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私の中の『アイツ』  作者: kenT
3/3

第二話 =きっと寂しいんだろう=

 私の通う「私立大峰高校」から、自転車をこぐこと約20分。私はたった今、ほぼ(・・)一人暮らしをしている一軒家にたどり着いた。

 物心つく前に、交通事故で他界した両親が残してくれた唯一の形見だ。正直、一人の私にこの家は広く感じる事はある。だが、不思議と寂しさや冷たさは感じたことが無い。両親のぬくもりが、私にそんな感情を起こさないようにしてくれているのかもしれない。

 っと。なんか辛気臭くなっちゃったな。 


「うーん、やっぱり裏道使わなかったらこれだけ差が出るか……」


 前に一度裏道を使ったら、15分で着いたもんなぁ……。でもあの道怖いんだよねー、夜通るの。すぐ横に森だし、街頭なんて一つもないし。うん、やっぱ午前授業だった日のみだね、あの道使うのは。

 今後の登下校問題にふけりながら、私は鍵を開け、扉を開けた。


「ただいまぁー」

「おー、おかえりー」


 何となく、義務的に挨拶をしてみたら、まさかの返答が返ってきた。

 さっきも言ったけど、私は一人暮らしだ。返答など期待してはいなかった。そして、この妙に聞きなじみのある、間の抜けた返事……間違いない。

 ため息が出るのを我慢することなく、私は玄関の前にある扉を開け、リビングへと突入。するとそこには、案の定、想定した人物がいた。ソファに浅く腰掛け、チャンネルを右手に握り、ボケーっとテレビを見つめるその様は、「だらだら」という言葉が擬人化して私の目の前に現れたようだ。


「……また来たんけ、お兄ちゃん」


 その人物こそ、今となっては私の唯一の肉親である兄、糸式龍太いとしき・りゅうただった。

 お兄ちゃんは首を少しだけ動かして私を見る。その眼は相変わらず、何にも考えてないような気だるい目だ。


「心外やな、その言い方は。俺の家でもあるんやさけ、問題ないわいね」

「ほうやなくて、お兄ちゃんもう婿入りしたやんけ。奥さんにご飯作ってもらえばいいやん。わざわざご飯だけ食べにくるんも、無駄な体力やと思うげんけど」

「お前も知っとんやろ、アイツの壊滅的料理スキルは」

「分かってて言っとんよ。愛で食べ、愛で」

「愛は命の代わりにはならんわいね」


 妙に現実的だな、この人は。神主やってるなら、もう少し精神論言ってもいい気がするんだけど。

 そんな事を言いながらも、結局私はキッチンへと足を運び、二人分の料理を作り始める。なんだかんだ、お兄ちゃんに甘いんだよなぁ、私……。


「沙奈、今日の飯何なん?」

「今日はシチューの予定やけど」

「おーちょうどシチュー食べたかったんよ。お前、わかっとるじ?」


 都合のいいことばっかり言うんだから、この人はもう……。

 家に帰ってきて何度目かのため息の後、私はシチュー制作へ取り掛かるのだった。








「「いただきます」」


 打ち合わせなどなくはもった言葉の後、それぞれ夕食に手を付ける。

 ――――――うん、おいしい。我ながらなかなか腕を上げたものだ。お兄ちゃんを見れば、黙々とシチューを口に運んでいるあたり、味に問題はなかったのだろう。

 しばらく、テレビから流れてくるバラエティ番組をBGMにご飯を食べていると、


「最近どうなん? 学校は」


 突然、お兄ちゃんがそんな事を聞いてきた。


「別に、何も変わらんけど」

「ほうか。真紀子ちゃんとも仲良うやっとるか?」

「うん。今日も一緒に帰ったし」

「友達は大事にせぇよ? 俺の高校時代までの友人、みーんな県外出てまったし。県内におるやつも、たいていは金沢やしな」


 淡々と言ってのけるお兄ちゃんだったけど、私はそれが何となく寂しがってる様に聞こえた。

 お兄ちゃんは何だかんだと言うけれど、この加針町かばりちょうが大好きなのだ。そして、人と人とのえにしを何よりも大切にしている。だからきっと寂しいのだろう。こうやって私のところにご飯を食べに来るのも、もしかしたら私との縁が断ち切られてしまうのが怖いのかもしれない…………うぬぼれかもしれないけど。


