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4-3ロザリオ


 その日の夜。

 リリアナが閉じ込められていた部屋の外で、なにか音がした。



 はっと顔を向けると、入ってきたのは剣を携えたオスカーだった。

 護衛もなく、単身での乗り込み。



「なぜここが……」


「お前の父に聞いた。詳細は後だ」


 オスカーはリリアナの縄を解くと、赤くなった跡に顔を歪める。


 本当はリリアナは、ほっとして泣いてしまいたくて、そして抱き締めてほしかった。

 だけど、やっとの思いでそれをせき止めた。



「こんなに簡単に入ってこれるなど罠に違いありません」



「……それでも構わん」


「……王には、民を守る義務がお有りです」


 それでもオスカーに縋りたくなる気持ちに蓋をする。油断するとすぐに溢れ出してしまいそうだった。


「お願いです、今からでもお一人でもどってくださ――」

  

 言いかけた言葉は、オスカーの唇に塞がれた。


(あ……)

 思いがけず与えられた熱に酔う。出かけた吐息は唇の隙間からわずかに漏れた。

 口づけを終えた彼は、強くリリアナを抱きしめる。


「頼むから馬鹿なことを言うな……お前なしでどう生きろと言うんだ……」


 手が震えている。

 この人は――


 リリアナの理性はあっという間に押し流された。

 手を回し、力の限り抱きつき返した。

 たくましい胸に、このままさらわれてしまいたい。

 

 足手まといになるのは分かっているのに、オスカーの揺れる瞳を見ていたら胸が締め付けられて、

 一人で戻ってほしいとはもう言えなかった。


「大丈夫だ。近くには置けなかったが、軍を待たせている」


 オスカーに手を強く引かれ、部屋を出た。


 

 燭台の明かりだけの地下回廊は不気味なほど静かだ。


(見張りがあれだけなんて、やっぱりおかしい……)



 地上へと続く階段を登ると、やはりと言うべきか、リタ王と近衛兵数十名が待ち構えていた。

 

 国王は悠然と言う。


「まさかその日のうちにお越しいただけるとは……光栄だよ」



 国王を睨み付け、オスカーは剣を構える。


「条件は……?」


「エルジオの天然資源の採掘権を、永久にリタ国にいただきたい」


 それは、エルジオの死を意味していた。

 到底受け入れられるはずもない。


 

「いくらオスカー王でも、王妃を庇いながらこれだけの人数を相手にするのは無理だろう。それとも……」


 国王は面白そうに言い放つ。


「採掘権の代わりに、王妃でも構わないが?」


「減らず口を……」


 オスカーの殺気を感じ取ったリリアナは、なんとかしなければと焦る。


(せめて、エルジオ軍に知らせることができれば……)


 だが、軍がここまで突破するにはリタ国の軍と衝突しなければいけない。


(やはり……どうにか切り抜けるしか)


 リリアナは喉元に手を置き、息を整える。

――リゾナヴォイス《共鳴する声》。この力で、なんとか状況を打開できないだろうか。


 


「歌は、駄目だ」

 リリアナの気配を察したオスカーが、振り返り小声で(いさ)める。



「おやおや、最後のお別れか?」


 国王の挑発に、オスカーは毅然と睨み返す。にわかに瞳が赤く燃え、全身から光がほとばしる。


 空気が震え、床までが微かに揺れた。



 国王は(はか)ったような笑みを浮かべ、近衛兵たちが、光る盾を前に突き出す。


――何かがおかしい


「オスカー様、駄目――!!」


 リリアナの声も届かず、オスカーから放たれた魔力は、盾に向かう。


 轟音とともに光が鋭く跳ね返され――

 リリアナはオスカーの手を握り、息を呑んだ。



 次の瞬間、二人は後方に吹っ飛んでいた。



「オスカー様……?」


 もろに壁に打ち付けられたリリアナは、頭を押さえて起き上がる。

 横にオスカーが倒れている。

 全ての力を受けた彼は、ぴくりとも動かなかった。

 青ざめるリリアナを、国王の声が追いかける。



「大事な交渉相手だ。殺すようなことはしない。ただ、次はどうかな――?」



 嘲笑うような声。


(私のせいだ……私が、オスカー様の傍にいたいと願ってしまったから……)


 リリアナは、自分の中でタガが外れる音がした。


「許さない……」


 国王も、ふがいない自分も、すべてが許せなかった。


 ロザリオを握ったリリアナは歌い出す。声が、低く、地を這うように、己を呪うように響き渡る。



「……歌だと? こんなときに……」


 言いかけた国王は、突然手に胸を当てて苦しみ出す。


「リタ陛下っ……う……」


 駆け寄る近衛兵たちも次々に倒れていく。

 それを見ても、リリアナの心は何も感じなかった。


 力が満ちていく。制御できない。

 支配される心地よさ――恐ろしいことをしているはずなのに、自分が笑みを浮かべていることに気づいた。


 このまま身を任せてしまいたい。

 そう思ったとき――




「リリアナ様!!」


 ユリウスの声とともにエルジオ軍がなだれ込む。立っている者がリリアナだけとわかり、兵士たちは呆然と立ち尽くす。



「これは一体……」


 状況がつかめないユリウスをよそに、リリアナは我に返る。



(私は……なにをしたの?)



「うぅ……」

 敵のうめき声が聞こえる。

 どうやら命は奪わずに済んだようだ。


(そうだ……オスカー様は……)


 冷たくなったオスカーの手を握り、呼びかける。返事がない。


「オスカー様、オスカー様!!」

 激しく揺さぶるも、糸が切れたように動かないオスカー。


――このまま遠くへ行ってしまうの?


 どうにかしなければと、再びロザリオを手に取るも何も感じない。

 先ほどので力を使い切ってしまったのだろうか。それともオスカーの力が弱まったせいなのか、


「いや、いや……オスカー様」


 縋り付いて離れないリリアナを、ユリウスがなんとかなだめる。 


「落ち着いてください、ひとまず安全な場所へ」


 リリアナはオスカーから引き剥がされた。それでもユリウスの手から逃れようとするリリアナに、ユリウスはため息を付いた。


「仕方ありませんね……」



 ユリウスが手をかざすと柔らかい光が出る。がっくりと膝を折るリリアナを、ユリウスはしっかり抱きとめた。


「すみません……私にできるのはこれくらいです。少しでもおやすみください……」



 

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