ストーリー作成のヒント――ピンチからの大逆転要素
物語最大の見せ場の一つとして、「主人公が絶体絶命のピンチを乗り越える」場面が挙げられます。
さまざまな攻撃手段、脱出手段を封じられ、どうあがいても切り抜けられそうにない状況。主人公はいかにして切り抜けるのか? 作者の技量が試されるところです。
まずピンチになる舞台を整えなければなりません。そのためには、主人公にはどれくらいの能力があり、どのくらいの能力を持つ仲間がいて、相手はどのくらい強い敵で、どんな場所で戦っているのか、といった知識を読者に与える必要があります。
幾多の敵を倒し、たくさんの仲間の支援がある。それでも、いかなる手段を用いても倒せない敵。そういう場面を作り出せば、「あんだけすごい主人公でもダメな敵に、一体どうするのだ?」と思わせることができるでしょう。
戦闘でなくても、例えばいかなる通信手段も使えず、抜け道のない密室からの脱出、という場面もあり得ると思います。
緊張の場面を作るには、緊張させる舞台づくりから始める必要があります。
この舞台づくりも結構バランスが絶妙になります。
あまりに抜け道が多いと、読者が逆転手段を予想で来たり、あまりピンチではないと感じて、「なんだ、やっぱりこうなのか」とか、「え、こうでもいいんじゃないの?」と思ってしまいますし、あまりに完全なピンチすぎると、今度はピンチを切り抜ける手段が無くなってしまいます。
たった一点、「この方法しかない!」という方法を、読者に見破られないように作るのはなかなか大変です。
さて、ピンチの場面を作ったら、次は逆転の手段です。
マンガやアニメ、小説やドラマをたくさん見ている人はわかるかもしれませんが、逆転の手段にはいくつかパターンがあります。
・現行能力よりも大きな力を得る
今持っている能力で倒せなければ、より大きな力を使えばいい、という単純な発想です。
力を得る方法も様々で、例えば元からパワーアップする予定があって、そのタイミングが戦闘中だった、とか、パワーアップできる要因はあって、敵の攻撃や何らかのきっかけでパワーアップする、と言ったものもあります。
あるいは、何かのヒントを得て、相手の弱点となるような必殺技を生み出す、と言うパターンもあります。
いずれにせよ、こういったパターンにおいては、「パワーアップするための条件、タイミング」が、「このタイミングでなければならない」と、読者に納得できるような伏線や物語の作り方が重要となります。
ただいきなり主人公が脈絡なしに強くなってしまっては、「え、なにこれこんなのあり?」と読者を落胆させる結果となってしまいます。
・援軍がやってくる
仲間がやって来てピンチを救ってくれる、というのも、よくあるパターンです。
基本的には、主人公が持っている能力だけでは太刀打ちできないが、ある特定のキャラクターであれば互角以上に戦える仲間がいる場合、ということが挙げられます。
あるいは、相手の人数が多く、味方の人数が少ない場合に、たくさんの仲間がやってきたり、多人数攻撃可能な武器や技を持った仲間が来る、というパターンもあります。
他にも、味方にならなさそうな、以前戦った敵が味方になる、というパターンも、バトル物ではよく使われます。
物語序盤のピンチだと、最初の方に挙げた仲間が助けに来てくれるパターンが使えますが、物語終盤のシーンでは、出来れば登場した仲間を全員出してもかなわない敵を作り、「誰が来ても無理だろう」といった状況で、昔戦った敵が登場する、といったようにしたほうが盛り上がるでしょう。
スタンダードな方法ですが、うまく取り合えわせることにより、ピンチ脱出と同時に感動の再会、といった場面も演出できるでしょう。
・相手の弱点を突く
RPGの世界では、どんなに強い敵でも、何かしらの弱点があります。
特定の属性の呪文に弱かったり、特定の部位に攻撃されると大ダメージを与えられたりと言うように、「倒すための切っ掛け」がどこかにあります。
弱点にもいろいろあって、特定の魔法や武器に弱かったり、特定の部位が弱かったり、特定の時間に弱かったり、特定の人物に弱かったりと様々です。
また、弱点を露呈する方法や、見つかるきっかけも様々です。メジャーなのは、強力な必殺技を撃った直後に、弱点部位をさらけ出してしまう、あるいはエネルギーを大量に使うために次の攻撃までに隙ができる、といった感じでしょうか。
