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自己暗示の異世界無双 〜信じ込めた力だけが、俺の武器になる〜  作者: あちゅ和尚


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第26話 黄色い布を追うな

 朝の商人ギルドは、昨日より静かだった。


 静かと言っても、仕事が減ったわけではない。


 赤黒箱。


 黄黒箱。


 白箱。


 3つに分けられた札が、受付の横に並んでいる。


 赤は走る。


 黄は見る。


 白は流す。


 黄は寝かすな。


 短い言葉が、職員たちの動きを少し変えていた。


 昨日までのように、すべての札を抱えて固まる者は減った。


 迷えば黄へ。


 黄は半刻ごとに見直す。


 白でも種があれば黄へ。


 赤は理由つきで走らせる。


 完璧ではない。


 だが、道は動いている。


 俺は作業部屋の椅子に座り、黄黒箱の札を見ていた。


 身体はまだ重い。


 背中の痛みは薄くなってきたが、右肩は動かすと嫌な熱を持つ。


 太腿も、立ち上がるたびに鈍く痛む。


 戦闘模倣の代償は、まだ残っている。


 けれど、頭は動く。


 動きすぎるのも困るが、今の俺にできる仕事はそこだった。


「アストさん」


 ノルが黄黒箱から1枚の札を持ってきた。


「これ、黄でいいのか?」


 札を見る。


 内容は、職人通りの裏で黄色い布の女を見た、というもの。


 報告者は革職人の弟子。


 時刻は朝。


 場所は、焼き印具を写そうとした男が捕まった倉庫の近く。


 昨日から続いている線だ。


「赤にしたい?」


 俺が聞くと、ノルは少し考えた。


「黄色い布だけなら黄。でも、場所が職人通りの裏で、昨日の焼き印の件と近い。だから……黄の上?」


「いい見方です」


「黄の上って何だよ」


「ほぼ赤。でもまだ走らせすぎない」


 ノルは顔をしかめた。


「難しいな」


「だから確認を増やす。職人通りの巡回を強める。でも領兵を一気に走らせない。黄色い布の女は、見せ札かもしれない」


「追わせるため?」


「たぶん」


 欠け指側は、こちらが黄色い布に反応することを知っている。


 黄色い布の者を見せれば、こちらは追う。


 追えば、人が薄くなる。


 昨日まではそうだった。


 だが、今日からは違う。


 追う前に、流れを見る。


 ノルは小さく頷き、札を黄黒箱の上段へ置いた。


 その時、廊下から軽い足音がした。


 扉が開く。


「戻りました」


 リーナだった。


 旅装のまま、肩に薬箱をかけている。


 顔には疲れがある。


 だが、目はいつも通りまっすぐだった。


「リーナさん」


 俺は思わず立ち上がろうとして、右肩と背中に止められた。


「っ……」


「立たないでください」


 第一声がそれだった。


 懐かしい。


 いや、怖い。


 リーナは荷物を下ろす前に、俺の顔色を見た。


「無茶をしましたね」


「しました」


「認めるのが早いです」


「言い訳できないので」


「それは少し進歩です」


 褒められた気がしない。


 リーナは薬箱を机に置き、俺の背中、肩、太腿の状態を確認した。


 手つきは相変わらず迷いがない。


 だが、眉間の皺は深い。


「傷口は大きく開いていません。でも筋肉の負荷が強いです。右肩も炎症があります。戦闘行動は論外です」


「はい」


「走るのも論外です」


「はい」


