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七人の令嬢  作者: 夕景孤影
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41. ザフィーラ「黄金の都マハヴァ―ル」


相変わらず芝居がかった仕草でこちらに手を差し出す。今にもロマンチックな音楽が流れてきて、二人で手を取り合って踊りながら歌い出すシーンが始まりそうだ。

……いや、歌うわけがない。この手を取ったが最後、二人で離宮の衛兵たちに追われ、最後は屋根の上まで追い詰められ、そこから一緒に墜落死する運命が待っている。


「私はこの離宮を離れることができません。それも私に巣食う呪いの一部なのです。逆らえば私は醜く巨大な怪物となり、この帝国を滅ぼすまで苦痛で暴れ続けるでしょう」 


「まさか……インチキ預言者の戯言だ!呪いなど信じるものか!」


思ったより諦めの悪い男だ。でも簡単に諦めるようなお利口さんでは役に立たない。手駒として役に立つのはどんな困難にもめげない不屈のお馬鹿さん。この皇子はうってつけかもしれない。私は少し離れた窓辺まで移動すると、半身を隠したシーツからそっと手を伸ばす。


「なっ……サフィーラ!その手は……」


窓の外の月明かりに照らされた私の肌は、ミイラのようにカサカサにひび割れ、くすんだ色に変色していた。


「まさか……それが呪いなのか?」


近寄ろうとするクルンバトを制止する。タネを見破られるわけにはいかない。


「いけません、近付いては!呪いが皇子様を害するかもしれません!」


急いで窓の外の手をシーツの中に引っ込める。


「僕は呪いなど恐れない!見せてくれ!」


詰め寄ってくる皇子から後ずさりながらシーツに隠した手を出すと、あら不思議。一瞬のうちに元の綺麗な手に戻っている。


「大丈夫です。この部屋の中にいる限り、呪いに蝕まれることはありません」


実は割られた窓のモザイクガラスを細かく砕いて粉末状にし、袋に包んで隠してあった。

シーツの陰で窓辺にあった水瓶に軽く手を触れて濡らし、袋の粉をふりかけつつシーツから窓の外に手を伸ばすと、くすんだ色の粉が肌に付着してカサカサひび割れたような質感に見える。それを遠目で皇子に見せてから、引っ込めた手をシーツの中で拭って、もう一度出して見せた時には元通り。という至って単純なトリックだ。アリファハッドなら一瞬で見破っただろう。でもこの単純な……よく言えば純粋なクルンバトは簡単に引っ掛かる。手駒として役に立つのはこういうタイプだ。


「一つだけ……呪いを解く方法があると聞いたことがあります」


さあ本題。彼には行ってもらいたい場所がある。


「教えてくれ!たとえどんなに困難な方法だろうと、僕は必ず君を救ってみせる!」


悪い男ではない。ちょびヒゲさえ剃れば見た目もそう嫌いじゃない。でも歩く死亡フラグには早々にここから立ち去ってもらいたい。


「南の果て、黄金の都マハヴァールをご存じですか?」


「マハヴァール?ああ、トゥグラニが追放されたあの辺境か。そういえば金が採れるとか言っていたな」


第九皇子トゥグラニはクルンバトと同い年で腹違いの兄だが、考え無しに動く弟と違って若いのに抜け目の無い男だ。兄たちの目が光るこの聖都パルサーンでは身を立てる道が無いと早々に見切りをつけ、自ら口実を作って南の辺境に拠を移した。

目を付けたのは大陸の南端、マハヴァール王国。広大で豊かな領土を持つが、統治が行き届かず、いくつかの小国が分離独立して国力を失いつつある。この地を手中に納めれば、大帝国の版図はさらに拡大し、トゥグラニ皇子は自分だけの独立した勢力圏を築くことができる。


彼がいずれ帝国に反旗を翻して兄たちを滅ぼしてくれるならそれも悪くない展開だけど、一体いつになるかわからない。それより東からオウラン、西からワシリウス、二つの大国に攻めてもらう方が早く確実に帝国の滅亡に近付く気がする。そのためにもやっぱり、東西の橋渡し役になるアユラにマハヴァールをなんとかしてもらった方がいい。まずはそこに布石を打とう。


「ジャルナ族という山の民の姫にこの手紙を渡してください。彼女が呪いを解く手掛かりを教えてくれるはずです」


もちろん嘘だ。でも私の読み通りなら、これでアユラのシナリオは大きく動くはず。


「わかった!必ず手掛かりを手に入れてみせる。待っていてくれ、ザフィーラ!」


使命感に燃えた皇子が迫ってきて、熱く抱擁される。かわそうと思ったけど、足元にさっきシーツで拭き取ったガラスの粉が落ちているのに気付いて、それ以上後退るのはやめておいた。


「皇子……どうかお気を付けて」


私は抱擁に応えるフリをしながら、床に散らばった粉をさりげなく足で隠した。



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