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私の中の『アイツ』  作者: kenT
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~プロローグ~

 作中に私の故郷である石川県の方言が多々出てきます。後書きなどで意味を記していくつもりですが、漏れなどがあったらご一報ください。その都度お答えいたします。


 鏡の中の自分を見たとき、本当にこの身体は私の身体なんだろうか、と思う。

 いつからそうなったのかは覚えていない。ただ、気が付けば当たり前の様に、習慣の様に、世界の法則の一つの様に、無意識にそう思ってしまう。

 首元辺りまで伸びた黒髪も、親譲りの少し赤を帯びた瞳も、肌も、胸も、『糸式沙奈《いとしき

・さな》』と言う名前だって――――――。

 その全てが、本当は私じゃない別の誰かのもので、私はただこの身体を間借りしているだけなんじゃないか。

 前に一度、この話を小学校以来の親友にしたことがある。あの時の彼女の眼は、おそらく忘れないだろう。ていうか、間髪入れずに「アンタ前からダラやなーとは思っとったけど、遂にそんな所まで来たんけ?」は流石に傷つくなぁ……。

 まぁ、私も友達がいきなりそんな事を言ってのければ、確かにそんな反応をしてしまいそうだから、反論は出来なかったんだけど。

 でも私にとっては、そう思う事が既に日常化している。

 本当の私は、一体どこで何をしているんだろう。

 本当の私は、どんな人だったんだろう。

 本当の私は―――――――――『ワタシ』をどう思っているんだろう。

 馬鹿げた思考回路だと思われるかも……というか思われてるんだけど……でも事実そう思ってるんだから仕方ない。

 私が操れない思考。考えない様にした事もある。でも無駄だった。止めようと思っても、脳が言う事を聞かない。止まらない。湯水のように溢れ出てくる。無限に。

 そんな私を見かねてか、くだんの親友が大阪へ遊びに来ないかと誘ってくれたために、現在私は大阪駅にいる。

 親友は現在、大阪の大学へ通っているため、新大阪駅東口の有料駐車場で待ち合わせる事になっている。

 ちなみに、私は生まれてこの方故郷である石川県を出た事が無かった。遊びに行くときだって遠出しても金沢くらいだったし、新幹線に乗る機会なんて無かった。


 つまり何が言いたいかと言うと、私は現在、絶賛迷子中なのである。


「なんなん? 大阪って……。駅広すぎん? 金沢駅の何倍あるん? こんなん迷うに決まっとるがいね……」

 

 かれこれ10分ほど案内板と睨めっこしていた私だったが、思わずそんな言葉が口をついて出る。何人かの人が一瞬こちらに意識をむけたのが分かる。中にはくすっと吹き出した人もいたみたいだ。方言丸出しの20歳彼氏無しお金無し恋愛経験無し女がそんなにおかしいか……。

 なんて、口には出せない愚痴を心の中で泣き叫ぶ。

 

「はぁ……こんな時に『アイツ』がおったらなぁ……」


 そう呟いて、ふと思う。

 アイツ?

 アイツって……誰だっけ?

 大阪の親友? 家族? 親族? 友達? それとも高校時代の恩師? …………いや、どれも違う。

 そもそも私は、他人に対して『アイツ』なんて言葉は使わない。これは自信をもって言える事だ。大抵は名前で呼ぶし、名前以外で呼ぶにしても『あの子』とか『あの人』とかであって、『アイツ』なんて乱暴な言葉は使ってこなかった。

 しかし、だ。今私は確かに『アイツ』と言った。無意識的に。必然的に。常識的に。

 間違いない。私の中には『アイツ』がいる。記憶は無いけど、確信を持てる。でも、『アイツ』が誰なのか、男なのか女なのか、年上なのか年下なのか同い年なのか。それは一切分からない。

 

「『アイツ』って……誰なん?」


 答えなどある筈も無い質問を、私は声にせずにはいられなかった。









 


 久々の地元の風景だったが、驚くほど変わっていない。

 山と森と林に囲まれた田んぼの風景も、町にたった一つしかない信号も、一日に二本分しか記載されていないバスの時刻表もそのままだ。変わったことと言えば、朝10時から夜7時までしか営業してなかった名ばかりのコンビニがつぶれていた事くらいだろうか。元々気分営業だったし、いつかはこうなるとは思っていたけど……。


