表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
七人の令嬢  作者: 夕景孤影
PR
4/44

4. ルイザ「それは愛情ではないかもしれない」


「儂はずっと、長子であるイェルミが次の大公になると言い続けてきた。だが、イェルミとチェザレのどちらが人の上に立つに相応しいか、答えは見ての通りだ」


静まり返っていたホールがまたざわつき始める。卒業記念パーティーが一転、公国の未来を左右する後継者問題の結論の場になろうとしている。

私はそっとイェルミ様の表情を窺った。真っ青になって、まるで叱られた子供のような、今にも泣き出しそうな顔。逆らえない相手にはどれほど横柄に振る舞っていても、本当は弱い方なのだ。私はそれを知っていたから、この方を助けなければいけないと思った。それは愛情ではないかもしれない。だけどただの義務感でもない。一種の使命感のようなものだったかもしれない。たとえ拒絶されても、私はこの方を助けたかった。それは本心だ。


「……それでも馬鹿な親心で、儂は最後のチャンスを与えたいと思った。ルイザ、お前のように辛抱強く聡明な娘の助けがあれば、この愚か者がいつか目を醒ましてくれるかもしれぬと」


「申し訳ありません……」


うなだれる私に(かぶり)を振って見せ、大公様は続けた。


「……だが感謝を知らぬ者の心は不毛の砂漠と同じ。いくら水を与えても花が咲くことは無い。輝かしい未来のあるお前に長く無駄な時間を過ごさせてしまった」


私を見る大公様の目に、言葉通りの後悔の色がありありと浮かんでいた。そして深い諦めのため息とともに、最後の決定が下された。


「この期に及んで、ワシもようやく心が決まった。イェルミには西パルマスを領地として与える。次の大公はチェザレ、お前だ」


チェザレ様は何か言いかけた言葉を呑み込み、打ちひしがれた兄の姿を見ないように俯いたまま小さく「………はい」と答えた。


「ち、父上……どうか………」


イェルミ様はすがるような目で大公様に近付こうとしたが、鋭い眼光で射すくめられ、その場に崩れ落ちるように膝をついた。声にならない叫びを上げてそのままうずくまってしまった彼に、私はもう何も言葉をかけてあげることはできない。フィローナさんも彼の隣に呆然と立ち尽くし、声を失っていた。その姿に大公様が目を向ける。


「フィローナ・ベル」


自分の名前が呼ばれたことに少し遅れて気付き、フィローナさんは「はっ、はい!」と声を裏返らせた。


「先の言葉には胸を打たれた。この先、イェルミは辺境の貧しい領地で苦労することも多いだろう。だがどうか君だけは、最後まで愚かな息子の味方でいてやってほしい」


「も、もちろんです!」


そう答えたものの、フィローナさんの顔には明らかな動揺と迷いが浮かんでいた。自分にできなかったことを彼女に期待するのは身勝手だと思うけれど、どうかこの先もずっと一途な愛でイェルミ様に寄り添ってあげてほしい。遠い辺境の地でも、身分が大公じゃなくても、二人で支え合って幸せになってほしい。

そんな願いを込めてフィローナさんを見ると、彼女も私に目を向け、視線が合った。恨みと後悔に満ちたその目が「こんなはずじゃなかった」と語っているのを読み取って、私は二人の関係が長くは続きそうにないことを悟った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