「立って指示を出し続けるのも駄目です」


「それも?」


「それもです」


 厳しい。


 だが、戻ってきてくれた安心感の方が大きかった。


「鉱山町は?」


 俺が聞くと、リーナの表情が少しだけ柔らかくなった。


「バルム先生が診療を続けています。熱が下がった人も増えました。亡くなった方もいますが、薬草が間に合わなければもっと多かったと思います」


「谷村は?」


「広がりは抑えられています。水場と器を分けたのが効きました。村人は不満を言いながらも従っています」


「よかった」


 本当に、よかった。


 薬草。


 バルム。


 谷村。


 あの道は、まだ生きている。


 リーナは机の上の戻り札を見た。


「これが、戻り札ですか」


「はい」


「セリアさんから聞きました。戦闘模倣を使った後、自分を戻すための札だと」


「そうです」


「読んでください」


「今ですか」


「今です」


 逆らえない。


 俺は戻り札を手に取り、声に出した。


「俺はアスト。役割は運び手。戦闘も推理も目的じゃない。道を守る手段。怒りは判断材料。目的ではない。使ったら戻る」


 リーナは黙って聞いていた。


 読み終わると、小さく頷く。


「良いと思います」


「リーナさんに認められると安心します」


「ただし、札があるから無茶していいわけではありません」


「わかってます」


「わかっている人は、昨日あそこまで動きません」


「返す言葉がない」


 ノルが横で小さく笑いかけ、リーナに見られて背筋を伸ばした。


 リーナの圧は、初対面にも効くらしい。


     ◆


 リーナの報告で、作業部屋は少し明るくなった。


 鉱山町と谷村が崩れていない。


 これは大きい。


 欠け指側がいくら道を汚そうとしても、こちらの道が実際に人を救っている事実は残る。


 だが、その直後に赤黒札が来た。


 受付職員が息を切らして入ってくる。


「赤黒です! 職人通り裏で、黄色い布の女を再確認! 今度は革紐問屋の裏口です!」


 ノルが俺を見る。


「さっきの黄と重なった」


「はい。赤に上げる条件です」


 セリアが赤黒札へ移す。


 だが、俺はすぐに言った。


「追跡は慎重に。追いかける人と、先回りする人を分けてください」


「先回り?」


 職員が聞き返す。


「黄色い布の女は見せ札です。追わせるために出ている可能性が高い。追うだけだと逃げられる。どこへ逃げたいかを見ます」


「どこへ?」


 俺は地図を見る。


 職人通り。


 革紐問屋。


 焼き印具の鍛冶屋。


 半札の材料。


 そして、その裏に細い搬入路。


 さらに北へ抜けると、古い粉挽き小屋。


 そこから水路へ出られる。


「革紐問屋は囮かもしれません。狙いは革紐じゃなく、そこから抜ける裏道。北の粉挽き小屋へ通じているはずです」


 セリアが地図に指を置く。


「ここですね」


「はい」


 ノルが少し考え込む。


「その道、子どもなら通れるけど、大人は荷を持ってたらきつい。黄色い布の女だけなら行ける。でも荷を運ぶなら……粉挽き小屋の前で受け渡すと思う」


「それです」


 俺は頷いた。


「ガルドさんへ伝えてください。女を追いすぎない。粉挽き小屋の前と水路側へ先回り。封印係は近くで待機。領兵は目立たないように」


 職員が走る。


 リーナが俺を見た。


「今、何か使いましたか」


 鋭い。


「少しだけ、考え方を借りました」


「物語模倣ですか」


「低出力です」


「それでも、疲れますね?」


「はい」


