126 砂嵐から逃げてみた
「よいしょ」
俺はクリアラードの中庭にある井戸の中から外に出た。
その後に続くようにクリアラードも井戸の中から出て来る。
玉姫の家に泊まって再びクリアラードと合流して砂猫族の村から戻って来たのだ。
クリアラードは背中に大きな袋を背負っている。
「あら、お帰りなさい。お父さん、ハリー」
アガサが俺たちを迎えてくれる。
「留守番ご苦労だったな、アガサ」
「いいえ、いつものことだもの。それよりハリーとの話は何だったの? お父さん」
「ああ、ちょっとした仕事の話さ。後でアガサにも話すがとりあえず必要な赤ジェネルを持ってきた。これだけあればしばらくは大丈夫だろう」
「そうね」
クリアラードは砂猫族の村から持ってきた大きな袋を背中から降ろした。
「それじゃあ、クリアラードさん。あの件についてのことはお願いします」
「分かってる。一休みしたら私も王宮に顔を出して国王と話して一族の誰をジルヴァニカ帝国に派遣するか決めるさ」
「分かりました。俺は先に王宮に戻ります」
「ああ」
クリアラードさんの承諾が取れて良かったな。
とりあえず王宮に戻ってジーフ王子たちに報告しよう。
俺はクリアラードの家を出て王宮の方を見た。
もしかしたら既に合図の黄色い旗が上がっているかと思ったからだ。
しかし黄色い旗は上がっていない。
まだルイーフ王子の出発の準備は出来てないようだ。
それなら少しハルシンの街を見ながら王宮に戻るか。
せっかく砂漠の国まで来たのだから街を探索してみたい。
俺は大通りを歩きながら何か珍しいモノはないかとキョロキョロしながら歩いていた。
「そこの素敵なお兄さん」
「え?」
女の声が聞こえたので俺は声のした方を見る。
すると建物の日陰を利用して自分の前に布を広げて座っている女がいた。
年齢は俺より少し上くらいの黒髪に青い瞳のなかなかの美人だ。
女の前に広げられた布の上にはキラキラと輝く指輪や腕輪などの小物が並べられている。
「あなたの好きな恋人に指輪の贈り物はいかが?」
へえ、こんな所で小物売りをしているのか。
少し見てみようかな。
俺には恋人はいないが何か珍しい物がないか見てみることにした。
「俺は恋人はいないので自分用に何か珍しい物はありますか?」
「あら、あなたはそんなに素敵な男性なのに恋人がいないの?」
「ええ、まだ恋人はいません。それに俺は今、旅の途中なんで」
「まあ、そうなのね。そうねえ、男の人用ならこの指輪なんてどうかしら?」
その女は俺に一つの指輪を渡してくる。
指輪についている宝石は確かに見たことがない宝石だ。
手に取って光に透かすと青緑色に輝きその中にさらに銀色にキラキラ輝く斑点のような物が混ざっている。
「これって何の宝石ですか?」
「う~ん、それが分からないのよ」
「え? 分からない?」
「そうなの。ある日異国の男性らしき人が私の前で倒れてね。私が介抱してあげたらそれを私にくれたの」
「人から貰った物を売ってるんですか?」
「だって、私は恋人がいるしその男性に商売の品物でもないのに男物の指輪なんて持ってて誤解されたら嫌だから売りに出すことにしたの。タダで手に入れたから安くしてあげるわ。どう?」
なるほど、恋人に誤解されたくないからサッサと売りたいってことか。
でもこの宝石が何か分からないけど綺麗だから買ってみようかな。
試しに自分の中指にハメてみるとちょうどいい大きさだ。
うん! これなら持っていてもいいや。
「これ気に入ったんでこれください」
「買ってくれてありがとう。銀貨2枚よ」
俺は銀貨2枚をその女に渡した。
すると突然誰かの叫ぶ声が聞こえる。
「砂嵐が来るぞ! 逃げろ!」
え? 砂嵐?
「大変だわ!」
俺に指輪を売ってくれた女が素早く布を丸めるようにして売っていた指輪や腕輪を持って俺の顔を見た。
「あなたも早く逃げた方がいいわよ! もうすぐ砂嵐が来るわ!」
「砂嵐って何ですか?」
「そうか、あなたは旅人だったわね。砂嵐は砂の嵐よ! 巻き込まれたらケガするわよ!」
「え? 嵐? じゃあ、どこかの建物の中に逃げた方がいいですか?」
「当たり前じゃない! あなたの宿はどこなの!」
「えっと、宿は取ってなくて…」
王宮に戻るつもりだったので俺は自分の宿を取っていない。
「ああ、もう! 時間がないわ! こっちに来て!」
「え? うわあ!」
女はガシッと俺の腕を掴み自分の荷物を持ち俺を引っ張って走る。
俺はその女に引っ張られるまま一緒に走った。
そしてある家に俺を連れ込んで入り口の扉を閉める。
するとすぐに家の外で「ゴオオオーッ」と凄い風の音が聞こえた。
「はあ、間に合ったわね」
凄い風の音だな。風だけじゃなくて砂も混ざってるのか。
これが「砂嵐」か。巻き込まれなくて助かったな。
この人にお礼を言わないと。




