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説明は登場人物にさせる

 小説を読む際、読者が注目することといえば、やはり登場人物の動きではないかと思います。

 地の文では登場人物の動作くらいしか分かりませんから、登場人物の人物像がはっきりわかるのは、台詞の部分でしょう。

 読者は地の文で説明を読むよりも、台詞による登場人物のやり取りを楽しむ場合が多いです。特にライトノベルの場合は、登場人物が放つ独特の台詞が、おもしろさの重要な部分といえます。


 地の文での説明が多い小説というのも結構ありますが、例えばそれがビジュアルとして現れる場合――ドラマやアニメ、漫画になった場合、どうでしょう。

 地の文での説明というのは、アニメやドラマで言うと、ナレーターが話しているようなものです。ドラマやアニメでナレーターがずっとしゃべっているものというのは、あんまり無いと思いますし、逆にナレーターが一切無いもののほうが多いでしょう。


 小説では、その話の現在の状況や、能力や機能がある場合はそれがどんなものであるかを説明する必要があるのですが、ドラマやアニメで全部が全部「説明しよう! ○○とは~」とナレーターが話すことは無いでしょう。

 ではどうやって説明しているか。実際いくつかドラマやアニメを見てみると良いのですが、ほぼすべて登場人物が説明していることが分かると思います。

 手法としては、何も知らない主人公がいて、事情を知っている登場人物が今の状況を説明する、というのが一般的でしょう。

 知識のない主人公を読者に見立て、その主人公に説明を行うことによって、読者にも状況を説明するのです。


 どのくらい登場人物に説明させるか。基本的には、説明できることは登場人物が説明したほうがいいでしょう。台詞がある程度多いほうが、読者も楽しめますし。


 ちょっと例を出してみます。私の小説「幸運販売代行店」の一節より。


【幸運販売代行店(原文)】


「今日も順調ね~♪ で、今月の売上は?」

「……マイナス35年6ヶ月でふ」

「あら……最初の『まいなす』っていうのは余計じゃなくて?」

「大体お姉ちゃんは買取ばかりでぜんぜん販売できてないのがいけないのでふ」

「いや……それは客任せだから……」

 先月の売上は12年1ヶ月でぎりぎりといったところらしい。

 案外幸せを求めてやってくる人は少ないようだ。

「先月もいたずらでやってきたガキどもから手数料取り忘れたでふ。だからお姉ちゃんの寿命から差し引きしておいたでふ」

「あぁぁぁ! 私の寿命がぁぁぁ!」

「今月赤字だったらその分お姉ちゃんの寿命で穴埋めするでふ」

「……妹よ、私を殺す気か」

 今のところ赤字ということは無いが、基本的に寿命のやり取りというのは経営者であるアティカかカルチェの寿命により支払われる。

 よってあまりに買取が多すぎると、寿命赤字により姉妹の寿命が尽きて死んでしまい、経営破綻に陥ってしまうのだ。

 ちなみに「手数料」とはいわゆる「入場料」と同じことである。開店当初、あまりに自分の寿命、もっている幸せを知ろうとしただけの客が多かったため、とりあえず入場した人からは1回あたり「100日」の寿命を手数料としてもらっている。

 契約書同様、手数料帳というものがあり、これに書き込むことで相手の寿命を「手数料」という形でもらうことができる。姿がイメージできればいいので、別にあだ名で書いても問題ない。



 大学生時代に書いた作品で、「台詞が長すぎるとくどいかな」と思い、説明を地の文にいくつか逃しています。

 しかし、他の人に読ませると、「せっかくキャラのやり取りが続いていたのに、突然説明がナレーションになって『誰だ、お前!』という気分になった」とのこと。

 ということで、ナレーション部分の説明を、登場人物に解説させてみます。


【幸運販売代行店(改案1:ナレーション部を登場人物の台詞に変える)】


「今日も順調ね~。で、今月の売上は?」

「……マイナス35年6ヶ月でふ」

「あら……最初の『まいなす』っていうのは余計じゃなくて?」

「大体お姉ちゃんは買取ばかりでぜんぜん販売できてないのがいけないのでふ」

「いや……それは客任せだから……」

「先月の売り上げは12年1ヶ月でぎりぎりだったんでふよ? そんな体たらくでどうするのでふか?」

「いやだから、幸運を買ってくれる客が案外少ないんだって」

「先月もいたずらでやってきたガキどもから手数料取り忘れたでふ。だからお姉ちゃんの寿命から差し引きしておいたでふ」

「あぁぁぁ! 私の寿命がぁぁぁ!」

「今月赤字だったらその分お姉ちゃんの寿命で穴埋めするでふ」

「……妹よ、私を殺す気か」

「そうならないために、必死に営業するんでふね。買取で必要な寿命は、私たちの寿命から出されてるんでふから。幸運を買い取りすぎて寿命赤字になると、経営破綻で私たちは死んでしまうでふよ?」

