第七話 ケロちゃん追跡、ですわ
「ねえ六花ちゃん。今日はどうしたの?」
昼休みにぴあのさんが私に尋ねてきた。
「どうしたの……って、何か変だったかしら」
私は聞き返す。ちなみに馬淵君はいつもお昼ご飯を屋上で食べるらしくって、ピアノさんは空いている彼の席、つまり私の隣に座っているわ。
それにしても、ぴあのさんの馴れ馴れしさでちょっと忘れそうになるけれど、私たちは出会って二日目なのよ? 変も何もあったものじゃないと思うけれど。
「変だよっ。授業中だって上の空だったし、なんでか枇々木先生に二回も当てられるし——」
授業中上の空だったのはケロちゃんのことが気になっていたからだし、枇々木先生に当てられたのはたぶん廊下を走った一件があったからね。
「——それに何そのジュース!」
ぴあのさんは私の机に置かれたゴーヤチャンプルージュースの缶を見る。
「あー、朝すごく喉が渇いてて、あまりに急いでたから見ないで買っちゃったのよ……正直とてもまずいわ」
「よかったー! 昨日のシフォンケーキみたいに『なかなか飲めないから』とか言い出したらどうしようかと思った! 珍しければなんでもいい子なのかなって一瞬思っちゃった」
いったい私は何だと思われていたのかしら。
「でも、なんでそんなに急いでたの?」
ぴあのさんは聞いてきたけど、まさかケロちゃんにお金を盗られたかも、なんて言えない。前世の話とはいえ、親友だもの。やっぱり自分で確かめなくちゃ。
「ところで、みんなの誕生日っていつなのかしら」
私は話をそらすために、もう一つの気になっていたことについて尋ねた。枇々木先生が勇者ツルギの生まれ変わりなのかどうか。もしかしたらケロちゃんとタカヒロ君と馬淵君が同じ学年なことのほうがただの偶然なのかもしれないじゃない?
「え? どうしたの急に?」
ぴあのさんはちょっと訝しんだけれど、前世のあれこれなんてわかるはずもない。
「えっと、トシ君は八月十九日生まれだよー。タカヒロ君は五月一日、ケロちゃんは十月十二日だったかなぁ」
すらすらと教えてくれるぴあのさん。自分で訊いておいてアレだけれども、よく覚えてるわね……。順番に並べるとタカヒロ君、馬淵君、ケロちゃん。前世で死んだ順もメルキセデク、デュラハン、ケルベロスだったから、やっぱり生まれてくる順番は前後しないのかしら……?
「ところで六花ちゃんは?」
「え?」
「六花ちゃんの誕生日だよー。何月何日?」
ああ、そうね。この話の流れだったら言わないとね。
「十二月の四日よ」
「ふーん、クリスマスの季節だね」
同じ月とはいえ、二十日も前って『季節』で括っていいのか微妙なラインじゃなくて? きっと雰囲気だけで言ってるわね。
「私が生まれた日は、雪が降ってたの」
「ああ、そう言えば六花ちゃんの名前って雪の結晶って意味なんだっけ。タカヒロ君が言ってたよね。——雪の日に生まれた雪色の髪の女の子かぁ。なんだかおとぎ話みたいで素敵」
あんまり意識したことなかったけど、素敵かしら? おとぎ話みたいって言われても、前世で実際に剣と魔法のファンタジーにいた身としてはいまいち実感がわかないわ。
「そういうぴあのさんの誕生日はいつなの?」
私は尋ねた。他のみんなと違って身に覚えはないけれども、ぴあのさんもやっぱり前世はアルメギドにいたのかしら。
「三月の二十四日だよ。クラスで一番末っ子なんだ」
ふーん。小学生ぐらいだとやっぱり三月生まれは他より背が低かったりするものだけれど、高校生になっちゃうと全然わからないわね。
いずれにせよ、私より後に生まれたってことは、前世でアルメギドにいたとしても、死んだのはルシファーより後。どこの誰だか見当もつかないわ。
「三月の末ってことは、桜の季節ね。私は桜もロマンチックだと思うわよ」
「本当⁉ ありがと!」
あまり言われたことがないのか、ぴあのさんはとてもうれしそう。喜んでくれたのはよかったけど、結局枇々木先生の正体については何もわからなかったわ。あーあ、どんどん気になることが増えてイヤになっちゃう。
「——と、いうわけで」
前世のことはこれ以上はどう調べていいのかわからないし、とりあえず解決できるところから。ってことで、私は放課後、ケロちゃんを尾行することにしたんだけど……やっぱりなかなかうまくいかない!
銀髪ってすごく目立つから、他の人に紛れて尾行するなんて無理。だから、どうしても距離を取って隠れながら尾行するしかない。
それでも、学校を出てしばらくは、例の緩くカーブして見通しの悪い一本道だから比較的楽だったわ。そのせいで亡くなったと思われる交通事故の幽霊さんには悪いけれども、今回ばかりは見通しの悪さに感謝よ。
なんて思ってたけど、いざカーブが終わって見通しが良くなると、見つからないようについていくのは本当に大変で……ちょうど『エリーゼ』の前のあたりで見失ってしまった。
「おかしいわね、さっきまで見えてたんだけど……」
目の前に続く道は、海沿いの一本道だ。崖の横と違って、横が港で整備されているから、一直線に続いている。ケロちゃんがまっすぐ進んだんだったら当然見失いようがない。だから、どこかの角で曲がったってことまではわかるんだけど——その角がどの角かわからないのが問題なのよね。
「はぁ、もう。どうすればいいのよ」
私は頭を抱えた。
その時。路地裏から足音が聞こえたのよ。
「ケロちゃん……?」
まさか私がつけてるコトに気づいて路地裏に隠れたの? 私は足音を追いかけて、路地裏に足を踏み入れた。




