第六十四話 魔法VS魔法で大ピンチ! ですわ
タカヒロ君がインターホンを押すと、インターホン越しの応答より前にドアが開いた。
ドアの隙間から覗く小林君の顔。
よし、チャンス! 私はポケットから杖を取り出して構える。
「クエ――」
「クエイク!」
私が呪文を唱える前に、別の呪文が聞こえて、足元が震える。
「きゃ!?」
バランスを崩して後ろの柵に手をつくと、その拍子に杖を取りおとしてしまう。
「しまった!」
「エアロ!」
突風に突き飛ばされ、私は背後の柵に叩きつけられた。魔法の杖は飛ばされて、柵の反対側に落ちていく。
「な、なんで……!?」
私が考えていた作戦と、まったく同じ。頭のいい小林君なら思いついて当然でしょうけど、なんで私より先手を取れるのよ!
「エレベーターの防犯カメラだよ」
小林君が不気味に笑う。
確かにオーナーの家なら防犯カメラの映像を盗み見るなんて簡単。
魔法にばっかり警戒していたけれど、魔法と現代技術の合わせ技なんで、そんなのアリ!?
「揃いも揃って俺の復讐の邪魔をして……! そっちがその気ならこっちだって目にモノを見せてやる!」
「復讐って、どういうこと――」
問いただそうとした私の体がふわりと浮き上がる。
風魔法がまっすぐの向かい風じゃなくて、下から吹き上げるように変わる。
ちょっと、スカートがめくれちゃうじゃない!
なんて思っている場合じゃなくて、風の勢いはどんどん強まって、ついに私の体が浮きあがった。
ええっ!? 待って、私の後ろって……!
気付いた時にはもう遅い。
私の体は柵を乗り越え、マンションの外に投げ出された。
うちほど高くはないといえど、ここはマンションの最上階。
自分が青ざめるのがわかる。
――冗談じゃなくて、私は、死ぬ。
一度転生したことはあるとはいえ、次も転生できる保証なんてないし、何よりこんなわけのわからない状況で死ぬのなんてイヤ!
でも、魔法の杖もないこの状況で私にできることなんてないじゃない……!
私は思わず目をぎゅっとつぶる。
「伊妻っ」
恐怖に震える心に、誰かの声が聞こえた気がした。
私がよく知っている、それでも今ここにいるはずのない人の声。
走馬燈というものかしら? 魔王ルシファーとして死んだときはそんなもの見なかったけれど。
どさっ、と、私は地面に落ちた。
「……?」
その『地面』が、思っていたよりずっと柔らかかったものだから、私は恐る恐る目を開けた。
「大丈夫か?」
「――枇々木先生!?」
私は地面に落ちる直前、枇々木先生にしっかりと受け止められていたの!
久しぶりのヒーロー登場です!
※ただしヒーローは草食系三十路教師。