いかに弱点を見つけるか、また弱点がわかっていても、どのようにして弱点を突くか、という登場人物と相手とのやり取りが重要となるでしょう。
また、弱点と思わせて実は違うものが……という展開も望めます。
・相手の能力を無効化する
ピンチの元凶は、相手が持っている厄介な能力が原因であることが多いのです。
圧倒的な戦闘力を持つ、チートな権限を持つ、主人公の能力と相性が悪すぎる能力を持つ、心理的な要因が邪魔している、人質などで攻撃できない状況にある。こういった状況の場合、敵の持っている能力や、主人公の戦闘意思を阻害している物を取り除くことで、ピンチを脱する、という方法があります。
例えば、相手の能力の源を破壊する、駆使している権限を無くす、相性の悪さを別の能力で補う、人質を救う、主人公たちが守りたいものを破壊する起動源の機能を失わせる、といった感じです。
異端なものだと、こちらが悪役になる、例えば、相手の大切なものを人質に取ることで攻撃させないようにする、と言った方法もあります。
能力さえ封じてしまえば、後はどうにでも処理をすることができるでしょう。
この方法の問題は、「いかにして相手を無力化させるか」でしょう。
そうそう無力化できない状況でないと、あまりピンチという感じにはなりませんから、初めに「こういう逆転手段を使う」ということを、相手の能力を設定した時点で決めておいた方がいいでしょう。
・相手と立場が逆転する
相手が使っている能力を、自分が使えるようになる。相手の手下が裏切って自分の味方につく。
このように、相手が圧倒的有利な立場になっているのを、そっくりそのまま逆転させてしまうパターンです。
なかなか「そっくりそのまま」という状況を作り出すのは難しいですが、要するに相手のお得意芸をこちらが使ってしまい、相手に使えなくさせるのです。
先ほどの「相手の能力を無効化する」に似ていますが、うまく設定すれば面白い逆転劇になるでしょう。
・相手の力や相手がセッティングした舞台を利用する
世の中には「諸刃の剣」という言葉があり、強い力を持つことは逆に自分をピンチに追い込む爆弾にもなりえます。
主人公の敵役となる登場人物にはずる賢い奴だったり、卑怯な奴だったりする奴が多いと思います。そういう登場人物こそ、策を巡らしすぎて失敗する場合が多いのです。策士策に溺れると言う奴です。
例えば、ものすごい強力な武器を持ってしまったばかりに、実はその武器が弱点になってしまうとか、念のために張り巡らせた防御網が、結果として脱出するための足かせになってしまうとか、自分で仕掛けた罠に自分で引っかかる羽目になるとか、そういう感じです。
ほかにも、相手自らが設定した条件によって自滅する、というパターンもあります。
他のピンチ脱出方法と組み合わせると面白いのですが、このパターンだけで解決できるような主人公であれば、かなり知的なやり取りが展開できると思います。ただ、かなり上級テクニックになるため、相当緻密なプロットが必要になると思います。
・相手を改心させる
今まで敵だった相手が仲間になる、と言うのはよくある話ですが、実際に味方にするためにはなかなか苦労するものがあると思います。
味方になるかどうかは、大半は登場人物の心情によります。つまり、能力の有無や力の強さではなく、心の強さや主人公の人柄、説得などによって心情が変化し、「味方になりたい」と思うようになるでしょう。
もちろん、戦った結果、強さを認めて仲間になるケースもありますが、それでも事前に何らかの心理的やり取りがあるでしょう。
もともと敵だったものを味方にするのはよいですが、仲間だった登場人物が敵になり、それを改心させようとする話も、結構あります。
この場合、「敵がもともと味方だったことで攻撃をためらう」という心理的拘束をかけ、主人公を追い込むことに一役買えます。設定自体が、主人公のピンチなのです。
そのほとんどが、声をかけても話を聞いてもらえない、説得することが困難な状況でしょうから、どうやって相手を説得するか、どのように心を取り戻させるか、ということがポイントとなるでしょう。
絶体絶命のピンチからの逆転劇は、物語を盛り上がらせる必須要素。いろんなピンチ脱出パターンを考え、しっかりとしたプロットを組んでおかなければ、読者を感動させることは難しいでしょう。