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ドラゴ・ライズ ―最強の守護者を目指す少年と、十の星辰の絆―  作者: 岡山ミロウ
第5章 ──「カイトと、純粋な誓い(後編)」

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第1話 ──「お前、何者だ」


 城の中も、外と同じように、大混乱だった。


 爆発の報せに、衛兵たちが、ばたばたと廊下を走り回っている。


 怒鳴り声。鳴り響く鐘の音。


 誰も、侵入者に気を配る余裕などない。



 その隙を、ドラゴたちは突いた。


 衛兵の足音が近づくたび、さっと柱の陰に身を潜める。


 気配を殺し、足音を消して、長い絨毯の上を、滑るように進んでいく。



 ここで「侵入者だ」と騒がれては、元も子もない。


 あくまで、静かに。




 「……手分けするぞ」




 レンジが、低い声で囁いた。




 「俺とサシャは、国王たちのところへ向かう。狙われるとすれば、あの人たちだ。ドラゴ、カイト、ガロウ――お前らは姫様の行方を……」




 だが、言い終わる前にはもう。


 ガロウは、たった一人、人混みとは逆の方向へ、すでに走り出していた。




 「……おい、ガロウ!?」




 ドラゴが、小声で呼ぶ。だが、返事はない。




 「……ちっ。あいつは」




 レンジが、舌打ちをする。だが、追う時間も惜しい。




 「……まあいい、放っておけ。止めたって、聞く奴じゃない。それに、勝手に動いたってことは、何か嗅ぎつけたんだろう」




 それだけ言うと、レンジは、もう前だけを見ていた。




 「行くぞ。俺たちは、俺たちの仕事を果たす」




 こうして、五人は、それぞれの使命のために、散っていった。



 ――そして、ガロウは。


 人混みを逆走しながら、その獣じみた勘を、ざわつかせていた。



 あの気配――ただ者じゃない。



 逃げ惑う人々。慌ただしく駆ける衛兵たち。


 そのごちゃごちゃとした流れの中で。


 たった一人だけ、まるで違っていた。



 地味な商人風の服を着た、痩せた男。


 誰もが慌てふためく中で、その男だけが、やけにゆっくりと落ち着いた足取りで歩いている。



 まるで、この騒ぎを、最初から知っていたみたいに。




 ……なんだ、あいつは




 あの男の周りだけ、空気が、まるで違っていた。


 ねっとりと重く、冷え切った“何か”が、まとわりついている。


 逃げ惑う人々の誰からも、慌てふためく兵士たちの誰からも、感じたことのない気配。




 ――魔力の、質が違う。




 鬼人族の勘が、ぞわりと、警鐘を鳴らす。あれは、まともな人間じゃない。



 男は、こちらに気づく様子もなく、喧騒に背を向けて、奥へ奥へと進んでいく。


 やがて、人気のない廊下の突き当り、ひとつの扉を開けて、中へと入っていった。



 ガロウは、迷わず、その後を追う。


 扉を抜けると、そこは、物置代わりの、薄暗い一室だった。


 窓は小さく、人の気配もない。喧騒が、嘘のように遠くなる。



 その部屋の中央で。


 男は、こちらに背を向けて、立っていた。逃げるでもなく、隠れるでもなく。


 まるで、誰かを、待っていたかのように。




 「……何か、御用ですか?」




 男が、ゆっくりと振り返る。


 穏やかな笑みを浮かべている。


 だが――その目は、これっぽっちも、笑っていなかった。




 「気づいていましたよ。ずっと、私の後ろをついてきていたでしょう? ……ですから、わざわざ、人目のない場所を選んで差し上げたんです。あなた、レガリスの守護者でしょう? 妙な騒ぎになるのは良くないと思いまして」




 最初から、誘い込まれていた。ガロウは、それを悟る。


 だが――どうでもよかった。




 「お前、何者だ」




 単刀直入に、ガロウは問うた。




 「何者、だなんて。私は、ただの、しがない商人ですよ」




 男は、困ったように、眉を下げてみせる。




 「城に品物を納めに来ていたら、この騒ぎでしてね。逃げ遅れて、困っていたところです」




 すらすらと、なめらかに、言葉が出てくる。


 だが。




 「……嘘をつくな」




 ガロウの目が、すう、と細くなった。




 「お前がまとってる、その気配。……禍々しくて、底が知れない。逃げ惑う連中の中で、お前だけが、まるで違う。ただの商人が、こんなものを漂わせる訳がない」




 じり、と、間合いを詰める。




 「それに、その身のこなし。無駄がなさすぎる。息を殺して、いつでも動ける。……長く、修羅場をくぐってきた奴の体だ」




 ガロウには、分かった。ひと目で、分かってしまった。


 この男は、強い。それも、とびきり。


 その瞬間。ガロウの奥底で、ずっと燻っていたものが、ぐらりと、頭をもたげた。




 「……ちょうどいい」




 腰の刀――『鬼哭』の柄に、手がかかる。




 「戦え。……ここ数日、ひりつく戦いがなくてな。うんざりしてたところだ」




 「おやおや。物騒ですねえ」




 男は、まるで動じない。両手を、軽く広げてみせる。




 「ですから、私は、ただの商人ですよ。武器のひとつも、持ってはおりません。あなたと戦う理由なんて、どこにも」




 「理由なら、俺にある」




 ガロウの姿が、消えた。


 鬼人族の脚力。神速の抜刀。漆黒の刃が、男の首元めがけて、まっすぐに走る。


 常人なら、何が起きたのかすら、分からない。一撃必殺の、間合い。



 だが――



 その刃は、男の喉もと、紙一重のところで、ぴたりと止まっていた。



 男が、たった一本の指先で、ガロウの渾身の刃を、つまむように受け止めている。




 「……っ!?」




 ガロウの目が、かっと見開かれた。


 やはり、強い。“ただの商人”に、こんな芸当ができてたまるか。




 「……危ないじゃないですか」




 男は、あくまで、穏やかに微笑んでいる。


 指先で刃を挟んだまま、ふう、と、小さく息をついた。




 「まったく。あなた方、守護者というのは」




 その声が、ぞっとするほど、冷たくなる。




 「まさか、他国の姫のために、命を懸けて戦うおつもりですか? ……ご立派なことですが、私には、とうてい理解ができませんねえ」




 嘲るような、その言葉に。


 だが、ガロウは、眉ひとつ動かさなかった。




 「……勘違いするな」




 押さえ込まれた刃を、力任せに、引き戻す。




 「戦う理由は、姫なんかじゃない」




 「……ほう?」




 男の指が、わずかに、止まった。




 「姫のことは、ついでだ」




 ガロウの口の端が、獣のように、吊り上がる。




 「目の前に、強え奴がいる。だから、斬る。理由は、それだけだ」




 迷いのない、その答え。


 男の顔から、ふっと、作りものの笑みが消えた。




 「……へえ。それは、それは」




 男の目が、すう、と細くなる。


 だが、その奥に浮かんでいるのは、興味でも、感心でもない。


 道端の虫けらでも見るような、冷ややかな色だった。




 「己の力を振るいたいだけ、ですか。……なんとも、野蛮な生き物ですね」




 「黙れ」




 ガロウの体が、低く沈む。全身から、黒い闘気が、揺らめき立った。




 「強いなら、それでいい。――俺を楽しませろ」




 城の、いちばん奥。


 誰も知らないその薄暗い部屋で、戦闘狂と、得体の知れぬ男の死闘が、静かに、幕を開けた。



第5章が始まります。

ぜひ、ブックマークをしてお楽しみください。

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