第10話 荷は、届いてから働く
渡河成功の報告が届いた後も、俺はすぐには安心できなかった。
薬草は川を越えた。
箱に浸水はない。
騾馬も合流した。
不審者との小競り合いも避けられた。
そこまではいい。
だが、荷は目的地に置けば終わりではない。
届いた先で使えなければ、荷としては失敗だ。
特に今回の荷は薬草だ。
鉱山町には、熱病に苦しむ人がいる。
薬草が薬師の手に渡り、調合され、患者に飲ませられて、ようやく意味がある。
俺は地図の北側を見つめながら、木札を並べ直した。
鉱山道。
南門。
薬師の店。
鉱山病舎。
患者。
受け取り。
調合。
配布。
考えることは、まだ山ほどある。
「まだ何かする気か」
マルセルが呆れたように言った。
「届いた後で揉めたら困ります」
「薬師に渡せば終わりだろう」
「本当にそうですか?」
俺はリーナを見た。
リーナは少し考え、首を横に振った。
「熱病が広がっているなら、町は混乱しているはずです。薬草が届いたと知られれば、患者の家族が薬師の店に押しかけるかもしれません」
「ほら」
俺が言うと、マルセルは渋い顔をした。
「嬉しそうに言うな」
「嬉しくはないです。ただ、ありそうだと思って」
熱病。
薬草。
間に合うかどうかわからない命。
そこに「薬が届いた」という話が流れれば、人は冷静でいられない。
前の世界でも、災害時の物資はそうだった。
届いただけで終わりではない。
誰に、どこで、どう渡すか。
それを間違えると、奪い合いになる。
善意も不安も、段取りがなければ混乱を生む。
「リーナさん。薬師が受け取った後、最初にやることは?」
「薬草の状態確認です。湿気、変色、折れ、混入。それから必要量を量って、熱の高い患者から使います」
「患者を選ぶ必要がありますよね」
「はい。全員に一度に使える量ではないなら、重い者、助かる可能性が高い者、周囲に広げる恐れがある者を優先します」
リーナは淡々と言った。
だが、その目は少し厳しい。
薬を扱う者にとって、それはきれいごとでは済まない判断なのだろう。
「なら、薬師以外に触らせたらまずい」
「はい。薬草を勝手に分けられたら、量も調合も狂います」
「じゃあ、受け渡しの指示を追加します」
俺は新しい木札を取った。
手はまだぎこちないが、この世界の文字にも少し慣れてきた。
リーナが横から筆を持つ。
「私が書きます。あなたの字だと、鉱山町の薬師が読みにくいかもしれません」
「正直で助かります」
「急ぎの荷に読みにくい字は危険です」
ごもっとも。
俺は口頭で内容を伝え、リーナが書いていく。
薬草は鉱山町南門近くの薬師へ直接渡すこと。
受け取りには薬師本人、または薬師が指定した者のみ立ち会うこと。
箱はその場で開けず、店または調合場所で開けること。
患者や家族が集まる場合、鉱山側の責任者に人を並ばせること。
薬草を売買や横流しに使わないこと。
使用順は現地薬師の判断を優先すること。
マルセルが途中で眉をひそめた。
「横流しまで書くのか」
「書きます」
「鉱山町の者を疑っているように見えるぞ」
「疑っているんじゃなくて、揉める余地を減らしています」
「同じようなものだ」
「でも、書いていなかったら後で言われます。そんな指示はなかった、と」
マルセルは黙った。
それから、諦めたように鼻を鳴らした。
「本当に嫌なところを先に見る」
「嫌なところを後で見る方が嫌なので」
ガルドが低く笑った。
「こいつの言うことは、だいたい陰気だが役に立つ」
「褒めてます?」
「半分はな」
「残り半分は?」
「面倒だ」
「ですよね」
俺は苦笑した。
だが、この面倒を省けば、現場でもっと大きな面倒になる。
それだけはわかる。