「戻り札を」


 また即座だ。


 俺は札を読んだ。


「俺はアスト。役割は運び手。推理も目的じゃない。道を守る手段。使ったら戻る」


【戻り札:有効】


【推理模倣残滓:低下】


【自己固定率:96%】


 よし。


 安定している。


 数字は誰にも言わない。


 だが、リーナは俺の呼吸が少し落ち着いたのを見て、小さく頷いた。


「続けるなら、水を飲んでください」


「はい」


 完全に管制塔の燃料補給である。


     ◆


 最初の報告は、思ったより早く来た。


「黄色い布の女、職人通りから裏道へ。追跡班は距離を置いて追っています。粉挽き小屋前に、袋を持った男1人を確認!」


「袋の特徴は?」


「茶色の布袋。黒紐あり」


「黒札対象。触らない。男を捕まえるより、袋の位置を固定」


 セリアが書く。


 次の報告。


「黄色い布の女、粉挽き小屋へ入らず、水路側へ抜けました。袋の男と接触なし」


「接触なし?」


 マルセルが眉を寄せる。


「では囮か」


「いえ」


 俺は地図を見る。


 女が水路側へ抜ける。


 袋の男は粉挽き小屋前。


 接触しない。


 なら、受け渡しは人同士ではない。


「粉挽き小屋の中か、外に置き場があります。女は通っただけで、視線を流した。男はその視線を合図にした可能性があります」


 ノルが言う。


「あそこ、古い粉袋を吊るす梁がある。袋を上から落とせるかも」


「梁?」


「小屋の裏に、壊れた滑車が残ってる。昔、粉袋を吊ってた」


 これだ。


「粉挽き小屋の中、上も確認。梁、滑車、吊り袋。下だけ見ないように」


 伝令が飛ぶ。


 リーナが水を差し出す。


 俺は黙って飲んだ。


 頭が熱い。


 見える線が増える。


 黄色い布の女。


 粉挽き小屋。


 袋の男。


 黒紐。


 梁。


 滑車。


 水路。


 欠け指は、人から人へ渡さない。


 場所を使う。


 道具を使う。


 見られても、接触していないと言い逃れできる。


 やり方がだんだん見えてきた。


【推理模倣深度上昇】


【警告:過集中】


 戻れ。


 まだ早い。


 俺は札を握った。


「俺はアスト。役割は運び手。推理は道具。俺自身じゃない」


【戻り札:有効】


 少し楽になる。


 その時、ガルド本人からの伝令が来た。


「粉挽き小屋の梁に革袋2つ。封印係が確認中。袋の男を拘束。黄色い布の女は水路側へ逃走。ガルドさんが追わず、水路出口を封鎖」


「追わない?」


 職員が不思議そうに言う。


 俺は頷いた。


「正解です。黄色い布の女は追わせる餌です。逃げた先に別の罠があるかもしれない。出口を塞げばいい」


「でも逃げませんか」


「逃げても、荷は取れました。今はそれでいい」


 全部を追うな。


 欠け指側は、追わせる。


 こちらが追えば、足元の荷を見落とす。


 今日は、それを避ける。


     ◆


 封印係の結果は、昼過ぎに届いた。


 革袋2つのうち、1つは黒鳴石の細片。


 もう1つは、妙な乾草束だった。


 リーナがその報告を見て、顔を変えた。


「乾草束?」


「知っていますか」


「薬草に似せた毒草の可能性があります」


 部屋の空気が変わった。


「毒草?」


「はい。見た目が一部の解熱薬草に似ている草があります。煎じると腹痛と嘔吐を起こす。熱病の患者に使えば危険です」


「鉱山町か谷村に混ぜる気だった?」


「可能性があります」


 俺は背筋が冷えた。


 黒鳴石で道を荒らす。


