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推しに勝ったご褒美はオフレコで!? ~元FPS日本代表、男なのに女性限定VTuber事務所に採用されました~  作者: ぽんさん
【アーカイブ02】 「はじめまして」の続きは二人きりで

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23/23

【配信21日目】 はじめまして、音無せらです! よろしくね 【音無せら/四季野すず】

『ゲームも好きです! 得意とは、まだ言ってません!』


 土曜日の夜。


 すずさんの初配信を、僕は自分の部屋で見ていた。


〈わかる〉

〈何やるの?〉

〈歌よかった!〉


『歌、ありがとう! また歌うね。ゲームはね、LAST CIRCLEもやってます。最近、ちょっと教えてもらってて――みんなは、何で遊ぶことが多い?』


 好きなものを並べた画面の横で、すずさんが笑う。


 いくつものゲームの名前が流れた。


『あ、それ知ってる。気になってた! 難しい?』


 質問へ答えたはずなのに、もう、次の会話になっていた。


 花を残した、二枚の画面。


 一緒に確認した文章が、順番どおりに読まれるわけではなかった。それでも、すずさんが何を好きで、何をしたいのかは、ちゃんと伝わってきた。


 最後の挨拶を聞いてから、お疲れさまでした、と送る。


 少しして、返事が来た。


『ありがとう! 途中、一回、次何話すか飛んだ!』


『お水を飲んでいたところですか?』


『そう! あの間にメモ探してた!』


 自然な間だと思っていた。


 喋るのが上手い人は、全部、頭の中に入っているのだと思っていた。


『明日、見てるね』


 続けて届いた一言に、僕は姿勢を直した。


 今まで僕が書いていた側の言葉が、今日は、こちらへ届いていた。


     *


 日曜日、十九時五十九分。


 マイクの角度を直そうとして、やめた。


 さっき、久我さんと確認したところだった。


 声は届く。画面も映る。見せるのは、用意した配信用の画面だけ。個人の連絡は、配信を終えてから見る。


 そこまでは、できている。


 待機画面の横には、コメントが流れていた。


〈待機〉

〈すずちゃんの配信から来ました〉

〈楽しみ〉

〈あと一分!〉


 自分が書かなくても、文字が増える。


 その人たちは、僕の声が聞こえるのを待っている。


 水を飲んだ。


 置いた。


 もう一度飲もうとして、やめた。


 そんなに水を必要とする話は、まだ何もしていない。


 二十時。


 待機画面を、切り替えた。


 灰銀色の髪の女の子が、画面の真ん中に現れる。


 僕が口を開くと、彼女も、同じように口を開いた。


「こんばんは! リプライン所属、音無せらです」


 言えた。


 練習していた名前まで、一度も止まらずに。


〈きたー!〉

〈かわいい〉

〈よろしくお願いします〉


「本日は、お忙しいところお集まりいただき――」


〈こちらこそよろしくお願いいたします〉

〈説明会始まった?〉


 続きを言う前に、一つ下のコメントが目に入った。


〈資料の配布はありますか〉


「資料は、このあと画面に……って、違う。ボク、説明会を始めようとしてた?」


 普通に答えてしまった自分がおかしくて、息が漏れた。


 せらの目が、少し細くなる。


〈初配信を見にきました〉

〈笑った顔すき〉

〈声いいな〉


 コメントを読んで、また、少し笑ってしまった。


 まだ、始まって一分もたっていない。


 その間に、用意していなかった言葉を、もう一つ喋っていた。


「そうだよね。ボクも、そのつもりだった。……改めて、来てくれてありがとう。ちょっと緊張してるけど、よろしくね」


 画面へ向かって、小さく手を振りかけた。


 せらの手は動かなかったけれど、声は、さっきより楽に出た。


     *


 名前。好きなもの。これから、やってみたいこと。


 画面を順番に切り替えながら、短くしたメモへ目を落とす。


「ゲームが好きで、特にFPS! 歌とダンスは、今、練習中だよ」


〈ボクっ娘いいね〉

〈何のゲームやる?〉

〈歌も楽しみ〉


「ありがとう。歌は、もう少し待っててね。ゲームのほうは――実は、ボクのプレイを見たことある人、いるかも」


 次の画面を開いた。


 用意した大会の名前と、そのときに使った名前。


 nemui。


「少し前にあった、月乃ほしな先輩のLAST CIRCLEの大会。ボク、この名前で出てたんだ」