リーナが書き終えた木札を確認し、ギルド印を押した紙片に写す。
木札は丈夫だが、薬師へ渡す正式な文としては紙の方がいいらしい。
マルセルがそれを職員に渡した。
「次の伝令に持たせる」
「お願いします」
俺は地図を見た。
薬草隊は鉱山道に入った。
川の妨害は越えた。
残る危険は、道中の魔物、騾馬の疲労、そして鉱山町側の混乱。
まだ終わっていない。
だが、確実に進んでいる。
◆
その日は、待つだけで過ぎた。
待つだけ。
言葉にすれば簡単だが、実際にはかなりきつい。
報告が来ない時間ほど、不安は育つ。
あの道で止まっているのではないか。
騾馬が足を痛めたのではないか。
薬草箱が崩れたのではないか。
不審者が追ってきたのではないか。
鉱山町で奪い合いになっているのではないか。
考え出すときりがない。
俺はそのたびに、木札を並べ直した。
今わかっていること。
まだわからないこと。
起きたら困ること。
起きた場合の手。
頭の中だけで不安を回すと、どんどん膨らむ。
だから、外に出す。
木札にする。
見える形にする。
荷と同じだ。
積み場所がわからないまま詰め込むから崩れる。
不安も、置き場所を決めれば少しはましになる。
「あなたの頭の中は、倉庫みたいですね」
リーナが言った。
「散らかってます?」
「散らかりそうになる前に、棚を作っている感じです」
「それはいい評価ですか」
「たぶん」
「たぶん」
珍しく曖昧な返事だった。
リーナは俺の傷を見たあと、食事を持ってきた。
また食べるのかと思ったが、身体は素直に腹を鳴らした。
自然治癒促進は、やはり燃費が悪い。
傷を治すには材料がいる。
なら、食べるのも仕事だ。
俺は自分にそう言い聞かせ、固いパンを噛んだ。
夕方になる頃、俺は杖を使って作業部屋の中を少し歩けるようになっていた。
リーナの許可つきで、ほんの数往復だけだ。
背中はまだ痛む。
太腿も長く立つと重い。
だが、動ける。
寝たきりではない。
それだけで気分が違った。
【自己暗示:自然治癒促進】
【状態:安定】
【推奨:短時間歩行・十分な栄養・睡眠】
【警告:戦闘行動は不可】
わかってる。
戦う気はない。
少なくとも今は。
俺の戦場は机の上だ。
地図の上だ。
道の上にいる荷を、ここから追いかけることだ。
◆
薬草急送隊から次の報告が届いたのは、翌日の昼過ぎだった。
伝令は鉱山町側から来た若者だった。
顔色が悪い。
かなり急いできたのだろう。
それでも、目には興奮があった。
「薬草隊は、鉱山町の南門に入りました!」
その一言で、部屋の空気が変わった。
俺は椅子から立ち上がりかけ、リーナに目だけで止められた。
座ったまま聞く。
学習した。
「箱は?」
「無事です。少し外布が濡れていましたが、油紙の内側は無事でした。薬師が確認しました」
「薬草の状態は?」
リーナが鋭く聞く。
「白根草が少し折れていたそうですが、薬効に大きな問題はないと。蒼苦葉も湿気は少ないと聞いています」
リーナが小さく息を吐いた。
「なら、使えます」
よし。
ただ届いただけではない。
使える状態で届いた。
「町の様子は?」
俺が聞くと、若者の顔が曇った。
「混乱していました。薬草が来ると聞いて、南門に人が集まっていました。鉱夫の家族や、鉱山の人足、それから鉱山役人も」
「奪い合いは?」
「起きかけました」
部屋の空気が一気に重くなる。
「詳しく」
「薬草隊が南門に入った時、鉱山役人の1人が、薬草は鉱山管理所へ運ぶと言いました。けれど、ミロが先に薬師へ知らせていて、薬師本人が門まで来ていました」
ミロ。
先触れ役。
ちゃんと仕事をした。
「それで?」
