人ならざる者
数年前ある森の中
「おい!大丈夫か!」
力尽きてたユフィーレを助けた人物。その人がいた。
上半身裸で作業用のズボンを履いており、片手に斧を持っている。
その体つきはとても良く、その肉体には至る所に傷跡が残っている。
多くの修羅場をくぐり抜けてきたのだろう。
顔のシワの数はとても長い時を生きてきた証である。
「くそ、意識がない、だが心臓は動いてるな」
軽々とユフィーレを担ぎ上げ走り出す。
「すまんルミナス、ここまで来てもらって」
場面は変わり現在もユフィーレが住んでいる場所、師匠の家。
「全くだ、私は忙しいんだ、今度酒を奢ってくれるんだったら許してやろう」
そしてその会話から少しの時が経った。
「これは魔力生成欠落症だ、どんな医者に見せてもこの病は治せないだろう、君とのよしみだ症状を軽くする薬を作ってやる、これで彼は数年は長く生きることができるはずだ」
「ああ、ありがとう」
「この子の体を見てわかった事がある、腕に鋭い何かで刺された跡が大量にある事が一つ、上手く隠してはいるが他にも大量の手術痕がある、もしかすると魔力生成欠落症は意図的に発症させられたのかもしれない…」
「この子はなんなんだ?」
「一つ言えることはまともな人生を送っては来てはいないと言うことさ」
そして数年後のどこかの酒場
「ユフィーレが可愛くて可愛くてな〜」
「お前さんの話は聞き飽きたよ、全く、孫を可愛がるお爺ちゃんか!」
そこには師匠とルミナスが酒を飲んでいた。
「そのユフィーレが待っている家に帰らなくてもいいのかい?」
「ああ、今日は冒険者ギルドの受付嬢の家に行ってる、庭の雑草取りの依頼だよ」
「なるほどね、その依頼が終わるまでの暇つぶしと言う事か」
「ああ、ユフィーレには一人で生きていくための知識をつけてやらんとな」
「そうか…」
「何しけたツラしてるんだ!ほら飲め!」
これがルミナスと師匠が話した最後の日になった。
「…うむ、少し寝ていたか」
ここはルミナスの店、ルミナスは椅子に座りながら寝落ちしていたらしい。
「歳をとると昔のことばかり思い出してしまうな、全く」
勢いよく店のドアが開かれる。
「ルミナスいるか!」
「ちょっ…フル装備…キツ…」
そこには血相を変えたカールと息を切らしたネルがそこにいた。
「一体何の騒ぎだい?」
「落ち着いて聞いてくれ、今日ユフィーレが砦の見学に行くことは知っているな?」
「ああ知ってるさ………何があったんだい?」
「砦内で魔物が突如現れ、そこに偶然居合わせたユフィーレが行方不明になった!」
「なっ!」
「魔物は討伐されたがユフィーレが…」
「カール、明日は学校を休め、朝一で砦に行くぞ」
「今からじゃないのか!?」
「砦内に入るのにも許可を取らなくちゃいけない、それに色々と準備をしなければならない、だから明日だ、気持ちは分かるが耐えてくれ」
「……わかった」
「明日朝一、砦の前で落ち合おう、私は少し出かけてくる、それではな」
ルミナスは壁に掛けてあるコートを被ると早足で外へと向かった。
鳥の歌声が辺りに響いている。
ユフィーレはゆっくりと目を開ける。
「夢じゃなかったんだ」
寝る前に見た光景がもう一度ユフィーレの目の前にあった。
ゆっくりと立ち上がり体の調子を確かめる。
(少し縫い口が痛むけど全然大丈夫そうだ)
ベットの近くにある窓を開けて外の空気を部屋の中に入れる。
「本当に綺麗だな…」
窓の外は花が咲き乱れ鳥や蝶などのたくさんの生き物たちがいた。
「綺麗だろ?ここは私の自慢の庭さ」
いつのまにかドクターがドアの前に立っていた。
「この場所の説明ついでに朝ごはんを食べよう、来たまえ」
