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Metal Doll  作者: アンファング
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白い剣、黒き槍


巡洋艦ミディグード オペレーションルーム



「――――なのでこれは隣艦でも今説明されているだろうが、我々の部隊は、本艦含めミディグード4隻、各艦にガーリー、ゴルディスを6機ずつの編成で目標国に向かう。尚、今回の作戦はセントラルの力を見せ付ける為の行為である為、必要以上の戦闘行動は禁止する」


 あまり広いとはいえない部屋の中心で、金色の短髪でセントラル製の軍服を着た男性、バルツ・クルマールが真剣な表情で話をしている。


 バルツの周りには数十人程の男女がおり、用意されているパイプ椅子に座って聞いている者もいれば、壁に寄り掛かっていたり、床に座りこんでいる者も数人いた。


 その光景を見ながらバルツは、全員が全員ちゃんと話を聞いているのか不安だった為もう一度先程の言葉を繰り返す。


「良いか? もう一度言うが必要以上の戦闘行動は禁止する。今回の作戦の目的は目標国への徹底攻撃では無く、「セントラルにやはり協力をします」という考えを他の国々に持たせる事だ。そして、協力体制の見られない国はこれから先の戦闘対象になる。よって、今回の目標国は戦闘機や戦車等で応戦してくるだろうが、その場合撃ってくる相手だけに反撃する様にしてくれ。逃げる者や市街地への被害はなるべく避けて…………」


「ハッ、そいつは無理な注文だぜ。バルツさんよぉ?」


 突然、言葉を遮る様に一人の男がパイプ椅子を蹴り飛ばし、バルツに近付いていく。


「無理、とはどうしてなのか説明してもらえるだろうか? ジン・クレスト少佐」


「どうしてもこうしてもあるかよ。こちとら1週間もセントラルタワーで缶詰にされてたんだぜ? 俺はあの最高の玩具でやっと遊べるとワクワクしてたのに、だ」


 長い黒髪をオールバックにした細身の男、ジン・クレストは切れ長の目で威嚇する様にバルツに目を向ける。


 だが、ジンのそんな態度にたじろぎもせずにバルツは口を開く。


「その事については説明した筈だ。我々に対しての世界の動きを見るという事と君達パイロットの戦闘意欲を増進させる為で…………」


「そぉ! それなんだよなぁ大佐殿」


 また、バルツの言葉を遮る様に今度は側にあった机を手で叩きジンが口を開く。


「俺はハナから全力であの玩具で遊ぶ気だった。だが、今あんたが言ったそれが理由で1週間もの御預けを喰らっちまった…………さて、そんな状況に置かれちまった俺は、この後目標地点に着いたらどーするでしょうか?」


「…………解りかねるが」


 バルツはほんの少し表情を曇らせた。


 解らない、というのは嘘だ。バルツはこのジン・クレストという男がどういう人間なのか少なからず知っていた。この男が言いたい事は本当は解っている。それは――――


「正解は…………全部ぶっ壊すに決まってんだろぉ!?」


 バルツの予想は大方当たっていた。ジン・クレストとはこういう男だ。


 ジンはセンス・ドライバではない。だがそれでもメタルドールの操縦に関しては、セントラルの中でもずば抜けた腕前を持つ素晴らしいパイロットだ。


 しかし、彼の性格に問題があった。言動や行動が乱暴であったり、協調性も無く、メタルドールでの模擬戦においては、既に自分の勝利が決まっているのに負けた相手を攻撃し続けたり等、セントラル内での評判がとても悪い。


 だがセントラルとしては優秀なパイロットを削る事は出来ず、どんな問題を起こされようが目を瞑ってきた。


 そして今回、本格的なメタルドールでの戦闘を開始するという報せを受けて一番喜んだのは彼だったろうが、実際の結果は期待とは裏腹に1週間もの待機命令。


 これはジンにとって、相当キツい時間であったに違いないとバルツは考えていた。


 獰猛な肉食動物が目の前で動き回る餌を1週間も我慢したらどうなるか、答えは安易に想像できる。


 そんな状態のジンが必要最低限の戦闘行動で満足する筈が無い。


「君の気持ちは解るが、今回ばかりは…………」


「そいつぁは無理だね大佐殿。俺はもう遊びたくて遊びたくて仕方がねぇんだよ? だから、俺は目に映った物を片っ端からぶっ壊すって決めたんだよ。それが嫌ってんなら、俺をぶっ壊すしかねぇなぁ」


「……君を?」


「俺はそれでも良いぜ? 実ん所、アンタとは1回ぐらい殺り合いたかったんでな」


 ジンは笑いながらそう答えたが目はバルツを睨んだままだ。


 冗談ではなく本気で言っているのが解ったバルツは少し考えた後、不本意ながらもこう答えた。


「嫌、遠慮しておこう…………よし、解った。今回は特別に君のしたい様にしてもらって構わない。だが、無抵抗の民間人への攻撃だけは禁止する。これで良いか?」


「オイオイ、本当かい? そいつは嬉しいねぇ。大佐殿と戦えねぇのは残念だが今日は我慢しとくさ。ただ、民間人がどうのこうのってのは約束出来ねぇけどな」


「貴様っ!?」


 急に声を荒げたバルツに驚いたのかジンは数歩下がるとすぐに口を開く。


「っと、冗談だよ冗談。武器を持ってない奴を殺した所で面白くねぇからよ」


 ジンは笑いながらそう言ってその場で振り返り、部屋の出口まで歩き出す。


「少佐、何処へ行く気だ?」


「何処って、もうすぐ作戦地点じゃねぇか? だから俺は、一足先に玩具の手入れをしとくのさ。って事で、後は俺抜きで話してくれや」


 ジンはそう言いながら右手をヒラヒラと振り、本当に部屋から出ていってしまった。


 そして部屋に沈黙が訪れる。他のパイロット達はそれぞれ顔を見合わせたり、俯いたりするだけで誰も口を開かない。


 その反応は無理もない、とバルツは思った。今回、此処にいるパイロット達はまだ20代の若者達だ。今の状況に不安だらけに違いない。そんな彼らにとって頼る事が出来るのは自分、もしくは実力のあるジンだけだ。


 しかし、その頼るべき存在の1人があんな風に好き勝手に動き回る人間では、誰も安心して自分の身を委ねる事は出来ないだろう。勿論、このパイロット達が彼に意見などを出しても真面目に答える事はないと思える。


 だからこそ、その分自分がしっかりしなければいけないと思い、バルツは気を取り直して説明を続け始めた。


「…………あー、少佐の事は気にしない様に。では説明を続けるが、作戦が始まったらまずは3機編成の小隊を組んで動いてもらう。誰が誰と組むのかは予めこちらで決めていた、が……」


 バルツは机に置いていた書類の山の中から1枚を手に取り一通り眺め終えると、ため息をついてからゆっくり喋り出す。


「この予定表ではジン少佐と組む事になっているミラージュ・イリーナ中尉と如月(きさらぎ)誠さんに関しては……後で少佐にも伝えるが、もし少佐がこの指示に従わず単独行動を行なった場合は、すぐ私の機体の後に続くようにしてくれ」


 そう言ってバルツは左側に配置されている長机に目を向ける。


 そこの椅子に座って居たのは、眼鏡をかけ、短い茶髪と中性的な顔立ちの為に男性と見間違いそうになる女の子と、何故か長机に突っ伏している青い長髪の女性だった。


 どうしてこんな体勢をしているのか解らなかったバルツはとりあえず、その人物の名前を呼ぶ事にした。


「イリーナ中尉」


「…………」


 返事が無い。もしや、と思いバルツはもう一度名前を呼ぶ。


「イリーナ中尉」


「…………」


「ミラージュ・イリーナ中尉!!」


「ふ、ふぁいっ!?」


 最後の力を込めたバルツの呼び掛けに、イリーナは突っ伏していた上半身を一瞬で跳ね起こすと、呂律が回らないながらも返事をした。


「作戦内容の説明中に睡眠、か。イリーナ中尉?」


「いっ、いえ、あの、わわわ私はただ、えっと、椅子に座ったままだったので、背筋を伸ばす筋トレみたいな事をしていたといいますか――――」


「口からよだれが垂れているが?」


「あ…………こ、これはあのご飯の事を考えていたせいですよっ? ほら、今日の晩御飯は何を食べようかな~、なんて…………」


「言い訳はもういい。だが、今後は気を付ける事だ」


「す、すみません……」


 怒られてしまったイリーナは、左手の裾で口についたよだれを拭いながら肩を落とした。


 左右で長さの違う前髪は顔をうつ伏せにしていたのでボサボサになっていて、綺麗な青い髪は台無しになっている。


 こんな彼女だがメタルドールの操縦技術に関しては中々で、ジンのように「人物に問題があるが、パイロットとして優秀な為削る事が出来ない」内の1人だ。


(仕方がない、とはいえこのままでは不味い。何かしら対策を取らなければな……)


 そう考えながらバルツはイリーナの顔を見るが随分落ち込んでいるようで、表情が今にも泣き出しそうだった為、すぐさま視線をずらしイリーナの隣に座る女の子、如月誠に話しかける。


「えぇと……如月さんに関してなんだが、今回は見ているだけで構わない。織宮博士が言うには、まずは実際の戦場の空気を感じ取って欲しい、との事でな」


「そう……ですか」


 弱々しく小さな声で誠は答えた。だが顔は下を向いていて、バルツを見てはいない。


(如月誠……我々とは違い、只の女の子。こうなる事は解っていたが、こんな無理矢理な方法で目覚めさせる事など出来るのだろうか……)


 バルツはこんな状況の中に居る誠が不憫で仕方がなかった。


 如月誠は、その中性的な容姿のために男性に間違われる事もあるが純粋な女性。普通の大学1年生だった。


 しかし、ゲーム版のメタルドールをプレイしてしまった事により彼女は普通ではいられなくなってしまう。


 元々ゲームが好きだった誠は、メタルドールというアーケードゲームが出る事は知っていたのだが、苦手なジャンルであったので自分はやる事は無いと思っていた。


 だが、稼働が開始してからの人気の爆発ぶりと遊んだ人々の好評価、そして最後には友人の誘いもあり、少しずつ遊んでみたい気持ちが芽生えてきた誠は誘いを断れず悩んだ末にメタルドールをプレイしてみる事に決める。


 その結果として、高い操縦能力を叩き出してしまった彼女はセントラルに目をつけられてしまい巧のように無理矢理連れ拐われ、現在に至る。


 誠はセンス・ドライバではなかった為、そのまま訓練生行き。の筈だったが、織宮が出撃準備に取りかかっていたバルツの前に誠を連れて現れ、こう言った。


(この子、センス・ドライバの可能性があるかもしれない。微弱だけれど反応があってね。何か刺激を与える事で光輝くと思うわ。なので今回、貴方に着いていかせる事にしたの。最初は戦闘風景を見せるぐらいで良い刺激になると思うからこの子、如月さんをよろしくお願いしますね)