「薬師が、薬草は調合前に動かすなと言いました。鉱山役人は怒りましたが、ラウルさんがギルド印の指示書を見せました。薬草の受け取りは薬師本人。使用順は薬師判断。そう書いてあると」
俺はリーナを見る。
リーナが書いた指示書だ。
リーナは表情を変えなかったが、指先が少しだけ緩んだ。
「役人は引いたんですか」
「最初は引きませんでした。ですが、門にいた人たちが騒ぎ始めて……」
「悪い方向に?」
「いえ。薬師に任せろ、と」
意外だった。
若者は続ける。
「薬師は町で信頼されています。鉱夫の家族も、あの人が使うなら文句はないと。逆に、管理所へ持って行かれたら上の者から使われるのではないかと疑われていました」
なるほど。
現地の信頼関係。
これは机の上ではわからない。
だが、薬師本人を受け取りに指定したのは正解だった。
荷の受け取り先は、ただ近ければいいわけではない。
信用のある場所に届ける。
それが混乱を抑えることもある。
「トマさんたちは?」
「トマさんは門で人を下がらせていました。槍は抜かず、でも近づかせないように。ニコさんは騾馬を落ち着かせていました。ラウルさんは周囲を見て、不審な者がいないか確認していました」
「怪我人は?」
「いません」
俺は深く息を吐いた。
肩の力が抜ける。
誰も怪我をしていない。
それが一番いい。
「薬草はもう調合に?」
「はい。最初の分はすでに煎じられています。重い患者から順に飲ませると。薬師から、ルーヴェンの商人ギルドへ感謝を伝えてほしいと頼まれました」
届いた。
使われ始めた。
俺は目を閉じた。
ようやく、胸の奥に詰まっていたものが少しだけほどけた。
剣を振ったわけではない。
魔法で魔物を焼いたわけでもない。
でも、薬草は届いた。
使える状態で。
必要な人の手に。
俺の段取りが、誰かの命に届いた。
その実感が、じわりと胸を満たす。
【任務進行】
【薬草急送隊:鉱山町到着】
【荷状態:使用可能】
【受け渡し:成功】
【役割固定:運び手】
【評価:初回急送任務を達成】
表示を見て、俺は小さく笑った。
達成。
その言葉が、こんなに重く感じるとは思わなかった。
「まだ患者が助かったわけではありません」
リーナが静かに言った。
「わかってます」
「薬は万能ではありません。間に合わない人もいるかもしれません」
「はい」
「でも、薬草は届きました」
リーナは俺を見た。
「あなたの段取りで」
俺は少しだけ言葉に詰まった。
そう言われると、妙に照れくさい。
「俺だけじゃないです」
それでも、そこははっきり言った。
「ラウルさんが道を見て、トマさんが守って、ニコさんが馬を見て、ミロが先に知らせた。ハルダの人たちも動いてくれた。リーナさんが梱包と指示書を書いた。ガルドさんとマルセルさんが人と金を出した」
俺は机の上の木札を見る。
そこには、いくつもの名前が並んでいる。
「俺は、並べただけです」
マルセルが鼻を鳴らした。
「並べる者がいなければ、荷は散る」
珍しく、真面目な声だった。
「今回は、それがよくわかった」
ガルドも頷いた。
「戦わずに通せたのは大きい。相手を倒すより、荷を守る方が難しい時もある」
「ガルドさんにそう言われると、ちょっと嬉しいですね」
「調子に乗るな」
「はい」
即答した。
リーナがこちらを見る。
「本当に、調子に乗らないでください」
「2人がかりで釘刺されてる」
「必要なので」
「信用がない」
「実績があります」
俺は何も言えなかった。
◆
報告はその後も続いた。
薬草隊は鉱山町に一泊する。
騾馬と人足の費用は、現地で仮払い。
不審者がいた古渡しの件は、商人ギルドから領兵へ正式に報告する。
川守崩れが勝手に金を取っていたことも、ハルダ集落の証言つきで扱われるらしい。
