12. シノ「私の命夫になってくれる?」
私が話すのに飽きると、おじさんも自分の身の上話を聞かせてくれた。彼も可哀想な人だった。
家柄も良く、仕事もこつこつ真面目に勤め、兵部の出世頭と言われていた。それが上司に妬まれ、まったく関わりのない不祥事の責任を押し付けられて、この東国に飛ばされた。
奥さんにもあっさり捨てられた。この国では女が主で男はおまけ。出世の見込みが無ければ簡単に離縁されてしまう。
「でも家柄がいいってことは命夫の力はあるんでしょ?捨てちゃうなんてもったいない!」
そう言うとおじさんは、なんとも複雑そうな顔で笑った。
「誰にも必要とされない者同士、ワシは姫の命夫だったらよかったのかもしれんな」
おじさんは冗談で言ったつもりだったんだろう。でも私はその思いつきが気に入った。
「本当に?おじさん、私の命夫になってくれる?」
「でも異能を使う才は無いんだろう?」
「そんなのやってみないと分からない!ダメならダメでいいじゃない。おじさんの言う通り私たち、どうせ役立たずなんだから」
私の剣幕に押されておじさんは困ったように頷いた。
「そうだな。こんなワシでよければ姫の命夫にしてくれるか?」
「ありがとうおじさん!」
命夫とは婚姻関係になるのが普通だけど、特別何か儀式が必要なわけじゃない。ただお互いにそう認め合うだけで自然と力が使えるようになる。その時私は初めて命夫と縁を結んだのに、誰に教わったわけでもなくおじさんの異能の使い方がすぐに分かった。
私はおじさんの頭に手を伸ばし、薄くなりかけた頭頂部の毛を数本摘むと、一気にむしり取った。
「ぁ痛っ!」
ハラハラと舞い落ちた髪の毛が畳の上に落ち、そこに表れた模様が私にあることを伝えていた。
「おじさん、この館の裏の竹やぶに古いお社がある?」
「痛たた……いきなり酷いじゃないか。姫は無能じゃなかったのかい?」
「あ、ごめん。つい、加減が分からなくて。でもこれっておじさんの異能の力だよね?」
おじさんの異能は「拾い物占い」。髪の毛を代償にして何かいいものを見つけられる……こともあるという、なんだか微妙な力だった。別れた奥さんはほとんど使わなかったらしい。でもこの時私たちがお社の床板の下から掘り出したのは凄いお宝だった。
神代に打たれた破邪の宝刀の一振り。今は名前も分からないこの地の守り神が遺したものだと、後から調べて分かった。きちんと奉ればきっと御利益があるだろう。
その他にも私たちは次々と貴重なお宝を見つけた。砂金の採れる川や万病に効くという薬草の群生地、近隣を荒らし回っていた野盗の根城と、そこに集められた財宝……どれもおじさんを喜ばせる大発見だった。
異能の効果は使い手によって大きく変わる。せいぜい失くした櫛を見つけるぐらいしか使い道が無いと思っていた拾い物占いにこれほどの力があると知って、おじさんは驚いていた。
私は無能どころか、姉たちに勝るとも劣らない並外れた呪術の才があるようだ。全てを見通す千里眼の女王がそれに気付かないはずが無い。私を捨てたのには何か他の理由があったのかもしれない。
でも今さらそんなことどうでもいい。私は命夫と異能を手に入れた。おじさんと二人でもっともっといいものをたくさん見つけて、この東国をもっと素敵な場所にして、ずっとここで暮らしていこう――そう思ってたのに。
「………はぁぁぁ」
深いため息が出る。引き止めたところでおじさんの決意は変わらないだろう。私のささやかな田舎暮らし充実計画はどうやら幻で終わりそうだ。