 織宮はそれだけ言うと誠をそこに置いていき、バルツが何か言う前にすぐに研究室に戻っていってしまった。


 そんな事があり仕方無くバルツは誠を連れてきたのだが、やはり彼女を作戦に参加させるのは気が引けた。


 だが、織宮が何かしらの方法で監視をしている恐れもあるのでバルツには誠の参加を止める事が出来ない。


「君の事は私や他のパイロットが全力で守るので安心してほしい。だから、君は本当に見ているだけで良いぞ?」


「……解りました」


 誠は表情を全く変えずに頷いた。すると、急に隣にいたイリーナが先程まで落ち込んでいたのが嘘のように明るげに話しかけた。


「だ~いじょうぶだよ、誠ちゃん。私が守ってあげますから、どーんと大船に乗った気持ちで居てねっ?」


「あ、ありがとうございます、イリーナさん」


 不安でしょうがない、とバルツはそのやり取りを見ていて思った。誠もどうしていいのか解らなそうだ。


 だが、イリーナの「大船」という単語のお陰で説明に付け加えるのを忘れていた内容を思い出したので、そこは心の中で誉めてあげた。


「おっと、そういえば言うのを忘れていたんだが今回、我々の戦闘行動を邪魔してくる恐れのある戦艦が1隻だけいるんだが…………もし発見した場合、速やかに後退し私に報告するように。決して単機で戦おうとするな。準備が出来しだい全機で攻撃し、可能であれば捕まえる」


「その戦艦ってのはもしかして……」


 部屋に居たパイロットの一人がバルツに聞いた。だが、バルツはそのパイロットの顔を見ずに答える。


「君達も知っているだろう? あの…………リンツオーゲン、だ」


 今回バルツが1番不確定ではあるが恐れているのは現在、自分達をこのまま黙って見ているだけの筈のないリンツオーゲンの存在だった。


 いくらこちらに戦艦が5隻、メタルドールも数十機居ても、あの新型のアーディレイド及び斬原巧、そしてもう1機のQシリーズ、イグズィスに出てこられては流石に勝てる気がしてこない。


(現状の戦力だけで到底太刀打ち出来るとは思えない…………が、結果がどうなろうと私は全力でやるだけだ)


 胸の中の不安は大きくなるも顔には出せず、冷静さを保ちつつバルツは「説明は以上だ」と告げると、刻々と迫る出撃の為にイリーナや誠、他のパイロット達を引き連れて足早に部屋を後にした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


数時間前 リンツオーゲン 格納庫


『いい? アラン達もフォローしてくれると思うけど、何かあったらまずは私に聞いて? こっちでもそれなりに何が起きているのかは把握できるから』


 コックピット内のディスプレイ上に小さなウィンドウが表示されていて、そこにアリアの顔が映っている。こんなに小さくても表情の変化が解りやすいアリアを心の中で笑いつつ、巧は周りの計器類のチェックをする。


 あの後、誰よりも早く格納庫に着いた巧はそのまま一目散にアーディレイドに走り寄り、側に居たメンテナンスをしていた人達に了承を得るとすぐにコックピットに乗り込んだ。


 すると、乗った事が伝わったのか巧がシートに座ると同時に目の前のディスプレイからアリアが呼び掛けてきて会話を始めながら今に至る。


『ねぇ斬原、ちゃんと聞いてるの?』


「だから聞いてるってば。けど、このコックピットん中前乗った時より色々変わってて……確認しとかないとヤバイだろ」


『あぁそれ? いつまでもセントラル仕様じゃ可哀想だからリンツオーゲン仕様に変えてあげたのよ』


「そういう事は早めに教えてくれよなぁ? なんで今更確認しなきゃいけないんだよ……」


 前に乗った時とはボタンの配置や、見た事がないスイッチ、操縦桿の形の変化など、色々と変えられていて巧は一つ一つ手探りで確認していた。


『まぁまぁ、良いじゃないそれぐらい。あ……そういえば斬原……ヴァンには、会った?』


「え? ヴァン? あぁ、会ったけど」


 巧は作業の手を止め、ディスプレイに映るアリアの顔を見て答えた。何故か少し嬉しそうにしている。


『あ、そ、そうなんだぁ。それでヴァンと、何か話したの? ……まさかアンタ、余計な事喋って怒らせてないでしょうね?』


「あのなぁ…………怒りたいのはこっちなんだよ!」


 急に大声を出した巧びっくりしたアリアは、座っていた椅子から立ち上がってしまい、巧の前からは一瞬、姿が消えてしまったのだがアリアは慌ててすぐに椅子に座りなおした。


『ど、どうしたって言うのよ?』


「そうだよ! 俺はさっき、アイツに会った。此処に来る前……俺がまだ通路を走ってた時、目の前の曲がり角からヴァンが出てきたんだよ。なんであそこに居たのかは解らねぇけど、お前の話を聞いた後だ、ちょっとは友好関係を築こうと思って声をかけたんだよ。これから初めての出撃だけどさ、一緒に頑張ろうぜ? ……てな! そしたらアイツは何て言ったと思う!?」


『な、何て言ったの?』


 怒りをあらわにしている巧の顔を見てアリアは、若干引きつつも静かに尋ねた。


「「俺の邪魔はしないようにしてくれ。それから、出撃は初めてじゃない」…………だとよ!! こっちは優しく声をかけたのになんだよその返事は! 何が、俺の邪魔はするな……だチクショー!!」


『なんだ、いつも通りじゃない』


 遂には頭を抱えて泣きそうになる巧に呆れながらも、アリアはヴァンがいつもの彼で居ることに安心していた。


『おんやぁ? なぁに泣いてんだ、斬原?』


「べっ、別に泣いてる訳じゃ…………ってあれ? エドワードさん!?」


 名前を呼ばれた巧が顔を上げると、ディスプレイにアリアが映っているウィンドウとは別にもう一つ、新しく表示されていた。そこに移っているのは頭にクエスチョンを浮かべているエドワードだった。


「な、なんでエドワードさんが此処に?」


『なんでって、俺も出撃するからだよ。ほら、姐さんや隊長も居るだろ?』


 画面外を指指すエドワードにそう言われて巧は辺りを確認すると、すぐ側でレイラとアランの二人を見つける事が出来た。


 アラン達3人もいつの間にか格納庫に来て居たようで既にメタルドールに搭乗しているエドワードを覗いた2人は、アーディレイドの隣の緑色のメタルドールの足元で何か話しているようだ。


「えぇとエドワードさん達のメタルドールって確か……」


『あぁコイツか? 名前はワーカントって言うんだぜ』


 ワーカント。アリアに説明されたのを覚えていた巧はすぐにその名前を思い出した。


 実際に機体を目の前にした巧には、ワーカントは蟻を巨大化させたロボットに見えた。


 蟻と言っても巧が想像しているのは外国にいそうな凶悪な蟻の事で、勿論腕や足が細い訳でなく、装甲や頭部のディティールを見てそう感じていた。カメラアイの部分もアーディレイドと違ってバイザー型になっている。


『この青いワーカントが俺ので、隣の赤いのが姐さん、んでもってそっちの緑色のが隊長の奴だ』


 巧はエドワードの説明通りの順番にそれぞれ目で追うが、確かに3機共色分けされていて細部や兵装なども違っている。


「そういえば、確かアリアがワーカントは色々カスタマイズされているって聞いたんですけど、どういう風にされてるんですか?」


『お? よくぞ聞いてくれた! そんじゃあエドワード様が説明してやっからちゃんと聞いとけよ~?』


 ウィンドウの中のエドワードは左耳に手を当てて「良く聞くように」とジェスチャーをすると、嬉しそうに喋り始めた。


『じゃあ俺のから説明するが……まぁ、簡単に言っちまえば長距離支援機って所だな』


「長距離支援機?」


『こいつの主兵装はこの、特別製のスナイパーライフルなんでね』


 そう言ってエドワードはワーカントの右腕だけを動かすと、側に配置されている黒く細長い物体を指差した。


 そう言われて巧はその物体を良く見てみたが、確かにゲームでも長距離狙撃などに使われるスナイパーライフルの様なものである事が確認できた。


『俺は元々、狙撃の腕を買われてセントラルに入ったからな。それを知ってたアリアちゃん達が、俺の為にわざわざ長距離支援専用機にしてくれたって訳さ。カメラアイなんかも他の機体より何十倍とズーム出来るよう改造されててもう、至れり尽くせり。俺とこいつが組み合わされば、お前とアーディレイドの出番は無いもしれないぜ~?』


 そこまで言うとエドワードは巧の事を指差しながらニヤニヤと笑った。だが逆に、それを言われた巧の表情は固まってしまう。


 そう。本来であればアーディレイドはともかくこの戦いに巧は参加している事は「無かった」筈だ。


 もしあの時、メタルドールに関わっていなければ今頃は、ラウンドアイランドの自宅で母親と二人で怯え続ける毎日を送る事になっていたかもしれない。


 でも巧の運命の歯車は様々な出来事によって狂わされてしまった。その結果、今はセントラルと戦う為にアーディレイドのコックピットに座っているという状況に至る。


(俺は、本当なら此処に居る事は無かったかもしれないんだ。けど、自分でやるって決めて残った以上は……)


『おいっ! おい斬原! 話聞いてんのか?』


「…………え? あっ、すいませんエドワードさん。ちょっと考え事をしちゃってて」


『考え事ぉ? 何だ何だ? 俺の話を無視するぐらいなんだから重要な事なんだろうなぁ?』


 急に返事をしなくなったのを変に思ったエドワードの呼び掛けで、巧は我に変える。ディスプレイを見ると、エドワードは不機嫌そうに腕を組んでいる。


「いや、対した事じゃないんですよ」


『何ぃ? 対した事じゃないのに俺をスルーするとはやってくれるじゃないか斬原君。よし、1回コックピットから降りて――――』


『エドワード。無駄話は終了しろ。口を縫い付けるぞ』


『了承であります姐さん』


 エドワードがコックピットのハッチを開けようとすると同時にレイラの一言が突き刺さり、ハッチに伸ばしていた腕をエドワードは素早く降ろし、綺麗にパイロットシートに座りこむと一切口を開かなくなった。


『待たせてすまんな斬原』


「あ、いえ大丈夫ですよアランさん」


 隣の緑色のワーカントにいつの間にか乗り込んでいるアランが巧に話し掛けてきた。


 アランが乗り込むワーカントが他の2機と大きく異なっているのは左腕に装備された巨大なシールドと頭部に付いている1本の“ツノ”だ。


 巧の知識の中ではあのツノは隊長機として電子戦を強化する為の物、とは思っているのだが自分のゲーム情報が当たっているのかは解らない。


 それも疑問に思ったのだが、まずは先に聞きたい事を巧は聞く事にした。


「けど、下でレイラさんと何を話してたんですか?」


『あれか? 作戦について少し調整してたんだよ』


「作戦、ですか?」


『……そうか。まとまってからお前にも話すつもりだったから解らなくて当然か。ハッハッハ』


 今更それを思い出したからかアランは、「しまったしまった」と笑いながら頭をかいた。


 この人、意外と抜けているのかもしれない。と、巧はその時静かに胸の中で思う。


「ちょ、アランさん! 笑ってないで教えてくださいよ?」


『いやぁ、悪い悪い。それじゃあレイラ達も混ぜて簡単に説明するが……まず最初にエドワードに威嚇程度で構わんが敵機を発見次第、狙撃を行ってもらう。その後、こちらに気付かせた敵部隊が集まり始めた所をレイラに空から襲撃してもらい――――』