「遂に時が来たって感じやなぁ……まぁ、俺には関係あらへんげんけど」


 率直な意見を口に出してみれば、思わず自分で笑ってしまった。

 大学の友人からも「おまえの方言、なんか変やな」とか「独自言語やな」とか言われたい放題だけど、これじゃあ否定できない。方言が混ざる事ほど難解で奇抜な言葉は無いな、うん。

 閑話休題。

 なんだかんだ言っても、俺はこの町が大好きだ。生活は不便だし、旧友は皆東京やら大阪やら、近場では金沢やら福井やらに出て行ってしまったし、その癖嫁に来るような変わり者はいないし、過疎化は進んで高齢化社会万歳状態やし…………欠点上げればきりがない。

 それでも、俺はこの町が好きだ。大好きだ。俺ほど地元愛に溢れた人間は、この町にはいないんじゃないかって思うくらいに。

 俺の身体を撫でる風はとても優しいし、木の葉のすれる音も心地いい。大阪の喧騒にもだいぶ慣れて来たものだが、やっぱり俺にはこっちがあってるんだろうな――――――――『アイツ』もいるし。


「『アイツ』も、元気にやっとるんやろか……」


 そう、『アイツ』。

 忘れた事は無い。忘れる筈がない。当時の俺にとっての全てだった『アイツ』。

 『アイツ』も、まだこの町で暮らしている筈だ。共通の知り合いにもさっき会ったが、『アイツ』が加針町かばりちょうを出たなんて話は聞いていない。狭い町だ。誰かが町を出れば、すぐにその話は広まる。

 『アイツ』に会いたい。『アイツ』の笑顔が見たい。『アイツ』の世界の一部になりたい。

 色々と遠回りをして来たけど、その想いは未だに俺の中に強く残っている。

 『アイツ』と俺は一心同体だった。俺は『アイツ』だった。『アイツ』は…………『アイツ』のままだったけど。

 きっと『アイツ』は、俺の事など知らないだろう。『アイツ』は俺に会った事も無いのだ。


 …………いや、違うか。

 俺はそもそも、この世界に存在するはずが無かったんだ。


 だから『アイツ』が俺を知らないのは摂理だ。俺は『アイツ』だった。『アイツ』の中でしか存在しえなかったのだ。さっき話した共通の知人も、本来は俺を知る筈が無かった。知らなくて良い事(・・・・・・・・)だった。

 それなのに、今こうして肉体があるのは、本当に奇跡としか言いようがない。


「気まぐれなもんやよな、神様も………それでいて変なところで面倒くさがりやし」


 今俺が立っているバス停の前にそびえる、小高い丘の上を見つめながら、俺は言う。

 そう、これはきっと神様の気まぐれ。

 『アイツ』の中にいた俺が今、こうして一人の人間となっているのも。

 『アイツ』の世界から俺がいなくなってしまったのも。

 それでも―――――――俺は『アイツ』に会いたいと願っているのも。


 全部全部、あの時から始まった、神様の気まぐれでしか無いんだろう――――――。


石川県の方言。


だら……「あほ」「ばか」の様な意味。

   (例)あんたホントにだらやなー


~け……語尾の一つ。「~なんだっけ?」「~なの?」と同じような意味。

   (例)こんな所まで来たんけ?→こんな所まで来たの?     

   (例)次体育け?→次体育だっけ?

 

がいね……語尾の一つ。「~じゃん」と同じような意味。

    (例)決まっとるがいね→決まってるじゃん


げんけど……語尾の一つ。「なんだけど」と同じような意味。「げん」だけで使う事が多い。その場合は

     「~なんだよね」みたいな意味。    

     (例)アイツまじ強ぇげん→アイツマジで強いんだよね。

     (例)関係ないげんけど→関係ないんだけど。



ちなみに石川県には「ツエーゲン金沢」と言うサッカーチームがありますが、このツエーゲンは上の「強ぇげん」が由来です。

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