プロローグ~それは、子供の夢物語~
ある世界、心が武器になる世界。人はその武器を『I'tem』と呼んだ。
いつからあったのかわからない、その強大な力。しかしそれは世界のだれもが当たり前に持っていて、何も特別でも何でもない、あって当然の力。
そんな世界で1人、その力を持てない少年がいた。
これはその少年の勇気と友情と成長、そして恋の、物語。
*
子供の頃、男なら誰もが一度は憧れる。ヒーロー、救世主、正義の味方、勇者、騎士。誰かを守れる存在になりたい。子供の頃に描くその夢は、もはや摂理と言ったって良い。
それはこの町、桜ヶ峰町の子供だって例外ではなく、強きを挫き弱きを守る。そんなヒーローに憧れた少年たちがいた。
「ほらお前、あの大門寺の子供なんだろ?」
「だったらバク転とかもできるよな? ほらやってみろよ」
「で、できないよぉ……!」
「女だからかぁ? なっさけねぇの! お前の家ってそういうの出来て当たり前なんだろ? 出来るように俺らも手伝ってやるよ!」
「や、やだぁ!」
「やめろ、お前ら!」
「……ゲッ!?」
いじめっ子の背後に3つの影。いじめっ子達はその影の正体を知っている。
「くそっ、逃げろぉ!」
戦うという選択肢すらなく、いじめっ子達は散り散りに逃げていった。
彼らは踞って泣く少女に歩み寄り、手を差し伸べる。
「……大丈夫? 光ちゃん」
「……うぅ!」
彼女の名を呼ぶと、よほど心細かったのだろう。光と呼ばれた彼女は手を差し伸べた少年に思わず抱きついてきた。
「怖かった……怖かったよぉ、刃君!」
「うん、もう大丈夫だよ。あいつらはいっちゃったから」
助けたヒーローは彼女の頭を撫でながらあやし、隣に立つ2人の少年は優しい笑みを湛えて2人を見守る。
「大丈夫だよ。君は僕らが、絶対守るから」
しかし、世界は残酷だ。このヒーローの物語は今の物語じゃない。昔々の物語。子供の頃の物語。
──もう10年も前の、彼らの物語。