「空からって、レイラさんのワーカントって飛べるんですか!?」


 そこで巧は驚いた。見た所、レイラが乗る赤いワーカントのバックパックは特別巨大な訳でも無く他の2機と変わらない。


 そういえば、アリアがアーディレイドは無理をさせれば浮遊する事は可能だが長時間の飛行は不可能、と言っていた。ならばレイラのワーカントには何か特殊な機能があるのだろうか。


『いや、違う。ワーカント用に改造されたフライトユニットがあってな、レイラの希望もあってそれを使う事にしたんだ』


 フライトユニット。巧の記憶に間違いなければセントラルから逃げたあの日に、ガーリー達が装備していた物がそれだった筈だ。


 しかし、何故レイラは使いたいのだろうか。わざわざ危険な役を買ってでなくても、巧自身がそうしなければいけないと思っていたのに。


『あ、隊長。姐さんはただバカスカ弾をばら蒔きたいだおぶぅ!?』


 エドワードが何かを言い切る前にレイラのワーカントの右腕が動き出し、コックピット部分を小突いた。かなりの衝撃だったのかエドワードは全く動かない。


『隊長。続けてください』


『あぁそうだな』


 レイラは相変わらず冷静な口調の為、どんな感情でエドワードに攻撃しているのか巧には未だに解らない。だが慣れきった様子のアランは心配をするでもなく、話を進めていく。


『それでだ……レイラが戦闘開始後、セントラル側が母艦に戻るようならレイラは後退してエドワードと合流しろ。その後、残存機を俺と斬原で追撃する』


「は、はいっ!」


 自分の出番を言い渡され、巧は顔を強張らせる。


 こちらはセントラルと違って余りにも少ない。その為、どんな些細な失敗もできないのだ。


『余り緊張するな斬原、俺もいるんだ。それに奴等が後退をせず、他の部隊を集結させる動きが見られた場合はすぐに俺達も動くから実質3人での戦闘だ。怖くはないだろ?』


「えと、解ってはいるんですけどコイツに乗ってるからにはやっぱり下手な真似は出来ないですし……」


『確かに、お前とアーディレイドが出てくればセントラルは決死の覚悟で捕まえようとするだろうが……そんな事は気にするな。俺達が守ってやるさ』


 これ程までに頼もしい味方に出会えて巧は本当に良かったと感じた。アランやレイラ、エドワードが着いてくれている。それだけで勝てない敵など居ない、そんな風に思えてくる。


 だがそこで、巧はこの場に足りない「何か」に気付きその疑問を自然と口に出してしまった。


「あれ? そういえば、もう1機のQシリーズとヴァンが見当たらないんですけど……」


 先程から格納庫の中をあちこち見回しては居るが、メタルドールらしい物もなく、ヴァンも全く顔を出さない。


 だがその理由は、アランがすぐに答えてくれた。


『あぁアイツならとっくに出撃したよ』


「え?」


 またか、と巧は1人で思う。無口だかなんだか知らないが、此処まで誰とも話さずに行動を起こすとは許される事なのか。


 確かに、強化人間にされてしまったという悲しい過去を巧も知ったには知ったが、だからと言ってもう1機のQシリーズの説明や、ろくに会話もせずに出撃までしてしまうとはアラン達はどう思っているのだろうか。


「ちょっとアランさん! 良いんですかアイツに好き勝手されてて! アランさんが隊長なんだから命令とか従わないと――――」


『まぁまぁ落ち着け斬原』


 少し怒り気味の巧とは正反対にいつもとかわらない口調でアランはなだめながら話を続ける。


『良いか? 確かにヴァンはこの艦の一員だが、俺の部下にはなってない。管轄してるのはアリアだからな』


「そ、そうなんですか?」


『一番ヴァンの身体について詳しいのはアリアだったし、俺より腕がある奴を部下にするのはおかしいだろ? だからアリアに任せる事にしたんだよ』


「だからって、何も1人で行かなくったって……」


『バカね、ヴァンの今回の役割は敵戦艦の発見なの。敵のお家にいつでも攻撃できる状況にしておけば、アラン達も安全でしょ』


 そこで急にアリアが横槍を入れてくる。理由としては、ヴァンが絡んだ話だからだろうが。


「だ・か・ら! なんで1人で行かせるんだよ? それこそかなり危険じゃねぇかよ」


『あれ? 説明してなかったっけ? イグズィスにはリンツオーゲンと同じくハイドクロスが搭載されてるの。しかも、リンツオーゲンより機体サイズが小さいから発動させる面積が少なく出来てその分、透過度とかレーダー機器へのジャミング能力なんかが強化されてるの。だから今回みたいな作戦が1番向いてるのはヴァンとイグズィスなのよ』


 ハイドクロス。それはリンツオーゲンの姿を消す事が出来る光学迷彩のような兵装と巧は聞いていた。


 確かに、これ程大きな戦艦を消す事が出来る兵装が、15mぐらいのメタルドールに搭載されたら確実に余剰エネルギーが発生するだろう。その余剰エネルギーを使ってハイドクロスの性能を更に強化したのなら効果は絶大に違いない。


 何しろ、巧が初めて見たリンツオーゲンはハイドクロスで殆ど姿が消えていて、確認出来たのは格納庫の穴ぐらいだった。その時点で、リンツオーゲンの全体をはっきり視認する事は出来なかった。


 と言うことは、イグズィスに関しては隣に立っても気付けないぐらい透明になれるのかもしれない。


「へ~、そうなのか。それならそうとアイツもあの時に言えってんだ…………ところでアリア――――」


 巧は納得しつつも、ヴァンに少し苛立っていたが、ちょっと気になる事があったのでアリアに質問しようとした。


 その瞬間、格納庫内に警報音が鳴り響く。


『みなさーん。そろそろ作戦領域に到達しますので、お喋りはおしまいですよ。出撃準備をお願いしまーす』


 警報が止まると同時に、オペレーターの悠里の緊張感が感じられない声がコックピット内に響く。なんだか調子が狂う、と巧は肩を落とした。


『こちらアラン、了解した。よし、今回出撃する順番はエドワード、レイラ、そして俺と斬原だ。レイラは出撃後暫く様子を見て、エドワードに動きを合わせるように』


『了解です隊長』


『ほんじゃま、いっちょおっ始めますかぁ!』


 アランの言葉を受けると同時に他の2人は素早く機体を動かし、各々格納庫内を移動していく。


「えっと、俺はどうしたら……」


『斬原、とりあえずお前は俺に着いてこい。此処からはリフトで各デッキのカタパルトまで移動するからな』


 エドワード達を見て、自分はどうすれば良いか戸惑っている巧をアランはワーカントの右腕を使って「着いてこい」とジェスチャーする。


「リフト、ですか?」


『リンツオーゲンの格納庫は後方にあるんだが、出撃用のカタパルトは前方にあるんだ。普通にメタルドールで移動していたら時間がかかってしまうからそれで運んでもらうんだよ』


「確かにそんなに歩ってたら時間がかかりますね。だからリフトで移動、なんですか」


『そういう事だ…………おっとそうだ、斬原。いくらなんでもその大剣だけじゃ心許ないだろう? その辺に武器がかけてあるから1つぐらいは持っていけ』


「あ、はい。解りました」


 そう言われて辺りを見回すと、すぐ側の壁にメタルドール用のライフルやマシンガン等が掛けられている。既にいくつか持ち出された後ではあるが。


 だが、先程から巧が気にしていたのはこの事だった。アーディレイドが持っているこの大剣、ツヴァイヘンダーがいくら強くても、流石にこれだけじゃ無理がある。


 だからこそアリアに先程、他に何か武器は無いのか、と聞こうとしたのだが丁度良いタイミングで警報が鳴って話が中断させられてしまった。


 その後、今のようにアランが「武器を持っていけ」と促してくれたから巧の心配は無くなったのだが。


 そういえば、それからアリアが姿を見せないので巧は疑問に思ったがアランに催促された為、呼び出すのを止めてアーディレイドを移動させる事に集中した。



――――――――――――――


『…………って訳だから、こっちも準備は出来たけどそっちは大丈夫?』


 真っ暗な空間の中、小さな光を放つ携帯電話を片手に、女性と見間違えそうな顔立ちの青年ヴァンは電話ごしに心配そうに語る少女と会話をしていた。


「こちらは問題無い。既に敵艦の位置と数は把握した。増援がなければ、敵艦の数は現在5隻。位置はデータを転送するからアラン達に送ってくれ……もっとも、俺は現在その艦隊の前の森林地帯でハイドクロスを起動させながら待機しているから――――」


『ちょっ、ヴァン? 無茶は止めてよ? いくらQシリーズだからって戦艦を5隻も相手にするだなんて…………アラン達が到着するまで待機してて?』


 ヴァンが喋り終える前に、電話相手の少女、アリアは声を荒げた。ヴァンはそれでも表情を変えずに続ける。


「勿論馬鹿な真似をする気は無い。だが、あの戦艦の中には量産型のメタルドールがまだ数十機搭載されている。せめてそれだけでもアラン達の負担を軽減する為に片付けたいのだが、駄目だろうか?」


『数十機って…………ヴァンを信じてない訳じゃないけどもし何かあったら私は……』


「心配するな。1、2機程度片付けたら後退してアラン達と合流するつもりだ」


『なら良いけど……でも本当に無理はしないでね? 危ないと思ったら1機も相手にしないで下がって? 絶対よ』


「……了解した」


『じゃあ、お願いね。薬は用意して待ってるから』


 その言葉を最後に、アリアが先に電話を切った。もう声が聞こえなくなったのを確認するとヴァンは携帯電話を着ているコートの内ポケットにしまう。


「無理はするな、か」


 ヴァンはアリアに念を押されていた言葉を小さく呟いた。この言葉はアリアにいつも言われている。勿論、自分の身体の状態について詳しく知っているが為につい言ってしまうのだろう。


「言ってくれるのは嬉しいが……こんな身体だからこそ無理をしないと意味が無いんだ。望んでいなかった力を与えられたとしても、持ってしまった以上はこれを少しでも誰かの為に有効に使うと決めた。それが今の俺が生きている意味…………お前もそうだろう? イグズィス」


 ヴァンはうつ向いていた顔を上げ、目の前にある様々なボタンの中から1つをタッチした。すると静かに目の前のモニターが起動し、うっすらと外の景色を映し出す。と言ってもうっそうと生い茂る木々ばかりで他は何も見えない。


「お前も当初はただのメタルドールだった筈が、様々な改造、実験を施され最終的には誰にも使えないQシリーズになった。まぁその頃に丁度良く俺と言うパーツがいたからこうやって壊されずにいる訳だが…………別に恨んではいない。望んでいなかった力だが、それを存分に活かせるパートナーを見つけられたんだからな」