ユフィーレはドクターについていく。
部屋を出てすぐの所に居間がありテーブルの上には色々な果物とパンが置いてあった。
「さて、いただこう」
ドクターとユフィーレは席に着き食事を始める。
「先程から食べているこの果物は実はここで栽培をしているんだ、このパンも私が焼いたものだ、中々な味だろ?、まあ全部私の趣味だがね」
「元々この場所には何もなく、只の地中だった」
「だがある用途のためにここに空間が作られた、君はここに来るときにあれを見たかい?」
「はい、見ました、英雄のお墓ですよね?」
「いや違うな、あれは墓ではない只の石碑だ、墓は作る必要がないからな」
ユフィーレは不思議に思った。
「墓は死者のためにある」
そんな当たり前の事を言ってくる。
「うむ、実際に見たほうが早いか、食事が終わったら案内しよう」
食事を済ませ、少しの休憩時間。
ユフィーレはドクターと共に外に出ていた。
「ここ、家じゃなくて教会だったんだ…」
その教会は地上にあるのとは違いとても古く、至る所に補修の跡がある。
「ああ、この教会は建ってから約1000年になる、その間私が少しずつ修繕をしているんだ」
「そんなに長く生きているって事はドクターは普通の人では無いのですか?」
この世界には人に似た様々な種族が暮らしている、その中に長く生きる種もいる。
「私は、エルフだよ、この耳が特徴さ」
ドクターは長い髪を持ち上げると特徴的な耳を見せてくる。
エルフとは長命で保有魔力が多く主に辺境の森に暮らしている、閉鎖的な種族で自分たちの縄張りから基本出ない、たまに見かけるのは変わり者のエルフか人との間に生まれたハーフエルフである。
「この地下で暮らして長いことになるがここ数百年の間、昔の友人を含めて誰も来なくなったな…久々にお客さんが来てビックリしているよ」
「地下にこんな空間があるなんて誰もわかりませんよ」
「確かにそうだな、ここはそうでなければならない、来たまえ君に合わせたい人がいる」
「合わせたい人?ドクター意外にもここに住んでいる人がいるんですか?」
「いる、その人のためにここが作られたんだ」
教会の裏手に回り地下へと続く階段を降りていく。
「この先だ、多分君はとても驚くと私は予想するよ」
そう言ってドクターは突き当たりにあるドアを開ける。
そこには大きなベットの周りに謎の道具が大量に置かれている部屋があった。
ベットをよく見ると誰かが寝ているようだ。
ドクターとユフィーレは枕元に移動する。
「紹介しよう、そこに寝ている彼女は1000年前の魔王との戦いを繰り広げこの世界を救った英雄様だ」
そこに横たわっている人物はとても綺麗でこの世のものとは思えない美貌を持っていた。長く伸びた白い髪は神秘を感じるほどである。
ユフィーレは驚きを隠せない。
「えっ…英雄は普通の人種だったはずでは?!、そんな長い間生きられるはずがありません!」
「確かに彼女は人だ、人だった、一人の人間の我儘で彼女は新しい生命体として生まれ変わってしまったがな、ここからは歴史の授業だ、話は1000年前の魔王との戦いまで遡る」
「大体は本に記された通りで彼女はあの時確かに魔王の首をはねた、だがその時すでに彼女は瀕死でね、当時の賢者と聖者が治癒の魔法をかけても厳しい状態だった」
ドクターは遠い昔を振り返る。
ここはファルス砦内の教会、そこでは負傷者の治療が行われておりその中に彼女がいた。
「上位の治癒魔術師を集めて早く!」
「体の欠損が酷すぎる…七番から十五までの包帯を持ってきて!」
「くそ!血が止まらん、薬師はいるか!止血用の野草を分けてくれ!」
「汝を癒したまえ…」
彼女を助けるために色々な人物が動き回った。
