決戦の日かな?
案の定、セブルスは、距離を開けて尾行する。私は、徐々に…街外れに向かい…人外から命を守るための結界の外に出る。結界…つまり街と外の境目は、街の端にある建物から、かなりの距離を開けて存在する。街の住民にしてみれば、人外の姿などは、精神衛生上良くないため、視野に入れたくないのだろう。
耳を澄ませば、セブルスは躊躇したように、結界の境目で止まってしまう。当たり前の行為だ。日が沈むと共に活動が活発になる人外と遭遇する危険があるのだから。だが、3歳児が躊躇なく外に出たのだ。しかも…人気の少ない…街の外に。それを見たセブルスも不思議に恐怖が消えていた。
私は、まるで食材でも探すように、キョロキョロと周りを見ながら、殺害ポイントまでセブルスを誘導した。
「どうしゅて? あとをつけてくりゅのでしゅか?」[どうして? 後を付けてくるのですか?]
突然、話しかけられたセブルスは、一瞬、動揺したが…ニヤリと不敵な笑みを返事とした。その股間は膨らみ…おいおい…3歳児に欲情してるのかよ…。
「へんたいはちね」[変態は死ね]
抑揚のない声で宣言する。そして、ある物をセブルスに投げた。
セブルスは、私のセリフと投げられた物に驚く。投げられた物とは…振動蛇だ。振動蛇とは、地面が擦れる音を発生させる者を敵とみなし、問答無用で攻撃する毒蛇である。
「お前…。まじかよ…」
問答無用で殺しに来た私に驚くものの、ここオーデル周辺では、メジャーな毒蛇であり、動かなければ攻撃されないことも周知の事実だった。セブルスは、足を動かさないようにして、偶然持っていた棒で、振動蛇の頭を潰すことに成功した。
「お、お前!! 殺されれも文句は言えねぇぞ? だが大人しく俺の女になれば…許してやる」
セブルスに凄まれ、ズリッと一歩下がる。その音に反応して、振動蛇が、私の足首に噛み付く。
「いちゃい!!」[痛い!!]
「おいっ!? ま、まじかよ…。お前…」
セブルスが、私を助けようと、近づく…。すると、4匹の振動蛇が、セブルスに襲いかかった。
そう…ここは振動蛇が、大量に生息している場所なのだ。丁度、セブルスが噛まれた地点を通る時、過去の盗賊時代に学んだ足運びのテクニックにより、振動が最小になるように通り過ぎたのだ。
セルブス殺害のシナリオはこうだ。投げた振動蛇で殺せるなら問題なかったが、万が一のために…わざと音を出し、自らを振動蛇に噛ませた油断を誘う。そして、変態だが根は優しいセブルスが、助けに来るように仕向ける。つまり私が振動蛇に噛まれ、動揺し周囲の警戒が散漫になることを狙ったのだ。
あまりにも予定調和であり、セルブスの恐怖に歪む絶望的な顔を見て、胸がすく思いがした。