 そのヴァンの言葉に呼応するかの様に、コックピット内に明かりが灯り様々な計器も起動し始める。


「今までセントラルの動きをただ待っているのも飽きてきた所だ…………さて……ハイドクロス解除と同時にシステムを戦闘モードに移行――――」


 ヴァンが素早く目の前のモニター下の計器類を操作する。そして、今まで木々ばかりだった空間に黒い物体が頭からゆっくりと姿を現す。


「各部チェック、問題無し…………行くぞ、イグズィス」


 その言葉を受け、またもヴァンに答えるかの様に、ハイドクロスが解除され現れ始めた頭部の目にあたるバイザー部分が発光した。



――――――――――――――


『…………リンツオーゲン、着陸完了しましたー。これから数分間ハイドクロスが解除されますので、右舷、左舷のデッキから皆さん急いで発進してください』


『了解だぁ悠里ちゃん。そんじゃあエドワード・T・シャーレン、ワーカントカスタム! お先に行くぜっ!!』


 リンツオーゲンが無事地上に着陸したのを確認しつつ、ハイドクロス解除の報せを受けると、既に射出用カタパルトに機体を固定していたエドワードはモニターに映る悠里に軽く敬礼をすると大張りきりで出撃していった。


 リンツオーゲンには右舷と左舷のデッキがありそこからメタルドールは出撃するようになっている。


 尚、メタルドールの出撃中はリンツオーゲンのハイドクロスが強制的に解除されてしまう為姿を晒す危険が生まれてしまう。だが同時に、解除する事で各兵装も使用出来る様になるので自己防衛は可能である。


『やはりどうしようもないな、あの馬鹿は……』


 レイラは左舷カタパルトで準備をしていたのだが、その反対側から楽しそうに出撃していったエドワードの声を聞いて溜め息をついてた。


『まぁそういうなレイラ……アレもあいつの良い所だ。さて、恐らくエドワードはもう着地して狙撃ポイントへ向かっている筈だ。合図が出るまでは空で待機、良いな?』


 アランはレイラをなだめつつ、作戦の再確認をする。


『はい、了解しました隊長』


 アランにそう言われたもののまだ少し渋い顔をしつつ、レイラはコックピットに備え付けてあるパイロット用のヘッドギアを装着し、操縦幹を握り締める。


『……レイラ・バーン、発進します』


 無駄とも言えそうな重武装とフライトユニットを施された赤いワーカントはリンツオーゲンから勢い良く放たれると、真っ直ぐ大空へと上っていった。


『よし。じゃあ後は俺達だな』


 レイラの飛行進路を確認すると、アランは機体をカタパルトに固定させつつ巧に話しかける。


「そっ、そうですねアランさん! えっと、此処に足を固定して……あれ? おかしいな……」


『そうか、これは練習してなかったか』 手順が解らず悩んでいるような巧の声を聞き、アランはそういえばやっていなかった事を思い出す。


『すまん斬原! 誘導してやりたいが時間が無い……なに、アリアか悠里にでも聞けばすぐ出来る。着地地点で待っているから早く来いよ…………アラン・オーバイル、出る!』


 焦っている巧を心配しながらもアランは出撃してしまった。確かに、こうしている間にもセントラルは戦闘を行っているのだ。


 だからこそ巧は焦っているのだが、足元を確認しようとするとツヴァイヘンダーの重さでアーディレイドが倒れそうで出来ないでいた。


「こっちかな? あ、違う? じゃあ此処かな? あれぇ…………」


『アンタ馬鹿ねぇ。そんなのにいつまでかかってんのよ』


 小刻みにアーディレイドの両足を動かしていた巧の耳に、急にアリアの声が聞こえてきた。


 モニターに目を向けると、不機嫌そうな顔をしたアリアがそこに映っていた。


「あのなぁ、結構これが難しくて――――」


『右』


「え?」


『少し右に動きなさいって言ってんの! 私が誘導してあげるから』


「だから怒んなくても……解ったよ」


 何故アリアが不機嫌なのかは解らない巧だったが、これ以上ヘソを曲げられては困るのであまり反論はせず大人しく従う事にした。


『じゃあ右。もうちょい右。前。違う違う、もっと。あぁ馬鹿行き過ぎ! 後ろに戻って。そう、それじゃあ左。まだ左…………はいストップ!!』


 アリアがそう言うと、動きを止めたアーディレイドの足がカタパルトにしっかりと固定された。


「おぉ? ちゃんと固定された。ありがとうなアリア」


『…………べっ、別にお礼を言われる事なんかしてませんっ!』


 そう返事をするとアリアは何故かそっぽを向いてしまう。また怒らせてしまったか、と巧はすぐ謝る事にした。


「あ~、悪い悪い。さっさと出撃するからさ」


 そう言って操縦幹を握ろうとした瞬間、アリアに『待って』と呼び止められてしまう。


「何だよ? まだ何か怒り足りないのか?」


『なっ、違っ、ただのお願いよお願い!』


「お願いって?」


『敵のメタルドールに遭遇したらなるべくコックピットは避けて攻撃して? 私達は人殺しじゃないから。それから、倒したメタルドールや持っていた兵装で使えそうな物があったら回収してほしいの』


「勿論、俺だって人殺しはしたくないから大丈夫だ。けど、メタルドールとかを回収ってのは何で?」


『補給部隊が無い私達は、奴等の兵装を奪って使うぐらいしないとあっという間に武器無しになっちゃうわ。それからメタルドールは傷が深くない装甲を使ってワーカント達を修理するのに使えるの』


「ワーカント達、って事はアーディレイドなんかは直せないのか?」


 今のアリアの話を聞く限りではそうなってしまう。ならばアーディレイドに傷を付けない様に戦わなければいけなくなるが、そんな自信は巧には無かった。


『んーと、全てのメタルドールはエクセラメタルっていう特殊合金で造られてるって、前に話したわよね?』


「へ? あ、うんうん! 覚えてるよ当たり前だ!」


『本当に? まぁ良いけど。で、そのエクセラメタルはね…………出来具合の良し悪しが激しいのよ。だから最良の物なんてなかなか造れない。でもQシリーズの装甲はエクセラメタルの最も出来の良い物を大量に使ってるから…………』


「ガーリーとかからじゃその出来が良いエクセラメタルは取れないって訳か」


『そういう事。だけど修理しない訳にはいかないからその辺はこっちで試行錯誤してみるわ。私が言いたかった事はそれだけ。さ、アランが待ってるんだから行った行った』


「お前が呼び止めたんだろぉ……全く」


 喋り終えたアリアの態度に不満を感じながらも、確かにアランを待たせてしまっているので今言い争う事はやめておいた。


「それじゃあ、斬原巧! ――」


 今度はしっかりと操縦幹を握り締め、機体の体勢を調整する。


「アーディレイド! ――」


 カタパルト横の設置された長方形のモニターに表示されている数字が3から2、そして1とカウントされていく。


「行きますっ!!」


 カウントが0になると同時に、大剣を背負った白き巨人は空へと放たれ眼下の森林地帯へと降下していく。


「……行ってらっしゃい」


 ブリッジの大型モニターに映っている白い影を目で追いながら、アリアはそう呟いた。


「アリア君。彼等は必ず帰ってくるさ」


 いつの間にか立ち上がっていた哲司がアリアの横に来て肩に手を置いた。その哲司自身もモニターを見つめていたが、どんな心境かアリアには解った。


 普通に考えてみればこちらとセントラルの戦力差は歴然。最初からクライマックスだと言っても過言ではない。


 なのにも関わらずたった5人のパイロット達を送り出す。その選択肢を自分自身と彼等が選んだとは言え、哲司は申し訳無い気持ちを抱えている事だろう。


 リンツオーゲンで戦線に赴く事も不可能では無いが、この艦が落とされたら本当に全て終わってしまう。だから迂闊には動かせない。


 そんな状況で残されたアリア達に出来る事は、巧達が無事に帰艦してくる事を信じて待つしかなかった。



――――――――――――――



『――部っ! 本部っ……応答願います! 此方戦車部隊! 駄目ですっ! あの機動兵器は……我々の戦力では対処できません! 今すぐ全軍に撤退の――――』


 無線機を片手に激痛に耐えながら必死に叫んでいた兵士は、いきなり降ってきた鉄の塊によって最後まで言葉を喋る事を止めさせられてしまった。


『ヒャッヒャッヒャッ! やっぱりメタルドールは最強だぁ! 戦車も戦闘機も怖かねぇ』


 先ほど降り下ろしたガーリーの足をその場で小刻みに回しながら、セントラルのパイロットはコックピット中に響く声で笑う。


『オラオラァ! 死んじまえやっ!』


『逃げろ逃げろ! その方が殺り甲斐があるぜ!!』


 更にそのパイロットの隣にも数機のガーリーがマシンガンやライフルを片手に、地上に展開した軍隊の戦車や歩兵達に対して撃ち続けている。勿論、撤退する者にもお構い無しだ。


『しかし、こんだけ戦力が違うとつまらねぇなぁ。こりゃ全部の国をのっとるなんざあっという間だぜ?』


 一人のパイロットが周囲の味方に向かって呟いた。


 確かに、メタルドールの強さは圧倒的だ。そしてこの現状を見るに、全ての国をセントラルがメタルドールという力を使い統合化させるという作戦に苦労しそうな点は見当たらない。


『そう言われてもな……あの社長の考えは俺には解らねぇ』


『ま、結果がどうなろうがこいつで何もかもぶっ壊せりゃ満足だがなぁ? アッヒャッヒャッヒャッ…………あ? チッ、弾切れかよ。オイ、替えの弾をくれ』


 先ほどから発砲を繰り返していたマシンガンが弾切れを起こしてしまい、撃ちながら笑っていたパイロットは止まってしまった事に舌打ちをすると隣の味方機から弾を受け取ろうとガーリーの左手を伸ばした。


『なんだぁ? 自分のはどうしたんだよ』


『んなもん、とっくに使っちまったぜ? 良いから寄越せよ』


『ったくお前は…………ほらよ』


『ヘッヘッ、ありが――――』

 味方のガーリーが差し出してきた替えのマガジンを受け取ろうと掴んだ瞬間、そのマガジンが爆発を起こした。


 その衝撃で2機のガーリーはフラフラとよろめき、地面に倒れる。どちらも片方の手が爆発に巻き込まれ吹き飛ばされている。


『おいなんだ!? どうし――――』


 2機のすぐ側にいたパイロットが駆け寄ろうとすると、今度はそのガーリーの頭部が爆発を起こした。


『カッ、カメラ!? 何だっ!? カメラをやられたっ、畜生! 何も見えねぇ!?』


『攻撃だとぉ!? 一体どっからだ!?』


 離れていたパイロット達は直ぐ様集まり、一斉に辺りを確認するが、焼け残った木々や壊れた戦車等が目には居るだけで攻撃してきた敵が見当たらない。


『クソッタレ!! 何処に居やがる!』


 敵を見付けられないパイロット達はヤケクソでライフルやマシンガンを森の中にそれぞれ撃ち始める。だが、その行動を取ったと同時に聞き慣れない女性の声がパイロット達に返答してきた。