 匂い薬で魔物を寄せる。


 偽札で人を曲げる。


 そして今度は、薬草に毒草を混ぜる。


 道だけではない。


 届いた先まで汚すつもりか。


「欠け指側は、薬草便の信用も壊したいんですね」


 俺が言うと、リーナが頷いた。


「もし毒草が薬草に混ざり、患者に被害が出れば、軽急便だけでなく薬師側も疑われます」


 マルセルが低く言う。


「薬草の流れを止められる」


「はい」


 これは赤だ。


 ただの危険荷ではない。


 届いた先の命を汚す荷だ。


「薬草系の荷は、今後リーナさんか薬師の確認印を追加しましょう」


 俺は言った。


「全部ですか」


 マルセルが渋い顔をする。


「熱病対応、鉱山町、谷村、治療に使うものだけです。通常の乾草や香草までは無理。薬として使うものに限る」


 リーナが頷く。


「薬師印が必要です。見習いだけではなく、責任者の印も」


「重くなりますか」


「少し。でも必要です」


 鎖がまた増える。


 だが、これは必要な鎖だ。


 ただし軽くする方法を考える。


「薬草には緑札を作りましょう」


 俺は言った。


 セリアが反応する。


「また色が増えますか」


「はい。でも危険分類じゃなく、専門確認札です。緑は薬師確認済。緑なしの薬草は軽急便で出さない」


「薬草専用なら混乱は少ないですね」


「赤、黄、白とは別。荷の種類の印です」


 セリアが書く。


 緑札。


 薬師確認済。


 薬草・薬品のみ。


 未確認は出荷不可。


 リーナが少し考え、言った。


「緑札には、薬師名も必要です」


「セリアさん、短くできますか」


「薬師印と日付印で足ります」


「お願いします」


 色札が増える。


 でも、ただ増やすのではない。


 役割を分ける。


 赤黄白は危険度。


 緑は専門確認。


 混ぜると重くなる。


 分ければ軽い。


     ◆


 午後、拘束された袋の男の聞き取りが行われた。


 俺は同席しなかった。


 リーナに止められたからだ。


 代わりに、ガルドが要点を持ってきた。


「男は荷の中身を知らないと言っている」


「またですか」


「ああ。ただし、黄色い布の女とは何度か会っている。名はサナと呼ばれていたらしい」


「サナ」


 初めて名前らしきものが出た。


 黄色い布の女。


 サナ。


「欠け指との関係は?」


「知らない、と。ただ、サナは欠け指の言葉を伝える役だと」


「伝える役」


「そして、欠け指は“道を折るには、柱を折るな。結び目を腐らせろ”と言っていたそうだ」


 嫌な言葉だった。


 柱を折るな。


 結び目を腐らせろ。


 つまり、大きな施設や人を直接壊すのではなく、つなぎ目を狙う。


 受付。


 半札。


 臨時仕事。


 薬師確認。


 日雇い。


 水門。


 まさにそこだ。


 欠け指の狙いが、少しはっきりした。


 道そのものではなく、道の結び目を腐らせる。


「なら、次に守るべきは結び目です」


 俺は言った。


「受付、荷場、薬師、職人通り、灰鴉亭、門、水門。全部は守れない。だから結び目ごとに、担当を決める」


 セリアが頷く。


「結び目札?」


「はい」


 また札か、と自分でも思う。


 だが、仕方ない。


 この世界の俺の武器は、札と道と自己暗示だ。


「結び目ごとに責任者を置く。受付はセリアさん。荷場はマルセルさんの職員。薬草はリーナさんと薬師。日雇いはノルさん補助。門は領兵。灰鴉亭はダンテ。水門は領兵とギルド職員」


