3-9 わたしの答え
リリアナが目を覚ますと、隣にオスカーが寝ていた。
彼の手を取ると少し冷たかったが、呼吸や顔色は悪くない。
どうやら、リリアナに魔力の一部を送ったせいでダメージを受けているようだった。
毛布をかけ直すと、彼のまぶたがぴくっと動く。
「オスカー様、わかりますか?」
「……あぁ」
彼はゆっくり上半身を起こした。
リリアナは思わず抱きつくが、オスカーは冷静にその身を押し返した。
「俺は、そんなことをしてもらう資格はない」
辛そうな顔。彼が自分の過ちを悔いていることは、聞かなくてもすぐに分かった。
リリアナは首を振り「私がこうしたいんです」と頼むが、オスカーは喉から絞り出すように言う。
「それは……恐怖に縛られているだけだ」
リリアナの胸がぎゅっと締め付けられる。
「違います……。私はオスカー様のことを……」
出会って間もないが、常に気遣って優しさを与えてくれた。リリアナの王妃としての働きを認めてくれた。
なにより、歌で時を共有した。
ホワイトムスクのアロマに包まれた日、あの時に自分の気持ちは決まっていた。
「守ろうと、してくれたんですよね……?」
溢れる想いが、涙となって頬を伝う。
リリアナは、恐怖にとらわれた隠し書庫での口づけをやり直すように、オスカーを抱きしめる。
触れるだけのキス。
すぐに唇を離すと、首に手を回したままオスカーを見つめた。
「これが、私の答えです……」
それを聞いたオスカーは目を見開くが、すぐに口づけを返してきた。
(これが……思いが通じ合うということなの?)
家族の愛を知らずに育ったリリアナ。その心のひび割れが、深い口づけの熱と、ふわふわした感覚で埋まっていく――
しばらくそうしていたが、何度も口づけられ、リリアナは段々、朦朧としてきた。
息を吸おうと堅い胸を押すが、頭を押さえられて動けない。
「んーん……っ!」
拳を握り、どんどんと胸を叩くとやっと解放してくれた。リリアナは新鮮な空気を吸い込み抗議した。
「苦しいです!」
「悪い……つい……離れがたく……」
照れたような顔が可愛くて、リリアナは尖らせた唇から、小さく笑い声を漏らした。
釣られるようにオスカーも目を細める。
彼の雪解けのような笑顔に、心がくすぐられる。
「もう決して、力で支配したりしない……」
懺悔だけではない、決意がにじむ声だった。
(この人は、私を傷つける度に……自分を傷つけてきたんだ……)
心の棘を抜くように、二人は手を重ねる。
それからは、すれ違っていた時を取り戻すようにいろいろな話をした。
ユリウスと兄弟のように育ったという話から、話題はオスカーの母のことに移っていた。
リリアナは、大体のことは侍女の噂話で知っていた。
彼の母は他国から来た王妃で、隠れるように歌う繊細な女性。しかしオスカーの父親に愛されず、最後は国同士の戦争の時に、人質として処分された。
怖くて聞けなかったこと――リリアナは意を決して口にする。
「私は……お母様と似ていますか?」
オスカーは「いいや」と首を振り、はっきり言い切った。
「似ていない。初めは、歌という共通点からそう感じたこともあったが……
リリアナは自分で乗り越える強さがある」
「そうですか……?」
「あぁ、あの高さから、即席ロープで逃げ出すとは思わなかったからな」
リリアナが苦笑すると、彼の手が頬に触れ、ブロンドの髪を愛おしそうに揺らす。
「なにより、その歌声に魅せられてしまった。恐らく、初めて聴いたときから――」
何度目かの口づけを受け入れる。リリアナが甘い息を零すと、今度は早めに解放してくれた。
それがどこか物足りなくて、リリアナはゆっくり身を預ける。
熱く脈打つ彼の心音が、溶け合って一つになっていった。
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第二章完▶第三章へ続く