『……残念。上だよ』


『何っ!?』


 その声を聞いたパイロット達はすぐに頭上を見上げる。


 すると、赤い人の形をした何かが空から接近してきていて、凄い速度でパイロット達の目の前に落ちてきた。


 そしてその落ちてきた赤い人の形をした物が何なのか認識した瞬間、パイロット達は驚愕する。


『メタル……ドール……だとぉ!?』


『ご名答。そして…………さようなら』


 レイラはそれだけ言うと既に着地硬直が消えたワーカントの体勢を建て直しながら、両手に持ったマシンガン、フライトユニットに装備された2基の6連装ミサイルポッドをガーリー達に向けて一斉に発射した。


『おうっ!? はがっ!? ぐへっ!?』


『うあぁあああああ!!』


『ぶうぉえぇっ!!』


 様々な悲鳴と爆発音が飛び交いながら、次々とガーリー達のの腕や足が壊されていく。


『なっ、なんだコイツはぁ! クソッ、ずらかって本隊と合流するぞ!!』


『りりりりりっ了解ぃっ!?』


 他のガーリーの陰になっていた為にあまり被弾しなかった2機は持っていた武器を捨てて、慌ててその場から逃げ出した。


『…………チッ、弾が切れた』


 そう言うと同時にレイラは両手に持っていたマシンガンは捨て、ミサイルが無くなったフライトユニットをパージし、両足脇に取り付けられていたショットガンに持ち変える。


『…………姐さん、こいつはちっとばかしやり過ぎだと思うんだが』


 一連の流れが終わるの待っていたかのように、エドワードの青いワーカントが森の中から姿を現した。その右肩には少し大きめのスナイパーライフルが担がれている。


『問題ないわ、全部急所は外したし。後は自力で脱出でも何でもするでしょ。アンタこそヘマしてないでしょうね?』


『おやおやぁ? 何を言うかと思えば。俺の狙撃を舐めてもらっちゃ困るなぁ。狙ってない場所には当てない、がモットーなんで』


 ワーカントにスナイパーライフルを構えるポーズを取らせながら、エドワードはそう言ってのける。


 その言葉の通り、先程のガーリー達が受けた最初の数回の攻撃はエドワードの狙撃による物だったのだが狙いやすいコックピットに擦らせる事もなく、持っていた武器や頭部等小さな的に的確に当てていた。


『と言っても、流石にあんだけ生い茂る森ん中から狙うのは骨が折れたぜ。姐さん、帰ったら優しいマッ――――』


『じゃあ寝させてやろうか?』


『さて、任務に戻りましょうか』


 いつの間にか自機に向けられているレイラのショットガンに気付くと、それ以上エドワードは口を開く事を止めた。


『……そういえば逃げた奴等が……隊長達が先回りしては居るけど心配だし、追いかけるわよ』


 そう言って手招きすると、エドワードは黙って着いて来た為「肯定した」のだと受け取りレイラ達はワーカントを敵が消えた方向に走らせた。


――――――――――――――


ミディグード ブリッジ


「……? 艦長、出撃している部隊の1つからの通信が途絶えました」


 目の前のモニターの異変に気付いたオペレーターが声をあげる。出撃しているメタルドール部隊の1つから、急に通信が無くなった。


 だが、艦長は彼に目を合わせようとしない。


「放っておけ。奴等の事だ、作戦目標に関係の無い事でもするつもりだろう。だが、何をしようがメタルドールに搭載された戦闘記録装置によって奴等にはいくらでも後で罰がくだされる」


 そう言われるとオペレーターは「……了解しました」とだけ答え、立ち上がった椅子に座り直す。


 ミディグードの艦長は直視しないようにそれを確認すると、軽く溜め息をついた。


(そう、私には今あんな馬鹿共について考えている暇は無い。確かに、パイロットを何人か失った場合はセントラルにとってダメージかもしれないが、代わりにこのミディグードで多大な功績を上げれば私の昇進は間違いない……クックックックッ)


 様々な事を考えつつ心の中で大笑いしていると、またもオペレーターの1人が大声をあげた。


「かっ、かかかか艦長! たっ、大変です!」


「……ゴホン。やれやれ、一体今度はなんだ?」


「あの、その、いきなり艦前方にメタルドールがっ!」


「メタルドールはこちらの戦力だ、何を恐れる事がある」


 オペレーターが何を焦っているのか、艦長はこの時点で理解出来なかった。


「ちっ、違いますよ! 今すぐ正面モニターに出します!」


 するとブリッジにある大型のモニターが1機のメタルドールを映し出す。


「全く、だからどうしたんだと…………」


 そのモニターに映り込んだメタルドールを見て、艦長はオペレーターが焦っていた理由が解った。


「あれは……まさか?」


 そこに映ったのはガーリーでもゴルディスでも無い、黒いメタルドールだった。


 そして、全身が黒で統一されたメタルドールは現時点でセントラルは1機しか製造していない。


「間違いありません! あれはQシリーズの2番機、イグズィスです!」


 モニターの映像はズームアップされ、より鮮明にイグズィスがそこに映し出された。昆虫を思わせるような外観も相まってか不気味さが漂っている。


「どうしますか、艦長……」


 ミディグードのクルー達はどうすれば良いか解らずにビクビクしているばかりだ。それを見て艦長は情けなく思いながら喋りだす。


「どうするもこうするも、ヤツの目的は解らんがQシリーズを見かけた場合には捕獲を最優先にと上から言われている。Qシリーズとはいえ所詮1機……こちらには戦艦が5隻にまだ出撃していないメタルドールが10機もある。負ける筈がないだろう?」


 艦長は確信していた。いかにQシリーズでもこれだけの戦力差には勝てない、と。ついでにイグズィスを捕獲してしまえば更なる昇進も夢ではない。


「…………とは言え、一方的に攻撃したのでは可哀想だな。ヤツに投降する気があるのか聞いてやれ」


『その必要は無い』


「何っ!?」


 急にブリッジに男の声が響く。そうして艦長達が驚いている間にも男の声は話を続ける。


『こちらはイグズィスのパイロット、ヴァン。先程からそちらの会話は筒抜けだった為聞かせてもらった』


 それを聞いた艦長はオペレーター達を睨み付ける。恐らく誰かが誤って機械を操作したからだろう。だが、それでも冷静を装いつつ艦長はヴァンに話しかけた。


「ほう、ならば話は早いな。どうだ? 投降する気はあるのか? 流石に君が乗るそれで我々の全部を相手には出来まい。こちらとしては無傷で回収したいのだがね」


 艦長は心の中で相手が焦る様を想像して笑っていた。イグズィスがミディグードの前にいきなり現れたのはパイロットのミスか何かに違いない。ならば焦っている相手は戦うか、投降するしか選べない。


 自分から捕まりに来てくれるとは艦長にとって、とても幸運だった――――筈なのだが、イグズィスからは意外な返事が返ってきた。


『生憎だが投降する気は無い。こちらの目的は貴艦及び搭載されたメタルドールの破壊、それだけだ』


「ばっ、馬鹿げた事を!? たった1機で何が出来る! 大人しく投降して楽になりたまえ?」


『貴方の命令を受けるつもりも無い。さて、もうお喋りはこれぐらいで良いだろう…………』


「通信……途絶えました」


 その言葉と同時にモニターに映るイグズィスは明らかに戦闘体制を取り始めた。最早戦闘は避けられない。


「くっ……小僧が調子に乗りやがって! こうなればあのQシリーズに多少の傷はつけても構わん! 隣艦の残りのメタルドールも出撃させてヤツを捕らえろ!!」


「了解しました! 隣艦に伝えます!」


 艦長の一声で艦内のクルー達は一斉に慌ただしく動き出し、待機していたメタルドールも出撃を始める。


 そんな様子を、ミディグードの目の前にワザと立たせたイグズィスの各システムをチェックをしながらヴァンは聞いていた。


『いくら数があるとはいえ……イグズィス、俺とお前なら問題ない…………さて、敵が来る。ハイドクロス、展開開始』


 突然、今まで動いていなかったミディグードのカタパルトがゆっくり左右に伸びていくのを確認した為、ヴァンはすぐにイグズィスのハイドクロスを起動させた。


 すると、瞬く間にイグズィスの全身が周囲の景色と溶け込み、肉眼で見分けるには困難な状態にまで変貌した。


 だがそんな事を知るよしもないセントラルのパイロット達は、次々とイグズィスを探しながらミディグードから発進してくる。


『戦艦を抜きにしたとして…………5分だ。5分でカタをつける。イグズィス、やるぞ』


 ハイドクロスの展開が終了したのを確認したヴァンは、早速着地を始めたガーリーの1機に狙いを定めた。そして、イグズィス背部のやや大型なスラスターを起動させながら足元のペダルを踏み締め、敵機に向かって一直線に走り出した。


――――――――――――――


 セントラルのパイロット2人は必死にガーリーを走らせ森の中を逃げていた。


 先程攻撃を仕掛けてきた2機のメタルドールは間違いでなければ、セントラルから逃げ出したというリンツオーゲンに搭載されているメタルドール、ワーカントに違いない。


 となればいくらメタルドール同士でも最初期に造られたガーリーと、隊長クラスのパイロット用に色々と調整されたワーカントではどちらが勝つかは目に見えている。


 だがそれは1対1での場合である。流石にワーカントでも大量のガーリーやゴルディスで囲めば勝機はある筈。そう考えたガーリーのパイロットは早急に戦艦と合流し、まだ出撃していないパイロット達を集め迎え撃つ事に決めた。


『へへっ、そうすりゃあ俺達の勝ちだぜ』


 パイロットの片方がガーリーを走らせる事に集中しつつそう呟く。


 少数対多数。


 勝負事においてこれ程卑怯な事はないが、自分達がやっている事は最早戦争。卑怯だのなんだのと言っていられる状況ではない。


『だけどよぉ、さっきから応答がねぇんだよ!? 通信機がイカれちまったのか?』


 2人のパイロットはだいぶ前から自分達の母艦、ミディグードに対して救援要請をしているのだが、全く返答が無い。


 しかし、その母艦が居る地点で今まさに戦闘が行われている事など知るよしもない2人は勝手に機器の故障と決め付け走って直接合流する事にした。


 故障したと決め付けた通信機を殴りつけながらガーリーの移動に集中しだした時、ふと片方のパイロットが思い出したように呟いた。


『そう言えばよ、確かあのワーカントってのは3機ぐらい居るって話だよな? さっき居たのは赤い奴と、どっからか攻撃してきた1機で2機だ。残りの1機は何処に居るんだ?』


『あぁ? んなもん知るか! 留守番でもしてんだろ!』


『残念、正解は君の隣だ』


『何言って……うぉあぁっ!?』


 突如、片方のガーリーの右側から銀色の物体が出現し、それに対して咄嗟にパイロットは右腕を動かしたのだが衝撃と共に損傷してしまった。


『何だ! おい、大丈夫か!?』


 反対側にいたパイロットもいきなりの事で訳が解らず、驚く事しか出来なかった。


 だが、パイロット達の視界の中にさっきまでいなかった物体が映り込んできた為に、何が起きたのかを理解する。


『ワ……ワーカントだとぉ?』


 森から急に現れたのは緑色のワーカントだった。だがさっきの赤いワーカントと比べると隊長機を表す角の様なアンテナ、右手には少し長めのブレード、左手には実体盾を装備しているだけで、見た所強力な火器は持っていないようだ。