「私の友達も、卒業したら大阪やら東京やら行きたい言うてるしなぁ……そんなに都会がいいんかな?」 

「信号は町に一つだけ、コンビニは気分営業で遅くても7時にしまる、バスは一日二本、最寄りの駅まで車で20分かかるこの町よりはええんやろうな」


 前言撤回。やっぱりこの人、この町あんまり好きじゃないかも。


「まぁそうかも知らんけど……私はこの町が好きやけどなぁ。都会って人多くて酔いそうやし。道も複雑で迷いそうやし……」

「自然とそういう発言が出るところを見ると、お前も生粋の田舎っ子やな」


 そりゃあ17年もこの町に住んでれば、そうもなるっての。

 なんて、そんな苦言は飲み込んで胃の中に放り込んだ。直に胃液が溶かしてくれるだろう。そんなくだらない話をしていれば、ぶるる、というブザー音が、さほど広くないリビングに鳴り響いた。


「ん? あぁ、私だ」


 誰からだろう。

 素朴でありきたりな疑問を乗せ、私の指はスマフォをいじっていく。

 LINEだった。相手は――――――――真紀子か。


「真紀子ちゃんか?」


 エスパーかアンタは。

 

「そうやけど、何で分かったん?」

「お前が連絡もらう相手なんて、真紀子ちゃんくらいやん」


 失礼だなこのナマケモノは……。


「えーっと……あぁ、『明日、市内で遊ばんか』やって」

「ふぅん、まぁお前ら学生は休日やしな。羽伸ばしてき」


 確かに。休日謳歌は学生の特権だし、学校という監獄の教師というモンスターから逃れられる釈放期間だしね。え? 大げさだって? 17歳の遊び盛りの女子高生の思考なんてそんなもんよ……。


「言われんでも、そうするわいね。

 なになに? 待ち合わせは11時に平和堂へいわどうか……ねぇ、お兄ちゃん」

「車は出さんぞ」

「………………ケチ」


 それ位いいじゃん。少しの外出なら、神主さんも許してもらえる筈だし。


「だらけ。平和堂ならチャリで40分くらいやろ? それ位こげ、若いんやから。

 それにお前も知っとんやろ? 明日の夜のあの祭(・・・)

「あぁー……そういや、もうそんな時期け」


 あの祭。

 年に一回、加針神社の神様に捧げる儀式がある。それを一般公開して興味のある町民が見る。

 ほんの少しだけど、神社の麓に出店も出るんだよね、確か。


「まぁ普段なら送ってやったかも知らんげんけど、明日は一日中その儀式の準備があるさけな」

「そっかー……てか、どんな儀式やったっけ?」


 私も何度か見たことあるけど、巫女さんと神主さんがお社の前でなんかやってたって記憶しかないんだよなぁ……。


「まず神様の前に日本酒と米を捧げて、次に巫女が舞を献上。そんでその後、神主の俺が、神様の目の前で神様の好きなものを清めて献上する。それで神様のお許しを頂けたら、後は祝詞を読んで、それでお終い。そんだけや」

「神様の好きなものか、それって何なん?」

「さぁ? 毎年変わるさけわからん。一回でお許しを頂けんかったら、何回でも清めの儀式やって献上せんなんし」


 なんじゃそりゃ? 

 それってつまり……


「要はお兄ちゃんの気分次第って事?」

「ちご。ちゃんと神様に聞いて、許しをもろとるよ。毎年毎年」


 いや一緒じゃん…………神様の声を聴くって事でしょ?

 神主さんならではの精神論なんだろうけど、一般人の私から見ればそう思わざるをえないし。


「じゃあ巫女さん役は奥さん?」

「お前なぁ……」

 

 何故か盛大にため息をつかれた。心外だな……。


「お前も知っとるやろ? アイツは今、神様と家族以外には姿を見せちゃダメなんよ」


 あー何かそんな事言ってたっけ。

 確か……。


「『有明の巫女』やっけ?」


 そう、有明の巫女。

 前に一度お兄ちゃんから聞いた気がする。意味までは忘れたけど。


「ほー、覚えとったんか。じゃあ意味は分かるか?」


 だから今忘れたと……まぁモノローグだし仕方ないけど……。


「有明の月って言うのは、夜が明けても空に残っている月の事を指すやろ? 

