第3章 - 第2話
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それから数日後、グレンに新たな任務が舞い降りた。
王都近郊の森に魔獣が出た――との報せ。ありふれた、小さな討伐任務だ。
向かったのは、グレン、ミーナ、シエルの三人。それに、先輩守護者が一人ついた。
森へ向かう道すがら、ミーナがひょいとグレンの顔を覗き込んだ。
「にゃはは、グレンってば眉間にシワが寄ってるニャ! そんな顔してたら、魔獣のほうがびっくりして逃げちゃうニャ!」
よみがえる先日の会話。力を抜く――言葉の意味は分かるが、やり方が分からない。
「……自分は、いつも通りです」
声が、自分でも分かるほど硬い。
ミーナは不思議そうにしていたが、それ以上は何も言わず、ぴょんと前へ跳ねていった。
ほどなくして、それは現れた。
大きな猪のような魔獣が二頭。
体高はグレンの胸ほどで、牙は鈍く、動きものろい。
特別警戒するほどの獣ではなかった。
先輩守護者が、気だるげに欠伸まじりで言った。
「二頭とも雑魚だな。新人の練習にちょうどいいや。お前らでやってみろ」
ミーナが双短剣を両手に握る。
「オッケーニャ! シエル足止めを頼むニャ!」
「ええ、任せて。『氷華の園』!」
シエルの手から冷気が走り、二頭の魔獣の足元に薄い氷が張った。
獣の足が、氷とともに固まった。
「グレン、今だニャ! 行くニャ!」
ミーナが、地を蹴った。
しなやかな身のこなしで宙を舞い、左の一頭へ一直線。双短剣が、きらりと光る。
「『斬り猫』!」
交差する二閃。
凍りついて動けない魔獣を、急所ごと、鮮やかに斬り抜けた。
獣は、声を上げる間もなく、その場に崩れ落ちる。
一撃。無駄のない、見事な仕留めだった。
「グレン、そっちを頼むニャ!」
ミーナの声が背中を押す。
グレンは、右の一頭へ、槍を構えていた。
だが――一歩を踏み出せずにいた。
……ミーナさんは、一撃で決めた
……先輩が自分を見ている
……自分も同じように。いや、それ以上に。無様な真似は、できない
……スザク家の技を使う以上、一撃で。完璧に、決めなければ――
頭に次々と余計な考えが浮かぶ。
考えれば考えるほど、槍の穂先が定まらない。狙いを、決めきれない。
その、わずかな隙を、魔獣は見逃さなかった。
ばきん、と、凍りついていた足元の氷が、砕けた。
自由を取り戻した魔獣が、鼻息荒く、まっすぐグレンへと突っ込んでくる。
「――っ!」
まずい。判断が、遅れた。
その事実に気づいた瞬間、頭が、さらに真っ白になった。
焦りが、焦りを呼ぶ。
……まずは避ける?
……いや、迎え撃つ?
すぐに動かなければいけないのに、思考ばかりが空回りする。
グレンは、慌てて身を翻そうとした。
だが――踏み込んだ足が、滑った。
シエルが張った、氷の上。焦りのあまり、自分の足場すら、見えていなかった。
「あっ……!」
体勢が、大きく崩れる。踏ん張りが利かない。
迫る魔獣。倒れかけた体。避けられない。
「グレンッ!!」
影が、横から飛び込んできた。
ミーナだ。地を蹴り、崩れたグレンの体を突き飛ばすように、あいだへ割って入る。身一つで。
魔獣の牙が、迫る。
「――にゃあっ!?」
鈍い音。小柄な体が、勢いよく弾き飛ばされる。宙に、赤い雫が散った。
ミーナの体が地面を転がって、止まる。猫耳が力なく伏せて、ぴくりとも動かない。
グレンは、氷の上に尻をついたまま、立ち上がることも忘れていた。
握っていたはずの槍が、いつの間にか、てのひらから滑り落ちている。
目の前で、仲間が血を流している。
――自分の、せいで。




