滞在期間
死の標的の二度目の来店をマスターは心待ちにしていた。王都パシムどころかハイシンク国には長らく本格的な暗殺者がいなかった。前回の来店時に本物だと確認していたが、あの様な少女が、大衆の門前でここまで大掛かりな暗殺方法を実施するとは思ってもいなかったのだ。
黒のワンピースに黒の外套の少女が入店すると、店内の客達は氷の洞窟内で竜に睨まれているよな錯覚に襲われる。心臓が上手く鼓動せずに苦しみ倒れる者もいた。
「アイスミルク」とフードを脱いだ少女は小さな声で言った。
マスターからの提案により、現金で金貨100枚、残りは口座に振り込む。また一気に知名度を上げるため、三つ程度は依頼を受けて欲しいと頼まれる。知名度を上げる理由はわからないが、断る理由もなかった。
報酬を受け取り、新しい依頼を受けたセーラは、アイスミルクを飲み干すと席を立つ。すると、好奇心から小さな子どもがセーラの数歩手前で両手を広げ立ち塞がった。
殺害しようとする破壊と混沌を愛するセーラの魂に対して、中間的な魂に、正義と規則を遵守するアリーナの魂と、慈悲と慈愛を信じるフェリの魂が反対する。
セーラは、子供の前でしゃがみ「邪魔したら殺すぞ」と笑顔で言った。溢れ出す殺意に失神する者、発狂する者が続出する。目の前の子供は、白目を剥いて倒れていた。
「難しい…」
中間的な魂はより女性らしくを模索中だった。
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屋敷に帰ると、サーフェス・モンドリーが待っていた。情報通のサーフェス・モンドリーは役に立つため歓迎だ。当たり障りのない会話を進めたセーラは本題に入る。ちなみにサーフェス・モンドリーの本題は、アルデヴァー男爵についてだったが、面倒だから素直に殺害を認めておいた。
「私は、現国王ギャルド・ハイシンク三世と母マーガレットの隠し子で、真名をフォタムと言う。一度、父親と話してみたくてな。王宮に忍び込んでも良いのだが、正導騎士のアルベルトとかが護衛していて面倒が起こりそうだ。どうにかプレイベートで会う方法はないか? 謁見とか面倒なのも論外とする」
サーフェス・モンドリーが目を見開く。ここでフォタムの名が出てくるとは思っても見なかったのだ。何を隠そう…フォタムの母マーガレットは、サーフェス・モンドリーの腹違いの姉なのだから…。
その事実を聞いたセーラも驚く。
「時間がかかるし、会えるとも約束できませんが、是非、ご協力させてください」
「頼む」
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父と会えば、この国に滞在する必用もなくなる。その前に依頼された暗殺を片付けておきたいと、考えながら夕食を口にするセーラ。
ふと顔を上げたセーラは、給仕役のメイドに向って話す。
「味の変わらない中々高級な毒物を使っているが、私には効果ないぞ?」
毒が入っていると理解っていながらも、ムシャムシャパクパクと食べるペースは変わらない。青ざめる給仕役のメイド。いつも衣装を着る時に手伝うメイドじゃないな…。
給仕役のメイドは奥歯に仕込んだ毒薬で自殺を図ろうとするが、いつのまにか奥歯ごと引き抜かれ、セーラの指に摘まれていた。
「楽に死ねると思わないことだ」




