第六十二話 犯人は小林君? ですわ
「ちょっと国木田君、それって本当なの?」
私は国木田君に尋ねる。
「ええ、中間試験期間中に、渡り廊下と部室棟の角でぶつかった時に、小林先輩のポケットからその球が転がり出たんですよ」
ケロちゃんとぶつかって財布の中身が飛び出したあの角ね……。私たちのほかにも事故が多いみたい。
「でも、そんなのよく覚えてたわね」
「俺が代わりに拾おうとしたら、すごい剣幕で睨まれたんで……」
「うっ、それは怖そう」
根暗が本気で睨んでくると、なんかぞわっとするわよね。
「怖かったというより、なんとなく、その。織牙さんの一件の時の自分を思いだしたんで、それで覚えてたんです」
「お兄ちゃんの件の時の……? それって」
ぴあのさんが理解して青ざめる。
つまり、例の『魔法のお香』が小林君にも絡んできたってことは、ほぼ確定ね。
「んだよ! そいつ、何が目的か知らねえが俺のクラスばっかり狙いやがって……!」
馬淵君がいきり立つ。
「おい、ケロはまだ中にいるのか」
と、馬淵君が言ったところで、ケロちゃんがようやっと弁当屋から出てきた。
一時停止しながらスタッフロールまで見てました、って顔に書いてあるわ。ぶれないわね、ケロちゃん。
「はいはい? なんでしょうか」
「ケロ、高尾に嫌がらせしてる犯人は小林だ。これから殴り込みだ」
「殴り、はさすがにまずいよ、あくまで穏便に」
タカヒロ君当人が馬淵君を抑えるけれど、実際のところ、『魔法のお香』が効いてる最中の相手にそんな穏便な手段が通用するか……国木田君の表情を見るに、望み薄だけれど。
まあ、実際に喧嘩になった場合、馬淵君自信一人で何とかするのは心許ないから、もう一人戦力になるケロちゃんに声をかけたんでしょうしね。
『魔法のお香』が絡んでいる以上、放っておいたらタカヒロ君へのいたずらが今後どうエスカレートするかわかったものじゃないもの。
「向こうには魔法があるけれど、そこに関しては私が何とか対策するわ。ただの喧嘩なら、馬淵君とケロちゃんだけでなんとかなるかしら?」
小林君はとても運動神経がよさそうには見えないけれど、太ってる人って重さだけでエネルギーが強いから、ナメてかかると危ないのよね。
前世では一応それなりには武道もたしなんだ身ですもの、よく知っているわ。
「うーん、小林がいくらウェイトあるとは言っても、素人相手に二人がかりならなんとかなるだろ」
「はい、私も太っているだけの相手に後れを取るつもりはありません」
馬淵君とケロちゃんが口々に言うけれど、なんだか小林君がデブ扱いでかわいそうになってくるわね!?
「うっしゃ、決まりだ。行くぞ!」
馬淵君がこぶしを突き上げる。その上の曇り空を見て、ふと嫌な予感がしたけれど――梅雨だから曇っているのは仕方ないわよね。
そろそろ枇々木先生も活躍させてあげたいなー←
メインヒーロー空気でごめんなさい。