「ま、まあ、今のところ赤字じゃないんだし……」

「はぁ、そういう甘い考えがあるから、手数料を取り忘れるんでふよ。これをつけ始めたのは何のためか、分かっているでふか?」

「分かってるわよ。最初は自分の寿命とか幸せとかを知ろうとするためだけに来る客が多かったからね。だから、とりあえず来た人からは100日の寿命をもらうことにしたのよね」

「そうでふよ。大体、手数料取るのはこの手数料帳に書くだけじゃないでふか。あだ名でもいいのに、こんなことで忘れるなんて、経営者失格でふ」

「うぅ……」



 全て台詞に変えましたが、さすがにこれだけ台詞が続くと疲れるのではないかと思います。そういう場合は、キャラの行動や、周りの動きを地の文として、台詞の間にところどころ挟んでみます。


【幸運販売代行店(改案2:登場人物の行動をところどころ入れる)】


「今日も順調ね~。で、今月の売上は?」

「……マイナス35年6ヶ月でふ」

「あら……最初の『まいなす』っていうのは余計じゃなくて?」

「大体お姉ちゃんは買取ばかりでぜんぜん販売できてないのがいけないのでふ」

「いや……それは客任せだから……」

 アティカはテーブルの上にある契約台帳をカルチェに見せる。ほとんどが買い取りの契約だ。

「先月の売り上げは12年1ヶ月でぎりぎりだったんでふよ? そんな体たらくでどうするのでふか?」

「いやだから、幸運を買ってくれる客が案外少ないんだって」

「先月もいたずらでやってきたガキどもから手数料取り忘れたでふ。だからお姉ちゃんの寿命から差し引きしておいたでふ」

「あぁぁぁ! 私の寿命がぁぁぁ!」

「今月赤字だったらその分お姉ちゃんの寿命で穴埋めするでふ」

「……妹よ、私を殺す気か」

 深刻そうな顔を見せるアティカに対して、当然、といった顔を返すカルチェ。アティカの持っていた台帳をふと取り上げると、赤字で記載されている部分を指差す。

「そうならないために、必死に営業するんでふね。買取で必要な寿命は、私たちの寿命から出されてるんでふから。幸運を買い取りすぎて寿命赤字になると、経営破綻で私たちは死んでしまうでふよ?」

「ま、まあ、今のところ赤字じゃないんだし……」

 両手を広げ、大丈夫だから、とアティカはカルチェをなだめようとするが、楽観的な姉の態度に、カルチェはため息をついた。

「はぁ、そういう甘い考えがあるから、手数料を取り忘れるんでふよ。これをつけ始めたのは何のためか、分かっているでふか?」

「分かってるわよ。最初は自分の寿命とか幸せとかを知ろうとするためだけに来る客が多かったからね。だから、とりあえず来た人からは100日の寿命をもらうことにしたのよね」

 本当に分かっているのか? という顔を見せるカルチェ。手に持った手数料台帳をアティカに見せ付ける。

「そうでふよ。大体、手数料取るのはこの手数料帳に書くだけじゃないでふか。あだ名でもいいのに、こんなことで忘れるなんて、経営者失格でふ」

「うぅ……」

 カルチェの一言に、アティカはがっくりと肩を落とした。



 これで結構読みやすくなったのではないでしょうか。


 例題では、一気に解説を行っていますが、しつこいと思った場合は、現在必要な情報のみを説明させ、残った部分を少しずつ説明させていくと良いでしょう。


 地の文で説明しても良いですが、読者としては、このように会話で説明を入れるほうが、小説の世界に入りやすく、理解しやすいでしょう。ただ、全部が全部登場人物に説明させるのはやりすぎですし、「登場人物に説明させ過ぎるな」という意見もあります。

 一度、既存の小説と自分の小説を読み比べ、どのように読者を自分の世界に入り込ませるか、研究してみるとよいでしょう。

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