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I'tem(アイテム)~最弱のヒーローの物語~  作者: 西野大河
第1章 I'tem~アイテム~
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1『甘い囁き』


──夢を見た。それは昔の、幼馴染みとの夢。




 今ではもう懐かしい。自分はもうヒーローではないけれど、ヒーローだった時間はしっかり覚えている。


 人を助けて感謝されることに喜びを覚えていたあの頃。

 その時を思い出して少し心地いい気分で、彼は机の上で自らの腕を枕にしてうつ伏せていた顔を逆側に向けた。


 そこから見えたものは春の陽光が斜めに傾き、美しく輝く外の木々。

 開いた窓からこの図書室を吹き抜ける優しい風。

 彼が突っ伏す木製の机の柔らかな匂い。その全てが彼の心を安らぎに誘った。


「……じーんくん、起きて」


 その上にどこからか聞こえる可愛らしい鈴の音のような女の子の声でモーニングコール。これは起きたくても天上の誘惑がそれを許してくれない。


「……全く、刃《じん》君ったら……。早く起きて。起きてくれないと、私……私、あなたに」


 さらにその声の主は艶っぽく彼の名を呼んで顔を寄せる。それはいっそキスでも出来そうなくらいに側まで寄っていき、彼の耳元で甘く小さく呟いてくる。




「……ジャーマンスープレックス、しちゃうぞ♪」


「殺気ッ!」




 すぐさま覚醒。飛び起きて緊急退避、声の主から急いで距離をとる。


「……全く、やっと起きたわね」


 安全が確認できる位置まで逃げてから振り向くと、その声の主は腕を組んで呆れ顔で彼を睨み付けていた。

 その彼女を、彼はよく知っている。


「……なんだ、やっぱり光かよ」


「なんだとは何よ。せっかく起こしてあげたってのに」


 起こすにしたってもうちょっと方法はなかったのかと突っ込みたいが、時間の無駄だとわかっていたのでやめておく。


「というか、ここ図書室なんだから少しは静かにしなさいよ。と言っても、もう私たち以外はいないけどね」


「いきなり体罰受けそうになって静かにしろって方が無理だろ」


 それもそうかも? と言って彼女──大門寺光《だいもんじ ひかり》は軽く笑って見せた。


 いったいいつからこんなやつになってしまったのかと彼──火野刃《かの じん》は思い見る。


 確かに光は昔はこんなではなかった。


 彼女はこの桜ヶ峰の由緒ある道場、大門寺家の長女であったが、気は小さく争いごとが苦手な性格であったはずだ。


 ところがいつかを境に、彼女はこのように負けん気の強い性格になった。理由こそ定かではないが、それが刃にとって望ましかったかと問われれば難しいところである。


「それはそうと、あんたいつまで私たちを待たせる気よ。翔矢も流斗ももう校門で待ってるのよ」


「ゲッ、マジで!?」


 思わず時間を確認すると、下校時刻はもうすぐに迫っていた。どうやらうたた寝をしている間に随分と時間が経ってしまっていたらしい。


「まぁ、アンタが『今日は1人で図書室に籠もって勉強する』って言った辺りからこうなることは予想してたから、見に来て正解だったわね。もし待ってて来なかったら本当に私の投げ技フルコースお見舞いするとこだったわ」


 本当にそうなってたらと思うと刃の背筋が凍る。そうなれば間違いなく、明日はない。


「わ、悪い! 今準備する!」


「謝るなら、向こうの2人にしなさい。きっと今頃大変なことになってるだろうし」


 ため息交じりにそう言った光の言葉に、思わず刃も顔を曇らせたのだった。



           *



「……ほーら言ったことか」


 刃と光が校門前までたどり着くと、光の想像通りの事態になっていた。

 校門前には随分な人だかり。その全てはこの学校の女生徒で、目当ては輪っかの中心にいる2人だ。


「悪いな、ワイら友達を待ってるだけなんや」


「すまないが、ここに屯《たむろ》しては他の人の迷惑になる。だからまた明日にしてくれないか」


 中からそんな声が聞こえて、目的の人物が中にいることを刃と光は確信。

 少し校門前で待機した、もっと言えば約束の時間に刃達が遅れただけですごいことになっている。


「……はーい、ごめんなさいね。その待ち合わせの相手、私たちだから。ちょっと通してくれる?」


 そんな中、光はその人並みに突入。刃もその後に続く。


「おぉ刃、光! やっと来おったか!」


 人混みの中に入ってすぐに見えたのは、人混みの中でも一際目立っている金髪で上背のある青年と、綺麗な蒼の瞳を持つ青年。

 2人もこちらに気づいたらしく、刃と光に手を振ってくる。

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