「どうにか命は繋ぎ止めたが長くは持たん」
「少し皆の知恵を借りるか」
当時色々な種族がこの地に集まっていて、その中でも飛び抜けた力を持っている者たちがいた。
丸いテーブルを囲うように色々な種族が席に座っていた。
「うむ、奴には世話になったからのう…」
古から存在する古龍。
「どうにかしてやりたいが、ガアァァァ!なんも思いつかねぇ!」
龍人族の長。
「もう長くは持たないのかにゃ?」
猫人族の英雄。
「もう長くは持たない…しかし彼女には生きて欲しい…」
ヴァリスト王国国王。
「彼女は望んでないかもしれないのじゃぞ?」
人族の賢者。
「ふむ、一つだけ、禁忌を破れば方法はあるんだがな」
エルフの変わり者。
「もしや、君と研究してるホムンクルスかい?あれはまだ実験段階だぞ?」
天才魔術師。
「あの実験の詳細は読ませてもらったのじゃが、少し手を加えねばならん、だが一番可能性があるのはこのホムンクルスじゃな」
「あの体はもう使い物にならん、ならば新しく体を作ってやればいいのじゃ、だが彼女は人としての幸せ、生活は送れなくなるじゃろう」
賢者は王に問いかける。
「それでも人族の王よ、禁忌を犯す覚悟はあるか?」
「ああ、彼女のためなら神罰など怖くはないさ、私は約束したのだ平和を取り戻したこの地を彼女に見せると」
「あいわかった、ならば材料が必要じゃな、儂からは賢者の石とエリクサーのレプリカを渡そう」
「他にも理論的には魔力を帯びてる物ならあるだけ成功確率が上がるはずじゃ」
「我からはこの鱗を渡そう」
古龍からは自らの鱗を。
「俺からはエンシェントスライムの核を渡そう、ちょうど討伐したばかりだ」
龍人からは魔物の核を。
「にゃらばこれをやるにゃん!」
猫人からはフェニックスの羽を。
「みんなやる気みたいだし私からはこれを渡そう」
エルフは世界樹の葉を。
「彼女は他の場所には移せない、教会を使うとしよう」
王が場所の提供をした。
当初この教会をホムンクルス創造に使おうとしたが、ここでは目立ちすぎるため、教会の地下に賢者が空間を作り、そこに実験施設を建てた。
賢き者達が連携して事に当たったため、約1週間で実験の準備が出来た。
「魔術回路正常に起動しました、第三魔法陣まで魔力を供給中」
「うむ、やっとじゃな」
そこには賢者とエルフ、国王と魔術師しかいなかった、他の人はそれぞれが忙しいため自分の居場所へと帰って行った。
英雄は地下へと運ばれガラスの筒の中に色々な薬品が入った液体と共に入れられていた、その周りには多くの魔法陣が地面に書かれており所々に謎の機材が置いてある。
「それでは始めます、魔法陣発動します」
魔法陣が光り輝くとその光がガラスの筒に集まっていく。
「何だこれは、魔力計が振り切ったぞ!」
「ぬう、気合いを入れすぎて高魔力の物を入れすぎたかの?」
筒に集まった光が外へと漏れ始めた。
「魔法障壁を張るんだ!」
その言葉と同時に光が爆散し、数秒間そこは無の世界があった。
「彼女はどうなった!?」
視力が回復し、彼女がいたところに視線を向けるとそこには天使がいた。
「それが先ほど見た彼女さ、伝説上に存在する天使みたいだったろ?何故そのような姿になったのかはわからないが私が思うに神の干渉を受けたのではないかと思っているのだよ、ある意味天罰なのかもしれないな」
「実験は成功だった、新しい体の作成は上手くいった」
そこでドクターは苦い顔をする。
「だが彼女の意識は戻らなかった」
「だから今も寝ているのですね」
「ああ、だが彼女を起こすための魔道具がやっと出来上がったんだ、準備に約1000年、本当に長かった」
「君にはこの実験がうまくいくか見届け役を頼みたい」