 コメントの動きが、一度、変わった。


〈え?〉

〈あのnemui!?〉

〈優勝した人?〉

〈大会見てた!〉


「うん。そのnemuiだよ。優勝して、それからオーディションを受けることになって……」


〈あの人この子なのか〉

〈ほしなと戦ってた子?〉

〈初見なんだけど何の大会?〉


「あ、初めて聞く人もいるよね。ほしな先輩が開いた、視聴者参加の大会。優勝したら先輩と話しながら対戦できるって聞いて、応募したんだ」


 知らなかった人にも伝わるように、言葉を選ぶ。


「それで、今、ここで自己紹介してる」


〈間に何があったw〉

〈オーディションのやつか!〉

〈デビューおめでとう〉


「ありがとう! ……ボクも、こんなにたくさんの人に自己紹介するとは思ってなかったよ」


 今も、少し、不思議だった。


 でも、自分の名前を見て驚いている人がいる。


 あの日の試合を、覚えてくれている人がいる。


 僕が配信を閉じていた間にも、あの場所には、見ている人がいたのだ。


「じゃあ、今日はそのLAST CIRCLEを一戦だけ! ボクがどんなふうに遊んでるか、見てもらおうかな」


 ゲームの画面へ切り替えた。


 中央に、白髭の男が現れた。


 剃り上げた頭。


 広い肩。


 いつもどおり、少し困ったような眉。


 右下には、灰銀色の髪の女の子。


〈おじいちゃん!〉

〈そのままなんだw〉

〈どっちがせらちゃん?〉


「右下、右下! ……でも、真ん中もボクが動かしてるから、どっちも合ってるか」


 画面を見直して、笑ってしまった。


 自己紹介をしたばかりなのに、早速、ややこしくしている。


〈おじいちゃん続投うれしい〉

〈変えないの?〉


「この人で大会に出たからね。そのまま、一緒に出てもらおうかなって」


〈いいね〉

〈相棒か〉

〈よろしくおじいちゃん〉


 僕は、開始のボタンを押した。


 女の子と、白髭の男。


 どちらも自分なのだと思うと、初配信の画面は、ずいぶん賑やかだった。


     *


 輸送機の音が、ヘッドホンの中に広がった。


 今回は、大会の専用部屋ではない。


 いつものソロの試合だった。


「ここに降りようかな。家がいくつかあるし、次の場所にも動きやすいんだ」


 地図に印をつける。


 住宅地の外れ。大きな道から一本入った、小さな家の集まり。


 周りに開くパラシュートを数えてから、屋根の低い家へ向かった。


 着地する。


 中へ入る。


 銃と弾を拾い、奥の部屋まで見て回る。


「近くに人が降りたから、まずは武器ね。……あった。よし、これなら外に出られる」


 言い終えてから、コメントへ目をやった。


〈説明わかりやすい〉

〈マウス何使ってる?〉

〈動きはっや〉


 返事を考えている間も、窓の外を見てしまう。


 普段なら、次の家へ移っている時間だった。


 今日は、その間に、話をする。


「マウス? あ、使ってるもの、あとでまとめておくね」


 少し長く、窓の手前に立っていた。


 気づいて、壁へ寄る。


 画面の二か所を見るだけでも、思ったより忙しかった。


 家を二軒回って、装備が揃った。


 ライフル。予備の弾。回復用品。


 裏手の塀へ移り、先の建物を確かめる。


 その間に、一つ、質問が読めた。


〈ゲーム以外だと何が好き?〉


「ゲーム以外? 最近は、配信を見たり――」


 言いかけたところで、窓の奥が動いた。


 道の向こうの、二階建て。


 左側の窓。


「……あ、一人いる。ちょっと待ってね」


 照準を上げた。


 窓から銃口が出る。


 こちらより、少し早い。


 僕は塀へ身を隠した。


 頭があった位置を、弾が抜けていく。


 続いて、塀の上が細かく砕けた。


 銃声が止まる。


 すぐには、顔を出さなかった。


 向こうは、今の場所を見ている。


 塀に沿って、二歩だけ右へ。


 低いところへ伏せて、庭の入口から建物を見た。


 窓の奥で、人影が横切った。


 左から、右へ。


 僕の照準も、隣の窓へ移る。


「右」


 窓枠に、肩が出た。


 撃った。


 最初の数発が当たり、相手が奥へ引く。


 引き切る前に、もう一度。


 撃破の表示が出た。


 その直後、別の銃声がした。


 塀の手前の土が、跳ねる。


 上。


 家の向こう、斜面の岩の脇で、光が見えた。


「もう一人」


 立って、庭の物置へ戻る。


 角を曲がるまで、止まらない。


 壁に弾が当たる音が、背中を追った。