 そんな事を考えていると、ワーカントのパイロットが話し掛けてきた。


『どうも、セントラルのパイロットさん達。ちょっと俺と遊んでってもらうよ?』


『……けっ、んなもんお断りだ! おい、お前は先に行ってろ。こいつなら俺でも潰せる!』


『いっ、良いのかよ? 2機でたたんじまえば楽勝じゃねぇか?』


『違ぇよ、多分もう戦艦までは目と鼻の先なんだ! 俺がこいつとやり合ってる間にお前が味方を呼んできてくれりゃあこいつを簡単にぶっ潰せんだよ!』


『そ、そうか、その方が確実だよな? よし、今すぐ呼んでくるからな!』


 片方のパイロットは焦りながらも言葉をつむぐと、負傷したもう1人を心配しながらもガーリーをワーカントと逆の方向へ走らせていってしまった。


 その姿を見送りながら残されたガーリーのパイロットは、ワーカントに向き直る。


『って訳だ、逆にアンタが俺と遊んでもらうぜ?』


『……うぅむ、あっちの方が痛い目を見る事になるな』


『おい!? 聞いてんのか緑野郎!』


 パイロットは苛立ち、腰部からメタルドール用のナイフを引き抜いた。だが、先程右腕が使えなくなってしまったので左腕で構えている。


『おいおい、まだやる気なのか? 片腕じゃいくらメタルドールでも……それから、俺は緑野郎じゃなくアラン――――』


『テメェの名前なんざ聞いてねぇんだよ! それにこんなもんハンデだハンデ! あんまりにも俺と戦うテメェが可哀想だからなぁ?』


『ほう。ならば俺も右腕は使わん。フェアでは無いし、左腕だけでお相手しよう』


 アランはそう言うとロングブレードを左手に持ち変えて、右腕を力が無くなったようにダランとさせる。だがその行動が、ガーリーのパイロットを更に怒らせてしまった。


『このっ……レジスタンスごときが舐めんじゃねぇ!!』


 パイロットは思いきりペダルを踏みしめ、ガーリーをワーカントに突進させる。それと同時に左手のナイフで斬りつけようとするのだがワーカントは避るばかりで、かすらせる事も出来ない。


『ハハッ、どうしたどうしたぁ!? 避ける事しか出来ねぇのかぁ!』


 左腕だけとはいえガーリーは豪快に左右にナイフを振り回している為、この緑色のワーカントがロングブレードをガーリーに当てる為にはこちらの攻撃を食らわなければ出来ない。


 と、パイロットは考え周囲の木々が傷付く事などお構い無しに必死に操縦幹やペダルを動かしナイフを振り回し続ける。


 そんな中でふいに、アランが何かぶつぶつと呟いている声が聞こえてきた。


『4……5……6……7……8…………』


『あぁん!? なに数字なんか数えてんだおま――――』


『9! そこだっ!!』


 アランがそう叫んだ瞬間ワーカントの右膝が、振り回されているガーリーの左腕にぶつけられ、ナイフが弾き飛ばされる。


 そこから流れるように左肩と胴体の接続部分にロングブレードを突き刺し、背部スラスターで勢いをつけてガーリーをそのまま押し倒した。


 まさかいきなりメタルドールが足技を繰り出すなど思っていなかったパイロットは、一瞬の間に何が起きたのかガーリーが倒れた衝撃を受けるまで解らなかった。


『……な……何が』


『君は気付いていなかったようだが、ナイフの振り方がいつの間にかパターン化してしまっていた。まぁ、頭に血が上っていては冷静な判断が出来んからな。その為、自分の行動にバリエーションを持たせるのが困難になってしまうのは仕方の無い事だが…………あぁ、だから俺は単調だった君のナイフを振る動きを見極めてパターン化し、ナイフが完全に当たらないタイミングを狙って右足をぶつけたって訳だ』


『何訳解んねぇ事を…………嫌待てよ……お前、さっきアランって言ってたよな?』


 先程の問題点をペラペラと喋る男、自分で名前をアランと言っていた。この名前をガーリーのパイロットは何処かで聞いた覚えがある。


『そうか……思い出したぜ。お前、メタルドールの適正試験で高成績者だった奴等の一人だな? 確か最終試験の模擬戦で相手――――』


 パイロットがそこまで言いかけた時、何かがぶつかった衝撃音と共にガーリーの頭部がいきなり爆発に包まれた。さらに、アランの聞き慣れた声がワーカントのコックピット内に響く。


『隊長! ご無事ですかっ!?』


『姐さん、今のは明らかに隊長が有利だった気が…………あと、それ俺のなんだから早く返してくださいよ~』


 アランは何かが飛んできた方向へ視線を向けると、そこにはスナイパーライフルを構えている赤色のワーカント、後ろには青色のワーカントが立っていた。


『レイラ、エドワード……2人共無事だったか』


『はい! あっ、隊長こそ何処かお怪我は!?』


 心配になったレイラは持っていたスナイパーライフルを地面に投げ捨てると、アランの元までワーカントを走らせた。


『あぁっ!? 俺のライフルがっ!?』


 情けなく叫びながらエドワードは投げ捨てられたスナイパーライフルに駆け寄り、急いで持ち上げ傷や破損が無いか確認する。


『嫌、俺も問題ない。お前等のワーカントも損傷は軽微のようだし、どうやらアリアに怒られずに済みそうだな』


 独自に動いているリンツオーゲンはまともな補給が受けられない為、セントラルのパイロットが脱出した後の損傷が少ないメタルドールを回収し、使える部品や装甲を再利用しワーカントやアーディレイドの修理を行わなければならない。


 その作業の中心として動かなければならないのがアリア。なのだが、彼女は他にも様々な仕事を抱えているので少しでも負担を減らしてあげようと、アラン達戦闘部隊はメタルドールをなるべく被弾を避けるように扱う事を決めていた。


『……ところで、隊長。斬原は何処行ったんすか?』


『ん? あぁ、斬原にはヴァンの居る所に向かってもらったよ。アイツ、一人でおっ始めたらしいからな』


 いつもよりテンションが下がった口調で話すエドワードを可哀想に思いながら、ガーリーに突き刺さっていたロングブレードを引き抜きアランは体制を整える。


 気がつけばいつの間にかコックピットハッチが開いていて、パイロットは既に逃げ出したようだ。


『成る程。Qシリーズが2機もいたんじゃ、只のメタルドールが数十機いようが屁でもないですもんねぇ』


『嫌、俺はヴァンの“迎え”に斬原を行かせたんだが』


『……迎えに、ですか?』


 アランの言葉の意味が最初、エドワードとレイラは解らなかった。


 だが次のアランの一言で、2人はその言葉がどういう意味なのかを理解する事になる。


『そう、迎えだ。たった一人で数隻の戦艦と張り合ってくれてる勇者様には、帰り道に護衛をつけるぐらいしないとな。それに、Qシリーズを守らせるならQシリーズが一番だろう』


 アランは笑いながらそう話すと足元のもう動かなくなったガーリーを担ぎ上げ、エドワードとレイラを手招きしながら先程来た道を戻り始めた。


――――――――――――――


「…………バカな、こんな事が」


 ミディグードの艦長は今、自分の目の前で起きた惨状を信じられずにいた。


 当初、艦長の視界には自軍のメタルドールで溢れかえり優越感に浸っていた。


 所詮は1機のメタルドール、負ける訳がない。更にこいつを捕らえ、持ち帰るだけで、夢のセントラル副社長。艦長は完全に勝利を確信していた。


 しかし、現実は大きく違ってしまった。


 現在艦長の視界に映っているのは、機体の各所に穴が開き、動かなくなった9機ものメタルドールの残骸。


 そして限界まで足掻いていた最後の1機も今、腕や胴体から火花を上げながら地面に崩れ落ちる。


「あっ、ありえん! これだけのメタルドールがこんな短時間で――――」


『終了時間は6分……か。大きく出過ぎたな』


 艦長の言葉を遮るようにヴァンがそう喋ると、メタルドールの残骸の中心にイグズィスが姿を現した。イグズィスは傷1つ負っていない。


「たった6分でこれだけのメタルドールを……化物だ」


 ミディグードオペレーターの1人が声を震わせて呟いた。


 10機ものメタルドールに囲まれて無傷、更に全てを破壊するなんて事はそう易々と出来る事ではない。だが、それを目の当たりにしてしまった以上、嫌でも信じるしかなかった。


『さて、そちらの手駒は尽きたようだがどうする気だ? 艦長』


「ぐっ、貴様……」


 確かにもう残っているメタルドールは無い。残ったのは5隻のミディグードだけ。


「あんなメタルドールが相手ではいくら戦艦とはいえ…………嫌、待てよ?」


 その時、ふと艦長は考えた。いくらQシリーズとはいえ、戦艦を落とせるのだろうか、と。


 見た所、イグズィスには対艦用の武器が装備されていない。それに、先程の戦闘でもあまり良く見る暇がなかったが、近接戦闘しかしていなかったように思えた。


 それを考えると、イグズィスには戦艦は落とせない、若しくはかなり近付かなければ攻撃が出来ない、のどちらかだろうと艦長は考えた。


「……はっはっは、嘘を言うんじゃないよ君ぃ。その機体にはとても我が艦を落とせそうな武装を積んでいる様には見えないのだが? それともなにかね? まさか戦艦5隻もの集中砲火を掻い潜りながら――――」


『俺はそれでも構わない』


「な、なんだとっ!?」


 ヴァンがそう言うと同時に、イグズィスの右手首付近の装甲がやや膨らんだ部分から黒い槍の様な物が飛び出した。


 恐らくアレが奴の武装なのだろうと艦長は推測する。だが、見た目で判断するとやはり戦艦を落とせそうな代物には見えない。


「ば、馬鹿を言うんじゃない! そんな物でこのミディグードを落とせるものか!」


『あぁ、確かに少しばかり骨が折れそうではある。だが残念だ、今回は俺は手を出さない』


 ヴァンがそう言うと、イグズィスの右手から伸びていた黒い槍は収納された。


 そしてヴァンは言葉を続ける。


『貴方は聞かされているのかいないのか解らないが、リンツオーゲンの事はご存知ですか?』


「知っているに決まっているだろう! 貴様らが盗み出した新型の戦艦だ」


 リンツオーゲン。それはQシリーズ用の母艦として製造された特殊戦艦で、現在はレジスタンスに盗まれたまま。というぐらいは艦長も頭の中に入っていた。しかし、それが何だと言うのか。


『盗んだ事に関しては今は置いておくが……そのリンツオーゲン、現在は着陸しています』


「それがどうしたというんだ!?」


『貴方はリンツオーゲンに搭載された兵装も、知っていますか?』


「だから知っていると言っているだろう! リンツオーゲンにはまず…………」


 そこまで言いかけて、艦長の口は硬直する。


『おや、どうされました』


「ま、まさか…………」


 艦長の怯えているような声を聞くとヴァンは少し笑みを浮かべ、続けて喋りだした。


『そう、そのまさか。貴艦を含めた5隻は既に、リンツオーゲンの大口径重量子反応砲「エリュミネイトキャノン」の有効射程距離に入っている。あれを撃てばどれだけの戦艦が並ぼうが無意味、なのはご存知で?』


