41 リキルド公爵家に行ってみた
俺は掴んだ女の腕に力を入れて女の身体を引き戻す。
ドサッとその貴族の女と俺は二人で抱き合うように地面に倒れ込んだ。
危なかった!
もうちょっとで水路に転落するところだった!
「大丈夫ですか?」
俺は自分の腕の中にいる女に声をかける。
「は、はい……あ、ありがとうございました……」
女は落ちそうになった恐怖が残っているのか身体が震えていた。
間近に女の顔を見て俺はやはりどこかで会った女だなと記憶を辿る。
すると使用人らしき女が走ってきた。
「ビレーデ公爵夫人! 大丈夫ですか!?」
ん? ビレーデ公爵夫人?
あ! 思い出した!この女はドルデン皇帝の末の娘だったはずだ!
俺はドルデン皇帝と会談した時に紹介されたドルデン皇帝の家族のことを思いだした。
ドルデン皇帝には妃は三人いる。
そして息子や娘も複数いてその中にこのビレーデ公爵夫人がいた。
その時にドルデン皇帝はこのビレーデ公爵夫人は自分の末の娘で公爵家に嫁いでまだ間もないと話していたのだ。
もしビレーデが独身だったら俺の花嫁候補にしたのにってドルデン皇帝は笑っていた。
それが今から5年くらい前の話だ。
ドルデン皇帝の娘にしては大人しそうなたおやかな娘だなと思ったから印象に残っている。
「ええ、大丈夫よ」
ビレーデは使用人の手を借りて立ち上がる。
俺も立ち上がった。
「危ないところありがとうございました。私はビレーデ・リキルドと申します。リキルド公爵の妻です」
「ケガがなくて良かったです。俺は旅をしているハリーと申します」
俺がニコリと笑みを浮かべるとビレーデは僅かに頬を染めた。
ビレーデと出会った時は俺はベールで顔を隠していたしあれから5年ぐらい経っているからビレーデは俺がジルヴァニカ帝国の皇帝だとは分からないようだ。
「あ、あの、ハリーさん。ぜひお礼をしたいので我が家に来ませんか?」
「え? 別にお礼なんて」
「い、いえ、命の恩人にお礼もしないなんて夫のリキルド公爵の顔に泥を塗ってしまいますから!」
お礼を断ろうとした俺をビレーデは必死な様子で引き留めた。
「それにもうすぐ日が暮れますがハリーさんはどこのお宿にお泊りですか?」
「えっと、宿を探していた最中だったのでまだ決まっていません」
「それならぜひ我が家に泊まってください!」
「え? いいんですか?」
「もちろんですわ。夕食も良かったら食べてください」
う~ん、ビレーデは俺の顔を見てもジルヴァニカ帝国の皇帝って気付いていないから大丈夫かな。
「それならお邪魔します」
「ええ、どうぞ。あちらの道に馬車を待たせておりますので一緒にどうぞ」
「ありがとうございます」
ビレーデが使用人と共に歩き出したので俺はその後をついて行き待機していた馬車に乗ってリキルド公爵家に向かった。
リキルド公爵家に着くとすぐに夕食が用意された。
やはり肉料理が多い。
でもその夕食の席にビレーデの夫のリキルド公爵の姿はない。
「たくさん食べてくださいね。ハリーさん」
「はい。そういえばまだリキルド公爵様に挨拶をしてないんですけどリキルド公爵様はご在宅ですか?」
俺がビレーデにそう訊くとビレーデの顔が曇った。
そしてビレーデの瞳から涙が零れる。
わわ! どうしたんだろう?
「あ、ご、ごめんなさい!」
ビレーデは慌てて涙をハンカチで拭いた。
「いえ、何かあったんですか?」
「いえ、何でもありませんわ。夫は仕事が忙しくて帰りはいつも夜中なんです。なので気にしないでください」
「そうですか」
ビレーデの流した涙の理由が気にはなったがとりあえず俺は夕食を食べた。
食事が終わるとビレーデが直々に俺を客室へと案内してくれる。
「どうぞ、この部屋をお使いになってください」
「はい。ありがとうございます」
部屋は大きなベッドがあり貴族らしく高価な美術品も飾られている。
俺は自分の荷物を置いた。
「あ、あの……」
その声に振り返るとビレーデが顔を赤く染めてもじもじとした様子で俺を見つめる。
「どうかしましたか?」
「あ、あの、お、お願いがあるんですが……」
ん? お願いってなんだろう。
「何ですか? 俺にできることなら何でも言ってください」
俺がニコリと笑みを浮かべるとビレーデは意を決した様子で声を発した。
「わ、私を、だ、抱いて、く、くれませんか!」
「え?」
予想しなかったビレーデの言葉に俺は驚いた。




