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時間操作の魔術師になる

 大そうなタイトルですが、あまり中身は大したことが無かったりします。


 タイトルにあるとおり、小説内で流れる「時間」の感覚は、作者と読者の捉え方を一致させるのは難しいものです。

 作者は作っている側なので、「こういう風に時間が進んでいる」というのを考えながら作ると思います。ただ、それがそのまま読者に伝わるとは限りません。作者は「かなり時間が経った状態で登場人物がしゃべりだしている」と考えていても、読者は「あまり時間が経っていない間にしゃべりだした」と思っているかもしれません。


 読者が時間を感じるのはどういう時か。実際小説を読んでみると分かるのですが、読者は「読んでいる時間の長さ」を、「物語での時間の経過」と捉えることが多いのではないかと思います。

 つまり、長い時間を経過させようとすれば、それだけ長い文章が必要となります。


 ちょっと適当な例文を出してみましょう。


「ねえ」

「ん、何だい?」

「こうして二人でいると、なんだか時間が経つのが早いと思わない?」

「そうだね。さっきまで青かった空が、もうあんなに赤くなってる」

「きれいね」

「君のほうがきれいだよ」

「あら、うまいのね」

「さて、そろそろ帰ろうか」

「そうね」


 この例のように台詞だけだと、すごいマシンガントークした後に颯爽と帰っていく姿が想像できます。せっかくのロマンチックな雰囲気が台無しです。二人でいなくても時間が経つのが早すぎです。

 間に地の文を挟まないと、このように二人がガンガンしゃべっているように見えます。スピード感やテンポアップするためには、地の文を少なくするのがよいですが、ゆっくりとした時間を作りたいときはもっと地の文を入れる必要があるでしょう。


 ちょっと地の文をはさんでみます。


「ねえ」

 メグミが小さな声で呟いた。

「ん、何だい?」

 その声に応じるように、タカシは座っているメグミの方を見る。

「こうして二人でいると、なんだか時間が経つのが早いと思わない?」

「そうだね。さっきまで青かった空が、もうあんなに赤くなってる」

 遠く空を見る。先ほどまで青かった空が、すっかり茜色になってしまっている。

「きれいね」

 沈む夕日を見ながら、メグミが呟く。

「君のほうがきれいだよ」

 夕日を見つめるメグミをなでながら、タカシはそっと耳元でささやいた。

「あら、うまいのね」

 その言葉にテレながらも、嬉しそうな顔をするメグミ。

「さて、そろそろ帰ろうか」

 タカシが腕時計を見ると、時刻はもう六時。そろそろ帰らなくては、真っ暗になってしまう。

「そうね」

 タカシが立ち上がると同時に、メグミも立ち上がる。そうして、二人は車へと向かって行った。


 先ほどよりはゆっくりとした感じがしますが、台詞の間で経過した時間が、どこも同じで変わり映えが無いような気がします。


 時間を経過させたいところで情景描写をたっぷり書いてみます。


「ねえ」

 メグミがタカシに向かって、小さな声で呟いた。涼しげな風が、メグミの前髪と草の葉をなでて通り過ぎる。

「ん、何だい?」

 その声に応じるように、タカシは座っているメグミの方を見る。髪の毛につけたブローチが太陽光を反射し、きらりと輝く。秋風が容赦なく冷たく、そして優しい。

「こうして二人でいると、なんだか時間が経つのが早いと思わない?」

 吹いていた風が一瞬止む。メグミの顔を眺めながら、タカシは笑みを浮かべる。

「そうだね。さっきまで青かった空が、もうあんなに赤くなってる」

 そういってタカシは、草原から遥か遠くの空を見る。先ほどまで青かった空はすっかり茜色になり、二人が座る草原までも染め上げていた。

 長短様々な草花達は、風に揺られてまるで手を振っているようにも見える。幾度も吹いては止む風にメグミは時々身震いしながらも、沈み行く夕日を眺めていた。小さな悠久の時の中で、メグミは思う。こんな時間を、いつまで過ごすことが出来るのだろうか。

「きれいね」

 沈む夕日を見ながら、メグミが呟く。キラキラと揺れる横髪が、いつもよりも色っぽい。

「君のほうがきれいだよ」

 そんなメグミの横顔を見ていると、つい頭をなでたくなる。タカシはメグミの小さな頭にそって手をあて、ゆっくりとなでた。

「あら、うまいのね」

 その言葉にテレながらも、嬉しそうな顔をするメグミ。タカシが手を離すと、メグミはゆっくりとタカシの肩に寄りかかった。

 夕日は最後の赤い光を放ちながらも、徐々にその光を弱めていく。やがて訪れる闇に出番を譲るかのように、ゆっくりと自らの舞台に幕を下ろしていく。赤い空は徐々に青黒くなっていき、夜の帳が降り始める。

「さて、そろそろ帰ろうか」

 タカシが腕時計を見ると、時刻はもう六時。このあたりは日が落ちると、暗くなるのが早い。そろそろ帰らなくては、あたりが見えなくなってしまう。タカシはゆっくりと肩に寄りかかったメグミを起こすと、すっと立ち上がった。

「そうね」

 タカシが立ち上がるのを見届け、メグミも立ち上がる。闇色に染まりそうな空を後にして、二人は車へと向かった。


 時間経過を長くしたいところに文章を多く入れると、時間経過がゆっくりとした感じになると思います。情景描写も、最初に一気に書いてしまうのではなく、このように台詞の間に織り込んでいくと、風景の変化なども取り入れられて一石二鳥です。


 こうして、文章によってうまく時間経過を操ることで、メリハリのついた文章になると思います。

 うまく情景描写や心理描写を取り入れ、メリハリのある文章を作るよう心がけてみましょう。

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