「ぐっ……貴様ぁ!!」


 艦長は怒りで自分の前にある操作用のパネル盤を殴り付けた。衝撃で皮膚が切れ、血が染み出してきたが気にしている場合ではない。


 リンツオーゲンに搭載されている兵装、エリュミネイトキャノン。


 これがどれ程の威力を誇るのかを艦長は他の人間から聞いていて、実際に見てはいないが知っている。


 聞いた話によれば砲身が完成したエリュミネイトキャノンを、リンツオーゲンに組み込む前に実験の試射を行なった際、連なる山々を「消し飛ばした」らしい。


 勿論、自分の目でそれを見ていないし映像も残っていないので真相は解らないが、セントラルがわざわざ自分だけに嘘をつくという行為をするとも思えない為信じていた。


 そして今、そのとてつもない兵器の銃口が自分達に向けられている。


 流石に有効射程距離がどの程度なのかは聞いていなかったので解らないが、ヴァンの喋り方を聞く限り本当にロックオンされているかもしれない。


『それで、どうします? 今此処で戦艦と命を共にするか、撤退して生き長らえるか。あなた方の選択肢はこの2つだけですよ』


「ぐっ……」


 ヴァンの言葉に艦長は焦っていた。


 今のところ、リンツオーゲンが何処からこちらをロックオンしているのかは解らない。


 だが、もしも自分達がイグズィスを捕らえようとして動いた場合、リンツオーゲンに本当に狙われているのであればエリュミネイトキャノンを発射され、あっという間に全艦撃沈となる。


 こんな場所で死んでしまっては副社長の夢も何もなくなってしまう。


 そう考えると急に自分の命が惜しくなった艦長は、ヴァンの言葉を信じたくはなかったがミディグードのクルー達に嫌々ながらもこう命令するしかなかった。


「…………全艦、撤退する。すぐに進路をセントラルに向けて移動だ」


「か、艦長!? 本気ですか! まだ回収していないパイロット達が――――」


「知らん、そんな奴等は捨て置け! 私は……私はこんな場所で死ぬ訳にはいかんのだ!! 解ったらさっさと動かんかっ!」


 そう叫びながら艦長はまたもパネル盤を殴りつける。その怒り具合にオペレーターや他のクルー達は怯えきってしまい、急いで各々の持ち場に戻った。


「……ミディグードが回頭していく? こちらの要求を飲んだという事か…………まさか、嘘が通用するとはな」


 ミディグードがゆっくりと向きを変え始めるのを見ていたヴァンは、コックピットのシートに深く寄りかかるとそう呟いた。通信回線は既に切っているので相手には聞こえていない。


 ヴァンの言う通り、最初からリンツオーゲンが狙っているというのは嘘であった。


 勿論、リンツオーゲンのエリュミネイトキャノンはミディグードのような巡洋艦であっても一発で破壊する程の威力を持っている。


 しかし、そんな事をしては中の人間ごと殺す、という最低の行為に及んでしまう。


 レジスタンスといっても、ヴァン達は人殺しをする為に集まった訳じゃない。そんな事では、無差別に攻撃をし始めたセントラルと何も変わらなかった。


 だからこそセントラルのメタルドールと戦闘になった時には、コックピットは狙わずに腕部や装備品等を破壊し相手の戦闘能力を奪う事を主軸にしている。


 自分達自身でも「甘いやり方」と理解していたが、それでも無闇に人の命を奪う訳にはいかなかった。


『…………俺の任務は完了、か。アラン達と合流して帰艦するとしよう』


 回頭を終えて移動を開始したミディグードを見送ったヴァンは、足元に転がっていた千切れたゴルディスの左腕を拾い上げながら、アラン達の居場所をレーダーで確認するとそこに向かってイグズィスを走らせた。


――――――――――――――


 セントラルのパイロットはひたすら自分とガーリーの足を動かしていた。急がなければ仲間がやられてしまう。そんな結果にさせない為にも、早く味方と合流したかった。


 気付けば、周りの景色がミディグードから出撃した時に見たような気がする物へと変わってきている。


『よし、もう少しに違いねぇ! 待ってろよぉ、味方を連れて助けに戻るからな!!』


 パイロットはそう意気込んで、走っていた森の中の道に沿って右に曲がる。


 だがその瞬間、何かにガーリーがぶつかってしまい衝撃と同時にその場に倒れてしまった。


『クソ痛ぇなぁっ!! 一体なんだってん…………だ?』


 頭を擦りながら顔を上げたパイロットの目に映ったのは、何故此処に居るのか理解が出来ず、尚且つ今一番出会いたくない物だった。


 そこに立っていたのは白や青等が綺麗に配色されたボディ、2つのカメラアイ、そして背中に装備された巨大な剣。


 パイロットの記憶に間違いがなければ目の前に立つこのメタルドールは、盗まれた新型のQシリーズ1番機。


『ア……アーディレイド!? ど、どうしてこんな所に!?』


 パイロットは焦りだした。Qシリーズ相手にガーリーが立ち向かった所で、結果は見えている。とはいっても、逃げ出せる状況でもない。


 どうするべきか迷っていると、いきなりアーディレイドの方から通信が入ってきた。


『え、えぇと……セントラルのパイロットさん? すいません……突き飛ばした事は謝りますんで、その機体から降りてもらえませんか? ほら、無駄な戦闘はしない方が怪我もしないですし』


 喋りかけてきた声の主は、男の子の様だった。


 そういえばセントラルで聞かされた話ではアーディレイドに乗り込んだのは学生だったなぁ、とパイロットは思い出すとその学生の名前を咄嗟に口にした。


『お前、斬原巧だなぁ?』


『そ、そうですけど』


『…………ちっ、たかがガキに尻尾巻いて逃げろなんて、舐められたもんだぜっ!』


 相手が巧である事を確認すると、パイロットは大声を上げながらガーリーを起き上がらせた。すると、それに驚いたのかアーディレイドは数歩後退する。


『ちょ、何する気ですか!? こっちはQシリーズなんだ、そのガーリーじゃ勝ち目なんか……』


『うるせぇ! お前みたいなガキに情けをかけられてたまるか!!』


 そう言うとガーリーは素早く両腰からナイフを2本抜き取り、アーディレイドに向けて構えた。


『マジで……やる気ですか?』


『へっ、こちとら最初から大マジなんだよ! おらっ!』


 すると、勢い良くガーリーが2本のナイフを振り回しながらアーディレイドへ突進してきた。


 攻撃に当たる訳にはいかず、巧はアーディレイドを相手の動きにしっかり合わせながら回避運動を取る。


 1回、2回、3回と回数を重ねていくものの、巧はいつまでもこうしている訳にいかなかった。


『こっ、このままじゃやっぱ駄目か。だったら……こいつはあんまり使いたく無かったけどっ!』


 急に巧はアーディレイドを大きく後方へとジャンプさせ、ガーリーとの距離を離した。


『何だ何だ? Qシリーズに乗っときながら逃げる事しか出来ねぇとはなぁ』


『いや、此処からはちゃんと……俺も戦いますよ』


『……何ぃ?』


 この時、セントラルのパイロットは少し焦りだす。挑発するんじゃなかった、と。アーディレイドのパイロットが今「戦う」と言ったのだ。


 そして、アーディレイドが戦うという事は同時に背中の「アレ」を使うという事。


『そう。コイツを使って、アンタのガーリーを止めさせて――――』


『おぉっとぉ? そこまでだ!』


『えっ!?』


 アーディレイドが背負う白き大剣、ツヴァイヘンダー。


 その柄に丁度アーディレイドの右手が触れようとした時、誰かの大声が巧の操縦していた腕を止めさせた。


『一体なんだ――――』


『おい動くんじゃねぇぞ!? 動いたらあっという間に蜂の巣だからなぁ!』


『う……わ、解ったよ』


 と言われつつも流石にコックピットの中までは見られていないだろうと思い、巧は静かにレーダー機器を弄り索敵範囲を広げると、今の声の主が何処にいるのか探し始めた。


 すると意外と簡単に見つかった。場所はアーディレイドの後ろの木々の中。


 だが、問題は場所では無かった。


(1、2……4機もいるのかよぉ)


 レーダーには確かに4機のメタルドールの反応が出ている。恐らく出撃していた部隊の1つなのだろう。


『急にミディグードとの連絡が途切れたから戻って来てみりゃ、こんな大物に出くわすとわなぁ』


 4機のガーリーはライフルを構えながらゆっくりと、アーディレイドに近付いていく。


 勿論、巧もその動きを解ってはいるが下手に動けば集中砲火を受けてしまうと考え、操縦幹から手を放している。Qシリーズの装甲は普通じゃないと言っても過信は出来ない。


『おい、そういやお前他の連中はどうしたんだ?』


 後から現れた部隊の隊長らしき男はアーディレイドを警戒しながら、ナイフを握り締めている1機だけのガーリーに話しかけた。


『あ、あぁ……あいつらは他のリンツオーゲンの奴等にやられちまったよ…………』


『チッ……そうなのか』


『けどよ、そっちが来てくれて助かったぜ。コイツを連れて帰れば、俺達にたんまり金が入るんだからな。それで派手な葬式でも開いてやろうぜ?』


『せめてそうしてやるか…………って事だからよぉ坊主。大人しく俺達に着いてくるんでちゅよ~? ガッハッハ!!』


 急にセントラルのパイロットは笑い出し、アーディレイドの肩を殴り付けた。


 その衝撃はコックピットの中にいる巧に伝わっているので、直接見ていなくとも何をされているのかぐらいは解った。


(クッソォ! どうする? このままだと馬鹿にされたままだし、セントラルに連れてかれる…………やるしかないのか? やれるのか? この状況で誰も殺さず?)