マルセルは帳面に費用を書き込みながら、何度も舌打ちしていた。
「銀貨が飛ぶ」
「でも、薬草は届きました」
「それが救いだ」
「費用、結構かかりましたね」
「初回だからな。次はもっと削れる」
「削る場所を間違えないでくださいね」
俺が言うと、マルセルが睨んだ。
「お前は本当に商人の嫌がることを言う」
「運び手なので」
「便利な言葉だ」
「気に入ってます」
マルセルは呆れたように笑った。
そのあと、彼は真面目な顔で帳面を閉じた。
「だが、今回の件で1つわかった」
「何です?」
「急ぎの荷は、大きな隊商ごと急がせる必要はない。荷の性質に応じて分ける。人も馬も道も、それに合わせる」
「はい」
「これは商売になる」
やはり、そこへ行くか。
商人としては当然だ。
成功したやり方は、次の商売になる。
薬草。
手紙。
契約書。
小さくて高価な品。
急ぎの部品。
この世界にも、急いで届ける価値のある荷は山ほどあるはずだ。
「急送便ですか」
「名はまだ決めていない」
「名前、大事です」
「そこまで口を出すか」
「名前が決まると、仕事の形も決まります」
マルセルは少し考えた。
「軽急便、か」
「悪くないですね」
「お前が考えたような顔をするな」
「してません」
少しして、オルディンが作業部屋に現れた。
ギルド長は、すでに報告を受けている顔だった。
相変わらず、薄い笑みを浮かべている。
「アスト」
「はい」
「初仕事、ご苦労だった」
「まだ患者さんの結果は出ていません」
「もちろんだ。だが、荷は届いた。しかも、使える状態で」
オルディンは机の上の木札を見た。
「これを残しておけ」
「記録としてですか」
「そうだ。今回の急送は、今後の型になる」
「型」
「人は、成功を忘れる。失敗も都合よく忘れる。だが、記録にすれば次に使える」
その言葉に、俺は頷いた。
この人はやはりわかっている。
1回の成功で終わらせない。
仕組みにする。
それが商人ギルドの力なのだろう。
「報酬の話をしよう」
オルディンが言った。
マルセルが少し嫌そうな顔をした。
俺は背筋を伸ばす。
痛い。
でも、ここは大事だ。
「今回の薬草急送。段取り役としての臨時報酬を出す。銀貨2枚」
「銀貨2枚」
この身体の記憶では、かなり大きい。
少なくとも、今の俺には。
「多いんですか?」
俺がリーナに小声で聞くと、リーナは真顔で頷いた。
「多いです」
「なら、ありがとうございます」
俺は素直に頭を下げた。
オルディンは続ける。
「ただし、治療費、下宿代、食費は別だ」
「そこは引くんですね」
「商人ギルドだからな」
「ですよね」
マルセルが少し笑った。
オルディンは、今度は俺の目をまっすぐ見た。
「それと、日当を上げる」
部屋の空気が少し動いた。
「銅貨10枚から、銅貨12枚へ。正式登録前の見習いとしては破格だ」
「ありがとうございます」
「安売りしなかった成果だと思え」
ガルドが横で小さく頷いていた。
昨日の助言を思い出す。
安く売るな。
少しだけ、守れたのかもしれない。
「ただし」
オルディンの声が低くなる。
「君はまだ危うい。スキルも、身体も、立場もだ。今回うまくいったからといって、すべて任せられるわけではない」
「わかっています」
「本当に?」
その目は鋭かった。
俺は少し考えてから答えた。
「わかっているつもりです。でも、たぶん調子に乗りかけます」
リーナが横で頷いた。
早い。
そこは頷かなくていい。
「なので、止める人が必要です」
俺は続けた。
「身体のことはリーナさんに。戦いのことはガルドさんに。金と商売はマルセルさんに。ギルドの判断はオルディンさんに。俺1人で全部決めるのは危ないです」
オルディンの目が、ほんの少しだけ変わった。