 そこでようやく、弾を込め直す。


 物置の反対側から、斜面を見た。


 岩の右に、相手の肩が見えている。


 まだ、僕が隠れた角へ銃を向けていた。


 息を止めた。


 短く、撃つ。


 相手が向き直るより先に、照準を戻して、次を当てた。


 二つ目の表示。


 指を離す。


 耳を澄ませる。


 銃声は、続かなかった。


 僕は、物置の壁へ戻った。


「よし、いけた! ……もう、いないよね?」


 言ってから、思い出した。


 話の途中だった。


 コメントへ目を戻す。


〈うま〉

〈今の二人目見えなかった〉

〈撃つとき急に迷いなくなるな〉

〈ないす!〉


「ナイス、ありがとう。二人目、危なかったあ」


 息を吐いてから、続きの言葉を探す。


 何を、聞かれていたのだったか。


 ゲーム以外。


 そこまでは、覚えている。


「……ごめん、今、何の話してたっけ。ゲーム以外の、何か……」


〈ゲーム以外の趣味!〉


「あ、趣味! そうだった。ありがとう、戻ってきた」


 質問した人と、同じ名前かどうかは分からなかった。


 でも、覚えてくれていた人がいた。


「歌を聞くのも好きだよ。ゲームの曲とか、アイドルの曲とか。何かしながら聞くつもりが、気づくと手が止まってるんだよね」


〈わかる〉

〈MV見始めると終わる〉

〈ほしなの曲も?〉


「聞く聞く。好きな曲、いっぱいあるよ」


 そこは、迷わず答えられた。


 白髭の男を、塀の陰へ動かす。


 回復が終わるまでの間、画面には、曲の名前や、短い感想が流れていた。


 試合をしているのに、試合以外の話をしている。


 同じゲームが、いつもより、少し違って見えた。


     *


 そのあとも、安全区域は何度か変わった。


 住宅地を離れ、道を渡り、林の端へ。


 足を止められる場所で、一つずつ、コメントを読んだ。


 答えているうちに、次に言おうとしていたことを忘れる。


 ゲームへ集中すると、今度は、喋るのを忘れる。


 どちらも覚えているつもりで、どちらかが、少しずつ遅れた。


 撃ち合いを二つ切り抜けて、残りは四人。


 最後の円は、斜面の上に出た。


 先に入っている相手が、高い場所を押さえていた。


 煙幕を使い、くぼみをたどる。


 もう少しで、次の木へ届く。


 その手前で、横から撃たれた。


 狙いを返す。


 当たった。


 でも、足りなかった。


 白髭の男が倒れ、画面に、四位の表示が出た。


「あーっ、そっちかあ!」


 マウスから、手を離す。


 見ていた場所より、少し左。


 相手は、木の横の低い岩を使っていた。


〈おしい〉

〈GG〉

〈ないすファイト!〉

〈四キルすごい〉


「応援ありがとう。最後、うまく入れなかったなあ。あの岩、見えてなかった」


 水を飲む。


 今度は、本当に喉が渇いていた。


「……くやしい。今の、勝ちたかった!」


 言ってから、少し笑った。


 自己紹介の一戦なのだから、見てもらえればいいと思っていた。


 始めてしまえば、やっぱり、勝ちたかった。


〈もう一戦いく?〉

〈リベンジ見たい〉


 開始ボタンへ、カーソルが寄りかけた。


 止める。


「……やりたいけど、今日は一戦! ボクの自己紹介、まだ途中だからね」


 ゲームの画面を閉じ、せらを、真ん中へ戻した。


 さっきまで銃を持っていた男が、いなくなる。


 残ったのは、僕が喋らないと、何も話せない女の子だった。


     *


「ゲームは、こんな感じで遊んでるよ。どうだった?」


 あらかじめ書いておいた言葉に、短い問いかけが足された。


 コメントには、さっきの試合のことも、次に見たいゲームのことも流れていた。


〈最初の二人倒したとこうまかった〉

〈このゲームやったことないけど楽しかった〉

〈自分も練習しようかな〉


「やったことなくても楽しかった? そっか、うれしいな。途中、話しかけたまま撃ち始めちゃったから」


 話そうとしていたことが、何度か、銃声のあとに消えた。


 全部うまくできたわけではなかった。


 でも、楽しかったと書いてくれた人はいた。


〈ゲームやらない人も見に来ていい?〉


 次の項目を読もうとして、目が止まった。


 プロフィールにも、話すことのメモにも、その質問の答えはなかった。


「もちろん。遊びに来て!」


 それでも、返事は、すぐに出た。


「ボクもね、見てるだけの日、たくさんあったんだ」


 仕事から帰って、画面を開く。


 遊ぶ元気まではなくても、誰かが楽しんでいる声なら、聞いていられた。


