本戦 3
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『──では次に、今年度のアイグランプリ本選のルール説明を、熱田先生。よろしくお願い致します』
『ハーッハッハッハ! 元気かぁ、熱き高校球児達よ!』
それぞれのリーグを勝ち上がってきた12校が揃い踏みの中、式は着々と進行する。
前に立ってマイクを持つ男はもちろんあの男。
「(あいつ……早くしないと本当に出場できなくなるわよ)」
式が終わるまでに到着しなければその選手は出場権を失う。携帯はまだ刃と繋がっているが、式中に話す訳にも行かない。
「さぁーてよく勝ち残ったな、選手諸君。私の名前は熱田熱雄だ、よろしくな。さて、早速だが本選のルール説明をしよう。前の画面を見てくれ」
熱田が促すと前のどデカいスクリーンに12組用のトーナメント表が表示される。
「見てわかるとおり本選は皆、トーナメントで戦う。出場校は12校。まず1回戦を戦い勝利した6組、そしてその6組がまた戦い、3組となる。そして1回戦で惜しくも敗れてしまった者達で敗者復活を行い、そこで勝ち上がってきた1組を入れた4組で再びトーナメントを再開する」
会場は静かにその説明に集中している。皆、その言葉を待っていた。
「そしてその戦いを勝ち進み、頂点に立った者達が勿論……この『I-G・1年の部』団体戦の優勝校だぁ!」
熱田はマイクを持つ左手とは逆の右手を高く天へと向けて言い放つ。生徒たちは皆お叫びを上げた。
「戦いのルール自体は至って簡単。相手に帽子を被っているやつがいる。そいつの帽子を取る、完全に行動不能にする、負けを認めさせるかすれば勝利となる! ただし、負けを認めた相手にさらに危害を加える、最初に被っていた者が他の者に帽子を移す、などの行為は反則負けになるから注意しろ」
この辺りはやはりスポーツマンシップに則るということだろう。これで鎧亜も下手に暴れることは出来ないはず。
「以上で団体戦の説明は終わりだ。続いて個人戦だが……これはこちら、大会側が団体戦の戦績を見て個人的に評価が高かった16名を選抜し、それと外からの予選を勝ち抜いた16名、それを足した32名で争われる。ルールは帽子のことを無くせば団体と一緒だ。それはその時で説明する。と、これくらいで俺からの話は終わりにしよう。あとは会長からお話があるから、しっかり聞くように!」
そう言って熱田は礼台を後にした。その後に待つのは、開会式最後のプログラム。
「(やばい……これが終わったら式が終わっちゃう!)」
光は右手に持った携帯を強く握りしめた。来い、早く来い、そうただ祈る。
そして熱田と交代で、以前、刃に踏み潰された白い髭を蓄えた優しげな会長が礼台に上がってきた。
『それでは次に──』
光は強く目を閉じる。ダメだ、まだダメ。
『会長の御挨拶です』
光の心境など無視して無情にも式は進む。光は胸に携帯を強く押し付けて願った。
「(お願い……あいつがくるまで……お願い!)」
『えー、皆さん……』
──ゴロゴロ……。
『……ん?』
何やら雲行きが怪しい。空は晴れなのに雷のような音がするのだ。
そして、稲光と共に音が近づいてくる。
『これは……』
──ピシャアアアアアアン!!!
瞬間、雷が会長の立っている台の上に落ちた。真っ黒な煙が上がる。生徒たちにはそこが爆発したようにしか見えなかった。
「な、なんだ!?」
「雷が落ちた!?」
反射的に閉じた目を開けて前に目をやると、
「……ッシャアアアア! 着いたぜぇぇぇぇ『J-アリーナ』ァァァッ!」
黒煙が晴れると、中に見えたのは銀髪の男。そして隣に、
『……………………えっ?』
その光景は激しくデジャブ。いつか見たメンツがそこに居た。
「アーーイ!」
「イッテェェッ……!」
どこからどう見ても、火野刃と火野藍だった。どうして彼らはこうトラブルに巻き込まれるのか。光達は頭を抱えた。
「ま、また君か!? 今度は許されんぞ!」
あっという間にその3人の辺りを何十人という黒服が取り囲む。
「……あれ? もしかして、俺今やばい?」
刃はここで自分の置かれた立場を理解。そして冷や汗だか何だかわからない汗をダラダラと流す。
まずい、このままでは大会どころではない。誤解を解かなければ……。
「いや、違うんです! 俺らはただ道案内をしてただけで──」
「確保ォーーッ!」
もちろん、警備員達にそんな言葉に耳は貸さない。その号令で黒服集団は波となって礼台に押し寄せる。
万事休すか、刃は藍を抱き寄せて瞼を閉じた。
「鎮まらんかぁッ!」
『!?』
しかし意外にも、それを諌めたのは刃に下敷きにされた会長だった。
会長はゆっくり立ち上がると、銀髪の男の前まで足を運び、
「……お待ちしておりました」
「!?」
片膝を着く。ここでは1番偉いはずの会長が、片膝を着いて頭を下げている。
「か、会長!? 一体何を──」
「無礼な素行をお許しください、迅雷の白虎様」
『!?』
その一言に会場全体が響く。
「(な、なんなんだ?)」
明らかに空気が変わった。その一言を聞いた辺りの警備員も会長に倣って膝を折る。
「よぅ、ジィジ。元気そうだな」
「白虎様も、お元気そうでなによりです」
「マイク借りるぞ」
「どうぞ、お使いください」
そういうと銀髪の男はマイクを掴んで、並んだ生徒諸君に向かい直った。
その声にほとんどの生徒が背筋を正す。さっきの一言が正しいなら、あの人……いや、あの方は。
「おめぇら、急に出てきて驚かせて、すまなかったな。俺様を許せ、命令だ!」
謝っているんだか何だかわからないこの一言で会場はなぜか沸き立つ。刃はこの異様な光景にただ座り込むことしかできなかった。
彼はそう言い放つと、マイクをスタンドに戻して銀色の台の上にいる刃と藍に向く。
「サンキュな、お前らのおかげでここまで来れた。礼を言ってやる」
「は、はぁ」
雰囲気で凄い人だということは理解出来たのだが、何がどう凄いのかはよく分からなかった。
「こっちに来い」
そう言って先を行く彼に思考を遮られ、半信半疑ながらも藍を抱えたまま着いていった。
とりあえず、お咎めはなさそうだと安堵しながら。
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そうして刃と藍は『J-アリーナ』の特別接客室と書かれた場所に通された。
「……っぷふぁあ! うめぇ!」
銀髪の彼の為に大量に運ばれてきた料理。その中にある酒を一瞬で飲み干して見せる。
「……腹、減ってたんですね」
「おうよ! 途中に色んな食べ物はあったんだが、人様の牛を食べるわけにもいかねぇからな」
そう言いながら右端に置いてあった骨付き肉にかぶりつく。普通は牛を食料と見なす人の方が珍しい気がする。
「っていうか……あなたは一体、何者なんですか?」
「あれ? 自己紹介してなかったっけか。あぁそういや、俺様はお前らの名前を知らないな。よし、名乗ることを許す!」




