目を覚ましたら女の子になってた。
小鳥のさえずる声を聞いて、ふと目を覚ます。
どうやらいつのまにか寝ていたようだ。試験日が近いからといって、根を詰めすぎるのはよくないな。
とりあえず大きく伸びをする。...体が重い。というかなんか違和感がすごいというか、何かがまとわりついてくるような変な感覚がする。
風邪でもひいたかな、体を壊しては元も子もないなあ、とそう思いながら視界がはっきりしてくると──
──周りには木々。それらは淡く紫紺に輝いていて、その光がオーロラのような幕を辺りに垂らしている。
そこを泳ぐように飛ぶ小鳥たちは、見たこともないような模様をしている。
とても現実離れした、ファンタジーのような幻想的な光景がそこに広がっていた。
...これは明晰夢というやつだろうか。頬つねれば目を覚ますかな。
そう現実逃避しながら手を眼前にもってくると──
そこにはとてもちいさなおててが。
言っておくと私は男子高校生だ。本当にどこにでもいる普通の。一つ特徴を挙げるなら身長は高いほうだった。
もちろんそれにあわせて私の手はごつくて大きかったはずなのだが、眼前のそれはもう本当にちいさく、小学生のそれと同レベルだろう。
視点を下にずらせば、そこにはぼろきれのような服に身をつつんだ、小さく、細い身体。
しかも左右の胸のあたりには銀色に輝く髪っぽい何かが。
というか髪の毛だこれ。
今気づいたけれど後ろ髪も腰くらいまである。
まさか、と思いつつ股間にちいさなおててを伸ばし──
────ない。
ムスコがない。
☓☓年間苦楽を共にしてきたアイツが。
ない。
「......うわあああああああああああああああ!?」
可愛らしい声が、あたりに虚しく響いた。
私は、女の子になっていた。
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これは夢だ、これは夢だと頬をつまんでむにょんむにょんやること暫く。
どうやっても現実が変わらないので、認めたくはないけれど現状を把握する。
目が覚めたら女の子になってた。顔はわかんないけれど、銀髪の、小学校中学年くらいの。
しかもファンタジックな森の中で、一人。
これは流行りの異世界転生というやつだろうか。
でもトラックに轢かれた覚えはないし、神様にも会ってない。
というか私は試験勉強をしていたはずである。少なくとも最後の記憶はそれだ。
だめだ、わからん。
私何か悪いことをしただろうか。
こんな仕打ちを受けるような悪い子ではなかったはずなんだが。
私は良い子だったはずだ。
...ともかく、人を探そう。
いきなり超常現象だか異世界転生だか知らんがこんなとこにこんな姿でほっぽり出されて、野垂れ死にとか笑えない。
──しかし、ここまで唐突に意味不明現象が重なると、人とはこうも冷静になれるるものなのだな。
そう思いながら、てきとうな方向に歩き始めるのだった。