 つまり、人間の世界を『夜』として、神様のいる聖域を『朝』としてるわけや。普通は人間は人間の世界で生きてる。やけんど、『有明の巫女』は人間の世界から隔離された状態で、ただただ神様とその従者……つまり俺ら神主の家やな。そこでのみ生きる事を義務づけられとる。期間は三年やな。

 つまりその三年という期間が『夜明け』なんや。その三年間のみ、神様のいる『朝』の世界で姿を見せているから、『有明の巫女』。分かったか?」


 長い。堅苦しい。結論、わからない。


「ま、わからんでも別に問題はないげんけどな」


 私には難しいな、うん。


「そんなわけで、巫女役はアイツやなくてアイツの妹や」

「あーね」

 

 まぁ、一般公開される儀式に有明の巫女は出せないよねぇ……。


「ふーん、そっか。でもまぁ出店も出るし、夜真紀子と見に行こかな」

「構わんけど、真紀子ちゃんの家は町から離れとるし、ちゃんと親御さんに聞いてもらっときよ?」

「分かっとるよ」


 言い終わると、ガチャンとスプーンの音がする。話しながら食べている間に、食べ終わっていたみたいだ。

 それはお兄ちゃんも同じのようで、たった今最後の一口を掬って口の中に放り込んでいた。


「ごちそうさま。ほら、それ洗っとくし渡して」

「おーすまんな」


 思ってもないくせに……。

 その言葉も、とりあえず胃の中にぶちこんどいた。


「じゃあ、俺はもう戻るわ。また朝飯食いに来るさけな」

「はいはい。リクエストは?」

「特になし」


 そういうと、どっこいしょの掛け声と共に立ち上がる。

 まだ二十歳なんだから、その掛け声はどうかと思うけど……。


「ほんなら、邪魔したな」

「うん、また明日」


 簡単な挨拶を済ませて、お兄ちゃんは家を出た。

 誰かが家を出入りしたときになる軽快な音楽が、一人になった家にやけに響いた。

 それからは寂しいものだ。何も言わずに洗い物をして、何も言わずに乾燥機にかけて、何も言わずにお風呂をためて、そして今は、たいして面白くもないバラエティ番組をじっと眺めている。

 さっきまでの騒がしさは何だったんだろう。閑古鳥が鳴くっていうのは、こういう事なんだろうなぁ……いや、別に私の家は店でもなんでもないんだけど。

 しばらくすれば、外で静かに雨が降り出したのが聞こえる。その数分後には、お風呂がたまったのを知らせる音楽がなった。


「…………お風呂はいろ」


 そういって立ち上がると、なぜかさっきお兄ちゃんに対して思った事がよみがえる。


 ――――――きっと、お兄ちゃんは寂しいんだろう。


 なに言ってるんだか。

 寂しいのは、私じゃないか。

 お兄ちゃんとの関係が切れるのを怖がってるのは、私じゃないか。

 誰かが、私の中で嘲笑ってる様な感覚を受けながら、私は浴室へと向かった。














 ピピピ……。

 携帯から、朝を知らせるアラーム音が響いたのが聞こえた。

 置きたくない……あぁ、でも起きないと。このまま二度寝したら、真紀子を待たせてしまうかもしれない。

 

「ん……」

 

 気だるい体に何とか鞭を打ち、上体を起こす。

 いまだなり続けるスマフォを手に取り、アラームを消した。

 時刻は現在、朝の6時……早くね(・・・)

 あぁ、確か――――――


 

兄貴の飯作る(・・・・・・)んだっけ(・・・・)…………」

 


 誰に言うでもなく立ち上がり、は姿見の前に立った。相変わらず色気のねぇ体…………。


「ったく、この年ならもう少し胸あってもいいんじゃね? 

 でもまぁ、ぎりぎりCカップはあるやろうさけ及第点か」


 鏡の中の俺を見て、つぶやいた。

 今日もしっかりとついた寝癖、このプロポーションの中で唯一といっていいであろう美点の白い肌。

 そして―――――――沙奈・・の時とは違う、攻撃的な瞳。

 その姿を見て、俺は不敵に微笑んで見せた。


「悪いな『沙奈』……今日の真紀子とのデートは、どうやら俺の時間みたいだ」


 恨むなら、この時を過ごす権利を俺に与えた、神様の気まぐれを恨むんだな。

 さて、まぁそれは置いといて、兄貴と俺の分の朝食作らねぇとな。リクエストは無いって言ってたみたいだし……まぁ、ベーコン焼きの上に卵焼きでも乗ってれば問題ないか。

 そんな事を考えながら、俺はリビングへと向かった。

だらけ…………だらと同意。だらを単品で使うときは「け」を使う事が多い。

      あと、「あほか?」みたいな疑問形で聞く時も「だらけ?」になる。


ちご……………違うの意味。

     (例)ちごーわい→違うわ。違うよ。


~じ……………~やぜ ~だな みたいな意味。

     (例)わかっとるじ? → 分かってるな?



余談ですが、石川県では「そ」を「ほ」に変換することが多いです。

作中でも「ほうか」とか「ほんなら」とか出てますが、これは「そうか」「それなら」と同意語になります。

 そして、ようやく『裏の沙奈』を出せました。『表の沙奈』との違いを明確にわかりやすくかけるよう頑張りますので、よろしくお願いします。

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