「自分でそう言えるなら、まだ使える」
「褒め言葉として受け取ります」
「褒めている」
珍しく、はっきり言われた。
少しだけ嬉しかった。
だが、そこで気を抜いてはいけない。
俺はまだ怪我人だ。
異世界に来て数日。
スキルも半分以上わかっていない。
物語模倣の本質は、誰にも話していない。
これから先、もっと危ないことが起きるだろう。
それでも。
今日、俺は1つ荷を届けた。
それは確かだった。
◆
夕方。
俺は下宿の部屋に戻った。
杖をつけば、短い距離なら歩ける。
もちろん、リーナの監視つきだ。
部屋の窓からは、領都の屋根と夕焼けが見えた。
赤い光が石畳を照らし、遠くで荷車の音がする。
街は今日も動いている。
荷が運ばれている。
人が働いている。
その流れの中に、俺は少しだけ入り込めた。
机の上には、銀貨2枚と、これまでの残りの硬貨。
それから、商人ギルドの仮登録証。
金がある。
寝床がある。
仕事がある。
この世界で最初に手にした足場だ。
俺は椅子に座り、ゆっくり息を吐いた。
「俺。51歳。大型トラック運転手。日本で事故に遭った」
いつもの確認をする。
「今はアスト。ルカ村出身の身体。領都ルーヴェンの商人ギルド臨時雇い。固有スキルは自己暗示」
【自己確認行動を検知】
【自己固定率:95%】
「役割は運び手。荷を、人を、時間を、信用を届ける」
【役割固定:運び手】
【補助派生:運行管理】
【任務達成経験により安定度が上昇】
安定度が上がった。
その表示に、少しだけ安心する。
俺はまだ、俺でいられる。
物語の力に呑まれず、怪物にならず、英雄ぶらずに済んでいる。
少なくとも、今は。
その時、扉が叩かれた。
「入ります」
リーナだった。
手には薬箱ではなく、小さな包みを持っている。
「夕食ですか」
「違います。鉱山町からの追加報告です」
俺は背筋を伸ばした。
「もう?」
「早馬で届いたそうです。薬を飲んだ患者のうち、何人かの熱が下がり始めたと」
言葉が出なかった。
リーナは包みから、小さな木片を取り出した。
そこには、薬師からの短い礼が刻まれているらしい。
俺はまだ全部は読めない。
リーナが代わりに読んでくれた。
「薬草、確かに受け取りました。湿気少なく、調合に耐える状態。重症者より使用開始。数名、発汗あり。熱が動きました。命をつなぐ荷でした。感謝します」
命をつなぐ荷。
その言葉が、胸の奥に深く沈んだ。
助かったと決まったわけではない。
全員が救われるわけでもない。
それでも、薬草は命につながった。
俺は目を閉じた。
あの夜、トラックごと崖から落ちた時。
もう俺の運ぶものは終わったと思った。
だが、終わっていなかった。
世界が変わっても、道はあった。
荷はあった。
待っている人がいた。
「……届いたんやな」
小さく呟いた。
リーナは静かに頷いた。
「はい。届きました」
窓の外で、夕方の鐘が鳴る。
領都の1日が終わっていく。
だが、俺の中では何かが始まっていた。
剣ではない。
魔法でもない。
自己暗示で何者にもなれるとしても、まず俺が信じ込めるのはこれだ。
俺は運び手だ。
届かせる者だ。
そしてこの世界には、まだ届いていないものが山ほどある。
薬。
食料。
情報。
人。
信用。
未来。
俺はそれを運ぶ。
俺にできる形で。
俺を失わないやり方で。
信じ込めた力だけが、俺の武器になる。
なら、今の俺の武器ははっきりしている。
道を見る目。
荷を読む耳。
人をつなぐ段取り。
そして、届かせると決める意志。
俺は銀貨よりも、登録証よりも、その言葉を強く握った。
命をつなぐ荷。
それを届けたという事実が、この異世界での俺の最初の看板になった。
第10話─了




