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王女の命令で堅物将軍を騙すはずが、なぜか手を組んで反撃することになりました  作者: RiePnyoNaro


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その1『計画された婚約破棄』

「何?婚約を破棄してくれだと?」


アルバ侯爵は眉間の皴をさらに深くした。


「……はい」


ベルは俯き、唇を噛んだ。


申し訳ない気持ちでいっぱいになった。


「なぜだ?」


アルバ侯爵のその一言には死刑宣告を受ける被告人のような緊張感があった。


ベルは目を閉じた。


言おうか言うまいか迷った。


ゴクッと飲み込み


「ご覧になったでしょ?」


侯爵は眉の端をピクリと痙攣させた。


「先日、街でお会いしましたわよね?」


「それが…何か問題でも?」


グレーの髭の下の唇を、ほとんど動かさず答えた。


ベルは目を見開いた。


侯爵の思いがけない言葉に、胸が締め付けられた。


あの日、私は若い男性と腕を組んで歩いていた。


王家直属騎士のクロードさんと。


まるで恋人のように。


なのに、問題がないとおっしゃるの?


私を責めないの?


20歳以上も離れた私にアルバ侯爵は婚約を申し込んでくださった。


私に企みがあるとも知らずに。


でも、この婚約は破棄されなければならない。


いっそ最初から嘘だったと打ち明けようかしら?


いいえ!もっと傷つけるかもしれない。


ただでさえ胸が痛むのに。


『愛するに値しない女』と思われなければ!


ベルは無理やり口角を上げてほほ笑んだ。


無情な商売女がそうするように。


気を持たせつつ断ち切るような、鼻にかかった甘え声で


「あら、ご覧なったのに、察しがお悪いのね?

期待外れだわ!」


口角を上げた頬がピクピクと引きつらないように力を入れる。


アルバ侯爵は素早く瞬きする。


困惑したように眉が八の字になり、髭がモゴモゴ動いたと思ったら


「どういう意味だい?

つまり……」


気持ちを静めるためか、ソワソワと髭をひねり始めた。


チクンッ


と針で刺されたような痛みをベルは感じた。


でも失敗は許されない。


この婚約が破棄されなければ、父や弟や妹はどうなるの?


あの人には逆らえない。


もっと!


もっと冷酷な女になり切らねば!


ベルは長年連れ添った夫に愛想をつかした妻のように冷めた声で


「すべて言わせるおつもり?

つまり、あなたとは遊びだったの。

私が愛してるのは若いクロードさんよ!」


アルバ侯爵は素早い瞬きを繰り返した。


呻(うめ)くように


「…それは…本当かい?

何か理由があるんじゃないのか?

急に…そんなことを言い出すなんて。」


「理由なんてないわ!

強いて言えば、あなたに飽きただけ。」


アルバ侯爵は耐えられない頭痛に襲われたように額に手を当て


「そんな……

考え直してくれ…」


痛みに耐えるように顔をしかめ


「私を…捨てないでくれ!

君を愛してるんだ!」


ベルはクラクラと眩暈しそうになった。


あの、50万エーカーもの領地を持つ、


立派な務めを果たし


国に貢献し


人々の尊敬を集め


王さまでさえ助言に耳を傾ける


アルバ侯爵さまが


今


ちっぽけな『王女付きの侍女』である自分に


情けを乞うている。


憐(あわ)れな姿を恥ずかしげもなく見せている。


優越感?


それとも同情?


それとも罪悪感?


得も言われぬ興奮に酔いしれた。


ベルは『冷酷な悪女』を演じているうちに自分を見失った。


興奮で頬を染め、瞳をギラギラ輝かせ


「ホホホッ!

お馬鹿さんね!

憐れなおじいさん!

私は恋多き女。

あなた一人で満足できるわけないでしょう?」


アルバはハッと何かに気付いたように目を見開いた。


「最初から私の財産目当てだというのか?」


ベルはあざけりの表情でうなずき


「そうよ!

それ以外あなたに何があるというの?

年老いた気位の高い偏屈のおじいさん。

その干からびた手に触れられたと思うとぞっとするわ!」


アルバはガクンと肩を落とした。


だが次の瞬間、誇り高き侯爵の自尊心を取り戻した。


スッと背筋を伸ばし、見下すように顎を上げた。


まるで汚らわしい虫けらを見るように目を細める。


ムッと口の端を下げる。


不愉快そうに


「では、婚約破棄だ。

お前のようなあばずれと一度でも結婚を考えた自分を恨めしく思う。

お前に与えた贈り物の請求書を送る。

1ペンスたりとも不足するんじゃないぞ。

あて先は王女付きの侍女ベルでいいな?


では失礼する。」


言い捨てると身をひるがえし安宿の二階から出て行った。


ベルは安堵のため息をついた。


得体のしれない興奮がまだ体の中で暴れまわっている。


動悸が収まらない。


アルバさまには本当に申し訳ないことをしていしまった。


私から誘惑しておいて……。


騙すような真似をした。


これで私は二度と社交界に入れない。


貴族階級の人とは付き合えない。


結婚なんてもってのほか。


明日になれば社交界中に噂が広まるだろう。


『侯爵さまを弄(もてあそ)んで捨てたアバズレのベル』


と。


母さんが死んで、父さんが怪我で働けなくなり、弟や妹を養うために、


侍女として王宮に勤めに出るしかなかった。


厳しい選抜試験があった。


幸運にも合格し、


やっと働けるようになった。


王女さま付きの侍女として――


だけどそれは、


私にとって


逃げることのできない


過酷な運命との闘い


そして―――


予想だにしない


激動の日々の始まりだった―――。

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