再出発
最高幹部から祝辞を受け、晴れて死の標的の幹部として認められた。五芒星の利害関係を著しく壊すこと、死の標的からの命令に背くことをしなければ、基本自由で良いと最高権力を持つ白髪の老人から言われたセーラは、今後のことを考える。
正導騎士の道を断ったためフォタムとして生きていくとは無い。フェリ姫ととして生きていくにも容姿が違いすぎる。ライライブの娘アリーナとしてこき使われるの苦痛だ。操り人形のマリオットに不老長寿の薬を飲まされたが、あれは本物なのだろうか?
そもそも何故か、何度死んでも、復讐のために統一歴766年10月4日に生まれ落ちる。しかし、この理由を失ってしまったセーラ。とりあえず貴族の記憶、騎士の記憶、薬草師の記憶、楽師の記憶、盗賊の記憶に加え、暗殺者の技術と神具を手に入れ…不老長寿になった? のだ。暇つぶしに、父親にでも会いに行って、それから自由都市ソリスアラムに戻ることにした。
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セーラはフォタムとして生を受けた大国ハイシンク国王都パシムに、実に11年ぶりに足を踏み入れた。
懐かしいも何も、今ままでの記憶の中にも、このパシムの記憶はないな。ここは全く復讐と関係のない場所なのだろう。
ここまで旅をしてきたが、懐事情的にはまだまだ余裕がある。いざとなれば他人を殺して奪えば良いのだが、無関係な一般人を殺害することは、正義と規則を遵守するアリーナの魂や慈悲と慈愛を信じるフェリの魂が邪魔をする。
しかし、死の標的として、暗殺で稼ぐのであれば、二人もそれほど文句は言わないだろう。五芒星がぶら下がるネックレスを胸元から出す。五芒星の中心に死神の鎌と3つの輪が重なる【波紋の鎌】と名付けられたセーラの所属を証明する神具の本体だ。
その五芒星を握れば、パシム内に根付く死の標的の拠点の方角が理解る。五芒星に導かれ歩いて行くと、王都の力を示す綺麗に整理された街並みから、王都の裏の顔を示す混沌に満ちた街並みに姿を変えていく。
黒のワンピースに黒の外套を羽織るセーラは、不思議と暗く不潔な街並みに馴染んでいたため、注目を浴びることもなく、拠点である一軒の大衆酒場にたどり着いた。セーラが外套のフードを深く被り、店内に入る。
セーラは注目を浴びないように抑えていた殺気を店内では解放していた。
この大衆酒場が死の標的の拠点であると、店内で酒を煽るように飲む連中は噂では知っていたし、そもそもここにいる連中は、窃盗、強盗、強姦、殺人、誘拐などに手を染めるような悪人しかいない。
さらに言えば、新たに誕生した死の標的は小さな少女であるという噂がまことしやかにささやかれていたが、その実態を見た者はいない。だが店内に入って来た小さな人物が本物であるのかを確かめようとする無謀な者はいなかった。
カウンターに座ると、注目を浴びる中フードを脱ぐ。流石に姿をそのまま晒す暗殺者はいない。神具の力により、ナチュラルボブの銀髪とマットシルバーの瞳の少女は、茶褐色の肌、腰まである長い黒髪、黒い瞳に姿を変えていた。
そして、五芒星がぶら下がるネックレスを胸元から出す。
カウンターで少女に対応するマスター。このマスターとて、ただの雇われマスターではない。その名を知らぬ者はいない裏社会で一線を戦い続けた歴戦の強者である。そのマスターが緊張した反応を見て、あの少女こそ、本物の死の標的だと店内が静まり返った。
「仕事はありますか?」場違いな子供の声が店内に響く。




