ある秋の日 10
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その後、刃達は神童や矢田達と別れて幼なじみ4人と藍で帰り道を歩いているが、正直、刃の耳には何も入ってこない。
刃の頭は今や美瑛ちゃん一色。明日、明日本人に会える。
「(明日、明日だぞ……!? やべぇッ! 美容院、今の時間にやってるか!?)」
刃は自身のつんつん頭を気にして髪を触ってみる。少し伸びすぎだろうか。身だしなみ、少しは整えておこうか。
「……何してんのよ」
「ウォッ!?」
と、急に光に声をかけられて飛び退いてしまう。さすがに光達にバレる訳にはいかない。もしバレたら着いてきたいとか言い出しかねない。
「なっ、なんでもないって!」
「嘘、なんか妙に幸せそうに考えてる顔してたわね。律子がコソコソ言ってたことが原因かしら?」
「ぐっ……!」
何故、女とは皆、勘が鋭いのだろうか。刃はなんとか誤魔化せる方法を探す。
「なっ……なんでもないって。気にしなくて大丈夫だから」
「ふぅ~ん……まっ、いいか。それより、あんた明日はどうせ用事ないんでしょ?」
「……へ?」
「実は明日、私のお気に入りのブランドから新しくて可愛い服が発売されんのよ。それを買うから、あんたに荷物持ちしてもらいたいわけ!」
「なっ!?」
冗談じゃない。明日は一生に1度あるかないかの最大のチャンスの日。万難を排して向かわなければならない。
「い、いや、明日はちょっと用事がさ」
「用事?」
「あっ、あぁ! すっげぇ大事な用事かあるんだよ!」
「……ふぅーん。どんな?」
うっ、と刃は言葉を詰まらせる。美瑛の名前を出すわけにはいかない。かといって良い言い訳も思いつかない。
「そ……それは企業秘密で」
「企業もへったくれもないでしょうが。まさかとは思うけど、デート……とかじゃないわよねぇ?」
「ひ、光? 顔が怖いぞ?」
ジトッと睨む顔が怖い。
「……で? どうなのよ」
「ち、違うって! ちょっと友達と用がな」
「…………」
ジトーッと刃の顔を目を細めて睨みつけてくる光。バレてはならないと刃は咄嗟に目を反らす。
「ハァ~っ、まぁいっか。別にあんたじゃなくても頼める人はいるし」
諦める光に刃は小さくガッツポーズ。これで当面の障害は消えた。
「おい、刃」
と、刃はいきなり流斗に肩を抱かれ、光よりグイッと前に連れ出される。
「り、流斗!? どうした?」
「刃……お前に聞いておきたいことがある」
「せやな。あれに関してはワイも聞いときたいわ」
翔矢も、流斗とは逆の刃の肩を抱き、真剣な表情で。
「詳しいことはいい。ただ……あれは何発まで使える?」
「っ!」
耳元で小さく囁いたその言葉で、刃は2人の言いたいことを理解する。
それは間違いなく、予選で見せた紋字のこと。
「……1日、3発が限度だ」
「そうか」
そう答えると、三者の間にしばらく沈黙が流れる。
2人ともわかっているんだ。あの紋字がどれほど危険なものなのかということを。
「アーーイ!」
「「「!?」」」
と、後ろから刃に飛び付いてきた藍によってその空気が壊されると、流斗はフッと軽く笑って刃より前に歩み出た。
「期待してる」
「ワイも負けてられんわな!」
と言って、翔矢も前へ。
「…………」
いくらなんでもまだ2人には話せない。あれはまだ、第1段階なんだということを。
刃は藍の手を繋ぎ、ゆっくり引いてやる。
「アーーイ!」
藍は嬉しそうに、ただ笑顔で刃の手を握り返す。そう、あの力を使うのは『大事なものを守る為』だけにしようと小さく心に誓っている。
「……藍。今日は何が食べたい?」
「アーイ!」
こんな小さな幸せを守りたい。ただ、それだけの為に。