 アーディレイドにとって、これだけのガーリーを蹴散らすぐらい造作もない。


 だが、この1対多の状況で1機ずつコックピット以外を狙ってから攻撃していては時間がかかり他の機体から反撃を受け続けててしまうという事と、そんな状況で自分が冷静に行動できるのか、という不安が巧の中で広がっていた。


(間違ってコックピットを斬ってからじゃ遅い……けど)


 巧がそんな事を考えているなど知らないガーリーのパイロットの1人はあくびをしながら、アーディレイドに近付いていく。


『さてと、それじゃあ行くとするか。おら坊主、大人しくこっちに――――』


『おぐわあぁっ!?』


 そのガーリーがアーディレイドの肩に手をかけようとした瞬間、他のガーリーのパイロットの1人が悲鳴をあげた。


『なんだぁ!?』


 悲鳴がした方向に巧も他のパイロット達も一斉に目を移す。


 すると視界に映り込んだのは何故か腹部に穴が空いていて、そこから火花を散らしているガーリーだった。


『ど、どうなってやがる!? おい、返事をしろ!』


『ツヴァイヘンダー』


『え? ……あっ』


 目の前の光景にあっけに取られていた巧だったが、急に聞こえてきた「ツヴァイヘンダー」という単語で我に返ると辺りを見回した。


 良く見れば他のパイロット達も穴が空いたガーリーにライフルを構える等して釘付けになっており、巧の事など忘れている。となれば、この隙を逃す訳にはいかない。


『今だっ!』


 手放していた操縦幹を力強く握り直し、巧は叫んだ。


 と、同時に素早くアーディレイドの右腕を背中に回しツヴァイヘンダーの柄を掴み、引き抜きながら体勢を整えつつそれを構え、一番近くにいたガーリー目掛けて振り下ろし左肩から右足までを瞬時に斬り裂いた。


『えっ、ちょっ、うわぁぁぁぁぁっ!』


 そう叫びながらパイロットはなんとか片足だけでバランスを取ろうと操縦幹を動かした。が、どう足掻いても重心を保つ事が出来ず、ガーリーは力無く地面に倒れた。


『よ、良かった……出来た』


 今の攻撃はコックピットに当たっていない。それを確認すると巧はホッとする。勿論、そんな事をしている場合では無いのだが。


 その倒れた音に気付いたのか先程、いきなり腹部に穴が空いたガーリーに向けられていたライフルを、今度は巧とアーディレイドの方に無傷の3機は慌てて構えなおす。


『しまった! アーディレイドがっ……おぐわっ!?』


 無傷なのは2機に訂正する事になった。


 何故かアーディレイドの左前に立つガーリーのアンテナ頭が急にひしゃげた。更に右肩、左肩と小さな爆発と共にまた穴が空いていく。良く見たらさっきの腹部に穴が空いたガーリーは、いつの間にか地面に倒れている。


 一体、何が起きているのか巧には解らなかった。


 だが、ガーリーはまだ残っている。目の前の不思議現象について深く考えている余裕はない。


 今はガーリーをなんとかしなければならない。


 そう思って巧はツヴァイヘンダーを構え直して残り2機になったガーリーの内、手前の方にゆっくり近寄った。


 とは言ってもこちらから攻撃はしない。巧個人としては、なるべく自分から行くよりは反撃で返したかった。


 アーディレイドに乗っている。これは格ゲーで言えば強キャラ(そのゲーム内で相対的に見て、強いキャラクター)を使っているに近いんじゃないか、と巧は考えた。


 と言うことは、こちらが圧倒的に有利な訳だから自分から動くのは卑怯だと巧は考え、人が乗っているメタルドールに関してはそう対処する事に決めていた。


 すると目の前のガーリーは巧の思いを知ってか知らずか、腰からナイフを引き抜くとアーディレイドに向かって斬りかかる。


 その動きに合わせ、巧はガーリーのナイフがツヴァイヘンダーとつばぜり合いするようにぶつけた。


 だが、ツヴァイヘンダーはつばぜり合いをするどころか武器同士がぶつかりあったと思ったらナイフを軽くスライスしてしまう。


 パイロットがそれに気付いた時にはガーリーが既に勢いがついてしまっていた為、足を止めようとしたが間に合わず、咄嗟に両腕で防ごうとした


 しかし、アーディレイドにしっかりと握られているツヴァイヘンダーはまっすぐ突っ込んでくるガーリーの指先、手の平、腕をなんなく切り裂いていき、胴体に届く手前で呆気に取られていた巧は慌ててアーディレイドを後退させ、ツヴァイヘンダーを引き抜いた。


 それでバランスを崩してしまい両腕が指先から肩近くまで半分にされたはガーリーは、手をついてショックに備える事が出来ず、勢いが乗ったまま地面に激突した。


 恐らくパイロットへの衝撃も優しい物ではない。


『あ……危なかった。まさかナイフまであんな風に簡単に斬れるなんて』


 「コックピットに当たる」と思った瞬間、身体中から冷や汗が吹き出して直ぐにアーディレイドを後退させていた巧は右手に握られているツヴァイヘンダーを見ながら呟いた。


 武器同士なら少しぐらいはぶつけ合っても問題は無いんじゃないかと思っていたが、巧の予想を裏切る様にツヴァイヘンダーはメタルドールの装甲だけでなく武器まで簡単に斬ってしまった。


『ひっ……かっ、勝てる訳ねぇぇぇぇ!?』


 その様子を見ていた残る最後の1機は、持っていた武器を投げ捨てると一目散に逃げ出した。


『…………逃げてくれた、のか』


 転びそうになりながらも逃げ去っていくガーリーを見てホッと胸を撫で下ろしながら、巧は操縦幹から手を放す。


 だがそこで、また誰かの声に釘を刺される。


『斬原、戦場で気を抜くな。残存部隊が居ない、とは確定できない』


『さっきからアンタ、誰なんだ? ってか何処に居るんだよ』


 巧は辺りを見回してみるが、今話しかけてきている人物の姿は見当たらない。


『……仕方ない。俺は此処だ』


 その言葉と同じタイミングで巧の目の前、アーディレイドの目の前に広がる自然の風景を塗り潰す様に黒い物体がいくつも現れ、更にゆっくりと増えていきながら1つの何かを形成していく。


 何が起きているのか理解する為に暫く黙っていた巧だが、“昆虫の様な顔”が視界に映った時点でこれが何事なのかを理解する。


『こ、こいつは……?』


『Qシリーズの2番機イグズィス。そして俺の名前は……ヴァンだ』


 ヴァンが喋ると同時にハイドクロスを解除し終えたイグズィスは、肉眼で巧が全体像を確認できる状態になっていて、アーディレイドの目の前に力無く佇んでいた。


『なんだよ、お前だったんならさっさとそう言ってくれよ。俺はてっきりアランさん達かと思って……』


『イグズィスの機体性能、特性、俺の声を覚えていると思い戦闘行動を援護したのだが、どうやら違ったようだ。これから記憶力を鍛えた方が良い』


『なっ、そんな事はいいんだよ! イグズィスの事だって聞いてはいたけど実物は殆ど見てねぇし、お前と直接話した回数だって少ないんだからしょうがないだろ!』


 巧は怒りを表現するかのようにアーディレイドで地団駄を踏んでみせた。だが、そんな事を気にも止めていないのか、ヴァンは至って冷静なまま会話を続ける。


『残念だが、無駄話をしている時間は無い。母艦には帰ってもらったが回収し忘れた部隊が無いとは言い切れん』


『好きで無駄話してる訳じゃねぇよ! ……ってか、まだ敵が居るかも知れないのか? だったら俺達で探し出して――――』


『いや、その必要は無い。既にアラン達が発見し処理している、若しくは深刻なダメージや予備弾薬を切らしたが母艦に連絡が取れない、という状況に恐怖しメタルドールを乗り捨てて逃げた……等が考えられる。勿論100%ではないが、この確率が高い。解ったら、急いで転がっている使えそうな武器や破損が少ないメタルドールを探してくれ』


 ヴァンはそれだけ喋るとアーディレイドに背を向け地面に倒れている複数のガーリーを近い物から抱き起こし、前面や背面等を確認し始めた。恐らく、回収する機体の選別だろうと巧は思う。


 それを真似して足元に倒れていたガーリーを見付けて担ごうとしたのだが、どうにも先程のヴァンの言葉が腑に落ちず作業しようとした手を止め、口を動かした。


『なぁ、お前が言ったそれって100%じゃないなら、もしかしたら上手く逃げ延びた奴等も居るかもしれないんだよな?』


『そうだな。今回、セントラルが出してきたのはミディグード。あの艦はメタルドールならば1隻で約12機近くを格納出来る訳だが、戦艦のスペースとして使われるのは何も内側だけじゃない、外側だって使われる可能性はある。例えば、艦橋なんかに無理矢理ガーリーを何機かくくりつけて来たとすると約12機という考えは通用しない。しかし、1隻に必ず満載しているとも言えない』


『じゃあ確証は持てない、って訳か』


 巧は作業していた腕を止めて、明後日の方向を見る。


 視界には森林が広がっているだけだが、この中の何処かに息を潜めて飛び出す機会を伺っているセントラルのメタルドールが居るかもしれない。


 そう思い一歩踏み出そうとしたのだが、急に動いた事に気付いたヴァンの声が巧の動きを止めた。


『残党が居ないか探索、そして発見したら破壊する……なんて考えを持ったなら今すぐ止めた方が良い』


『どっ、どうしてだよ!?』


 考えを見透かされた事に驚いた巧はその反動で方向転換をし、イグズィスを視界に捉える。


 その左肩には、倒れているガーリーから回収したであろう損傷の少ない腕や足がいくつか担がれていた。


『確かにアーディレイドとイグズィス、この2機のQシリーズならば残党が居ないかを探しだし、見つけ次第破壊も可能だ』


『だったら――――』


『しかし、それを行うにはもう時間が無い』


 時間が無い。さっきもヴァンは言っていたが一体なんの時間が無いと言うのか、巧には解らなかった。


『代々、時間が無いってさっきから何を急いでんだよ? トイレぐらいなら我慢を――――』


『これ以上、リンツオーゲンを陸に出させておけないからだ。いくらハイドクロスを展開していても、此処にQシリーズが2機も居る時点で母艦が側に隠れている事ぐらい製造した張本人達が見抜かない筈がないだろう。むしろ、既に新たな部隊がこちらに向かって来ていてもおかしくない』


『だ、だけど……リンツオーゲンにだって自衛兵器がある訳だし』


『そんな事をすれば本当に最後、自衛の為に兵装を使う事でハイドクロスを解除したリンツオーゲンはそこでセントラルに目をつけられ逃走は不可能、更に方々に散っていた部隊が集結し始め、メタルドールの大軍団と戦う事になる。そうなるかもしれない危険を犯してまで、お前は残党探しに行きたいか?』


『そ……それは……』


 巧に返せる言葉は無かった。


 付近に潜伏しているかもしれないセントラルのメタルドール。居るか居ないか解らないからこそ、放って置く事は出来ない。


 しかし、セントラルがリンツオーゲンを見つけ出す為の探索部隊を既にこちらに仕向けていて、そっちを探している間に発見されて攻撃される可能性もある。


 どちらも100%ありえるかもしれないし、0%の可能性だってあるかもしれない。だったら被害が軽い方を切り捨てるのは当然だ。


(だったらどうすれば良いかは解ってるよ、解ってる。でもだからって……)


 そんな事を頭の中で葛藤している巧にヴァンは少し、冷めた口調で話しかける。


『斬原』


『……え?』


 名前を呼ばれ、巧はうつ向いていた顔を上げた。


『もし、どうしても探しに行きたいのなら』


 イグズィスが肩に担いでいたガーリーの腕部や脚部が地面に落とされる。


『この俺と』


 支えていた重しが無くなり解放されたイグズィスの左腕は力無く下ろされた。


『イグズィスを』


 そして、左腕が下ろされると同時に右腕の方がゆっくりと持ち上がり、アーディレイドのコックピット部分を指差した。


『壊せ』


 そこまで言い切った瞬間、アーディレイドに向けられた右腕部から槍状の兵装「ゲイボルグ」が伸び出し姿を現した。


 この時点で巧はもう言葉が出せなくなり、操縦幹を握る手や身体中からは嫌な汗が噴き出し始め、イグズィスから目を反らせず、その場から動く事も出来ず、ただそこに立ち尽くしていた。


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