52 ドルデン皇帝と取引きしてみた
「お久しぶりです。ドルデン皇帝」
俺は腹を括ってドルデン皇帝に答える。
「なぜ、ザカルド6世殿がここにいらっしゃるのですか?」
明らかにドルデン皇帝は不審そうな表情になる。
ここで下手な答えをしたら国同士の問題が起きかねない。
「勝手にアイデ帝国に入国したことはお詫びいたします。実はどうしても西大陸のセラフ法王国にお忍びで行く用事ができまして」
「お忍びでセラフ法王国に?」
「はい。今回ジルヴァニカ帝国はセラフ法王国を始めとする西大陸との交易を結ぼうと考えているのです」
「西大陸との交易ですか?」
「このアイデ帝国はセラフ法王国と友好国なのは知っています。同じようにジルヴァニカ帝国も西大陸の国と交易を結びたいのですがそれにはまず西大陸の国々の素顔を知らなければなりません」
「それは分かりますがその為にわざわざ貴方が一人で西大陸へ行くのですか?」
ドルデン皇帝は半信半疑のようだ。
「はい。ジルヴァニカ帝国の皇帝として正式訪問も考えましたがそれではその国の素顔は見えません。それにジルヴァニカ帝国の皇帝が国を長期不在にすれば中央大陸の他の国が良からぬことを考えることもあるでしょう」
俺はドルデン皇帝の目を真っ直ぐに見つめる。
ドルデン皇帝は僅かに目を細めた。
「それは貴方がいない間にジルヴァニカ帝国に攻め入る国があるかもということですか?」
「そうです。なので私は現在表向きは病気療養中ではありますがリリアンに居ることになっています」
「ふむ。確かにそう私も聞いています。ザカルド6世殿は感染症で病気療養中と。しかしその話が本当だとして私にこれから貴方が西大陸に行くことを話してしまったらこの私がジルヴァニカ帝国を攻めるかもしれませんよ?」
挑むような視線をドルデン皇帝は俺に向ける。
俺はニコリと笑みを浮かべる。
「ですから私と取引きしませんか?」
「取引き?」
「私のことを黙っていてくれる代わりにもし西大陸と交易を結ぶことになったらその時はこのアイデ帝国を中継地点に致します。そうすればアイデ帝国にも利益が出ると思いますが」
「ふむ……」
「ジルヴァニカ帝国と戦をすることよりジルヴァニカ帝国と一緒に利益を得た方が戦で犠牲を払わずに済む分アイデ帝国にも良い話かと思いますがいかがですか?」
俺の言葉にしばらく考え込んでいたドルデン皇帝だったがやがてニヤリと笑みを浮かべた。
「確かにその方がアイデ帝国にとっては利益がありますな。ジルヴァニカ帝国と戦をすればこちらもただでは済まない。いいでしょう。ここで貴方と出会ったことは秘密にしますしジルヴァニカ帝国を攻めることはしないと誓いましょう」
よし! とりあえず無事にドルデン皇帝を丸め込めたな。
それにこれは完全に嘘とは言えないし。
俺は皇帝時代に西大陸との交易を結ぶ計画を立てていたのは事実だ。
そのことはラッセンド宰相も知ってるしその際はアイデ帝国を中継地にしようと考えていた。
セルシオに西大陸との交易を結ぶことになったらアイデ帝国を中継地にするように進言しておけば大丈夫だよね。
西大陸とジルヴァニカ帝国を結ぶにはこのアイデ帝国かユフラーナ王国かのどちらかを通らねばならない。
ユフラーナ王国よりはアイデ帝国の方がジルヴァニカ帝国の皇都リリアンに近いからジルヴァニカ帝国としても得になるのだ。
「それならザカルド6世殿。せっかくの5年ぶりの再会なのですから天幕で少し酒でも飲みませんか?」
「いいですよ。ただ私のことは旅人のハリーと呼んでください」
「分かりました。私の友人のハリーとして扱います。ではどうぞこちらへ」
「ありがとうございます。ドルデン皇帝陛下」
俺はドルデン皇帝の天幕にお邪魔することになった。
その頃、ヒルデではローゼン将軍が俺を探してヒルデの市場にいた。
「ふむ。人が集まりそうな市場に来てみたがちょっと陛下のことを聞き込みしてみるか」
ローゼン将軍は市場の片隅で魚の干物を台に並べている男女の二人に声をかけた。
男は茶髪に茶の瞳で女は金髪に珍しいすみれ色の瞳をしている。
「忙しいところ済まないが訊きたいことがあるのだが」
「何でしょうか?」
「黒髪に黒い瞳でハリーという名前の美しい若い男性を見なかっただろうか?」
「ハリー?……美しい男性?…ああ、それならカルーデの町で会いましたよ。確かレゼンデに行く途中だって言ってましたけど」
「本当か? レゼンデに行くと?」
「はい。何でも西大陸に行きたいって言ってましたね」
「西大陸!? そ、そうか、教えてくれてありがとう!」
ローゼン将軍は急いで大使館に戻りラッセンド宰相宛に陛下が西大陸を目指しているという手紙を早馬で出した後に自分もレゼンデに向けて出発をした。




