13. シノ「これは運命の出会いだ」
「もういいよ、顔を上げて。都に戻りたい気持ちも分かるし」
「……すまん」
おじさんはまだ顔を上げない。
「離縁も何も私たち、ただ一緒に宝探ししてただけで、ちゃんと夫婦になったわけでもないしね。おじさん優しいから、可哀想な私に付き合ってくれてただけだったんでしょ?」
「それは違う!」
ようやく顔を上げたおじさんは少し言葉を強くする。
「ワシはちゃんと姫のことを大事に思っている。都に戻っても姫以外の命夫になるつもりは無い」
「おじさん……」
また頭を下げて頭頂部を私に向ける。
「嘘ではない。その証に今ここで、全部抜いてしまっても構わない」
ずいっと頭を差し出されて、思わずのけぞる。
「わかった、わかったよ。そんなことしないって!もう誰にも抜かせないなら尚更大事にしなきゃ」
薄くなった部分をよしよしと撫でてあげる。考えてみたら、私は異能を使えるのが嬉しくておじさんの頭ばかり触っていたけど、それ以外何も無い関係だった。会うたび髪を抜きたがるだけの姫なんて愛想を尽かされて当然。いつも黙って頭を差し出してくれたおじさんに感謝こそすれ、文句を言える筋合いじゃない。それは分かってる。分かってるけど……
「でもそこまで言うなら、最後にもう一回だけ抜いていい?」
「もちろんだ。ワシの髪の毛は姫のもの。思い切りやってくれ!」
ありがとうおじさん。私は別れを惜しむようにおじさんの髪を撫で、むんずと握って思い切りブチブチ引き抜いた。
「痛だぁっ!?」
本当に思い切りやるとは思わなかったのか、覚悟を決めた風だったおじさんの口から悲鳴が漏れた。手の中に残った過去イチの量の髪の毛を景気よく畳の上にばら撒く。
そこに表れた模様を見て、私はこれまでの占いとは全く違う大きな運命みたいなものを感じた。きっとこれは私の人生を……いやもしかしたらこの世界を全部丸ごと変えてしまうような発見になるかもしれない。
「これは………船?」
おじさんも頭をさすりながら隣で目を凝らす。
「おぉ、確かに。金銀財宝を積んだ福の神の宝船かもしれんな。姫の見つけるモノにはいつも驚かされる。おかげで役立たずだと思っていたワシの命夫の力にもずいぶん自信が持てた」
「岬の方だ、行ってみよう!」
胸騒ぎに急き立てられるように館を飛び出した。おじさんも慌てて追いかけてくる。
「まったく、何があっても姫は元気だな。あんな話をしたばかりだというのに。だが姫といるとワシも元気をもらえる」
息を切らせながらおじさんがそんなことを言う。
「だったら離縁なんて言わないで、ずっと私の命夫でいてよ。そのうち都に会いに行けるかもしれないし」
「そうだな。そんな虫のいい話は無いと思ったが、姫が許してくれるならワシはずっと姫の命夫でいるよ」
おじさんの馬で岬が見える高台までやってきて、私たちはその光景に言葉を失った。見たこともない大きな黒船が、入り江の奥まで入り込んで座礁している。
「……すっっっっっごいの見つけちゃった」
「いい物」かどうかはまだわからない。でも間違いなく、これまでで一番の大物だ。
「異国の船か?あれだけの大きさだ。一体何人乗ってるのか……あ、こら姫、危ないぞ!」
入り江に向かって駆け下りていく私を、おじさんがまた慌てて追いかけてくる。確かに、異国の船に知らない異国人がたくさん……もし悪い人たちだったら大変だ。でも私には分かる。これはそういうのじゃない。この船は私を待っている。これは運命の出会いだ。