 知らないゲームのルールが、少しずつ分かった夜もあった。


「何が起きたか、みんなにも分かるように話せたらいいな。ボクだけ分かって、そのまま進めちゃうこともあると思うから。分からなかったら、聞いてね」


〈また来るね〉

〈助かる〉

〈声聞いてるだけでも落ち着く〉


「……ありがとう。また来てくれたら、うれしい」


 画面の女の子が、少し目を伏せる。


 自分で考えた返事だった。


 初配信で、こんなことを話すとは思っていなかった。


 でも、言ってみると、やりたいことが、一つ、はっきりした。


 続いて、歌の配信もするのかという質問が目に入った。


「やってみたい! 今はね、息を吸うところを歌詞に書いて練習してる」


〈えらい〉

〈楽しみにしてる〉

〈ダンスも?〉


「ダンスも少しずつ。最初できなかったところが、音楽に合わせてできると、うれしいんだよね。そこだけ、もう一回やりたくなる」


〈いいね〉

〈いつか見たい!〉


「うん。見てもらえるように、頑張るね」


 鏡の前で、何度もやり直した足の動きを思い出した。


 初めて、最後まで合ったときのことは、自分でも、よく覚えていた。


 今できることも、まだできないことも、少しずつ話した。


 好きなゲームの名前。


 これから試してみたい、協力して遊ぶゲーム。


 歌も、聞くだけでなく、いつか聞いてもらいたいこと。


 時計へ目をやると、終わりの時間が近づいていた。


 あんなに長いと思っていた一時間が、もう少ししか残っていなかった。


「次は、水曜日の夜十時! ゲームしながら、今日話し切れなかったことも話そうかな。よかったら、また遊びに来てね」


〈了解!〉

〈おつせらー〉

〈初配信おつかれさま〉


 終わりの言葉が、流れ始める。


 いつも、その中へ、僕も書いていた。


 今日は、マイクへ向かって、返事をした。


「今日は来てくれて、ありがとう。ボク、楽しかった! また水曜日にね」


 終了用の画面へ、切り替える。


 音楽が流れる。


 少し待って、配信を終えた。


     *


 椅子の背もたれへ、身体を預けた。


 部屋が、静かだった。


 ヘッドホンを外すと、机に置いた音まで大きく聞こえた。


 一時間。


 喋り続けていたわけでもないのに、終わった途端、頬の辺りが疲れていることに気づいた。


 久我さんへ終了の連絡を返し、ようやく、個人のメッセージを開く。


 すずさんから、いくつも届いていた。


『おつかれさま!』


『二人目倒したとこ、びっくりした。私、誰に撃たれたか分かる前に終わってた』


『あと、ゲームやらなくても見に来ていいって話、よかった』


 最後の一つを、もう一度読んだ。


『ありがとうございます。あそこは、考えていなかったので、うまく話せたか分からなくて』


『うん。せらちゃんの言葉って感じした』


 短くしたメモが、机にあった。


 用意していた言葉より、用意していなかった返事を覚えてもらえた。


 少し不思議で、うれしかった。


 別の連絡先も、開いた。


『直人、おつかれさま。楽しかったよ』


 夏希だった。


 その下に、もう一つ。


『最後、もう一回始めそうになってたでしょ』


 見られていた。


 自分では、カーソルを、少し寄せただけのつもりだった。


『少しだけ』


『負けたあと、すぐ帰りたくないんだよね』


 僕は、画面を見たまま、笑った。


 彼女にも、覚えがあるのだと思う。


 今の配信にも。


 昔、一緒に遊んでいた時間にも。


『見てくれて、ありがとう』


 打ってから、送る前に、一度読み直した。


 ほしな先輩へのお礼なら、もっと丁寧に書くところだった。


 今は、この短さで届く。


 送信すると、ほどなく返事が来た。


『また見に行くね』


 スマートフォンを、机へ伏せた。


 配信を終えたあとなので、この顔まで映らなくてよかったと思った。


 目の前には、話し終えた項目へ印をつけたメモが残っている。


 名前の紹介。


 大会の話。


 モデルを見てもらうこと。


 どれも、次の配信では、同じようには使えなかった。


 また見に来てもらえたとき、何を話そう。


 ゲームを起動するだけでは、その答えまでは用意されない。


 僕は、新しい配信の予定を開いた。


 水曜日、二十二時。


 日付を入れてから、タイトルの欄に、『ゲームと、少しお話』と打った。


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