「ノルに責任者は重い」


 マルセルが言う。


「責任者ではなく補助です。日雇いの言葉を見る役。最終判断はギルド職員」


「それならいい」


 ノルは少し緊張した顔で頷いた。


「俺、見るだけならできる」


「見るだけじゃない。拾って伝える。それが大事です」


 ノルは「拾って伝える」と小さく繰り返した。


 自分の役割を確かめるように。


     ◆


 夕方、逃げた黄色い布の女、サナからのものと思われる紙片が見つかった。


 場所は水路出口近くの石壁。


 そこに、小刀で刺してあったらしい。


 紙には短く書かれていた。


 追わなかったのは賢い。


 だが、追わぬ者は届かぬ者だ。


 次は、届かせてみろ。


 その下に、簡単な絵があった。


 山道。


 荷車。


 丸い印。


 俺はその絵を見て、息を止めた。


「これは……鉱山道?」


 リーナが横から覗き込み、表情を変えた。


「鉱山町へ向かう道に似ています」


「次は鉱山道を狙う?」


「可能性があります」


 鉱山町。


 薬草。


 バルム。


 熱病。


 あの道は、まだ重要だ。


 欠け指側は、こちらの結び目を腐らせようとしている。


 なら、鉱山道の結び目はどこか。


 ハルダ集落。


 古渡し。


 谷村。


 鉱山町南門。


 薬師の店。


 バルム。


「次の舞台は北道ですね」


 俺が言うと、ガルドが頷いた。


「今度は向こうが場所を指定してきた」


「挑発です。でも、本命でもあるかもしれない」


 追わせる罠か。


 それとも、守らざるを得ない場所への攻撃か。


 どちらでも、無視できない。


 俺は地図を見る。


 領都から鉱山町までの道。


 最初に薬草を運んだ道。


 バルムを届けた道。


 谷村を救った道。


 そこへ、欠け指が手を伸ばす。


 なら、こちらも次の段階へ進むしかない。


「北道用の軽急便を組み直しましょう」


 俺は言った。


「今までの応急じゃなく、正式な北道便。赤黄白、緑札、結び目担当、半札、薬師印。全部を重くしすぎず、北道用にまとめる」


 マルセルが腕を組む。


「大仕事だぞ」


「はい。でも、ここを守れば軽急便の信用は一段上がります」


「守れなければ?」


「落ちます」


「正直だな」


「嘘を言っても仕方ないので」


 オルディンが静かに口を開いた。


「やる価値はある」


 ギルド長の声で、部屋の空気が決まった。


「北道は今、薬と人と物資の道だ。そこを欠け指に汚されれば、軽急便どころか領都の信用にも関わる」


「俺も行く」


 ガルドが言った。


「当然だ」


 オルディンが頷く。


 リーナも言った。


「薬草確認には私も関わります」


「あなたは戻ったばかりだろう」


 マルセルが言う。


「だからこそ、北道と薬草の状況を知っています」


 リーナは一歩も引かない。


 俺は少し笑った。


 強い。


 本当に強い。


 俺が戦闘模倣で無理やり強くなるより、こういう強さの方が頼もしい。


「俺は?」


 ノルが小さく聞いた。


 マルセルは渋い顔をしたが、俺は答えた。


「日雇いと裏道の言葉を見る補助。北道に行くかは別として、出発前の札と人員確認には必要です」


「わかった」


 ノルは緊張しながらも頷いた。


 みんなの役割が決まっていく。


 結び目を腐らせないために。


     ◆


 夜、下宿へ戻ると、俺はいつもより強い疲れに襲われた。


 推理模倣を何度か使った。


 低出力とはいえ、頭の奥が熱い。


 リーナに薬を飲まされ、食事も取らされ、ベッドへ押し込まれた。


「明日から忙しくなります」


 リーナが言った。


「わかってます」


「だから、今夜は寝てください」


「はい」


「返事だけではなく」


「本当に寝ます」


 彼女は少しだけ疑う目をしたが、やがて頷いた。


「戻り札を読んでから寝てください」


「はい」


 リーナが部屋を出た後、俺は戻り札を手に取った。


 俺はアスト。


 役割は運び手。


 戦闘も推理も目的ではない。


 道を守る手段。


 怒りは判断材料。目的ではない。


 使ったら戻る。


 追うな。


 流れを見ろ。


 結び目を守れ。


【戻り札:有効】


【自己固定率:96%】


【推理模倣残滓:低下】


【状態:安定】


 追うな。


 流れを見ろ。


 結び目を守れ。


 今日の言葉だ。


 黄色い布の女を追わなかったから、荷を見つけられた。


 サナという名前も出た。


 欠け指の言葉も見えた。


 道を折るには、柱を折るな。


 結び目を腐らせろ。


 なら、こちらは結び目を守る。


 受付。


 荷場。


 薬師。


 日雇い。


 水門。


 門。


 そして北道。


 次は、鉱山町への道だ。


 薬草を届けた道。


 バルムを届けた道。


 谷村を救った道。


 そこを汚させるわけにはいかない。


 俺は目を閉じた。


 信じ込めた力だけが、俺の武器になる。


 なら今夜は、こう信じる。


 俺は追跡者じゃない。


 追うのではなく、道の先で待つ運び手だ。


 黄色い布が逃げても、荷の流れは逃がさない。


 次の北道で、それを証明する。


第26話─了

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