第五十七話 枇々木先生と国木田君、ですわ
「ガードレール幽霊? 何の話ですか?」
「ううん、何でもないのよ。気にしないで」
国木田君が首をかしげるけれど、事情を知らない人には広めないって棗先生と約束したものね。
国木田君はちょっと残念そうな顔をしたけれど、仕方ないと割り切ったのか、枇々木先生の注文を聞き始めた。
「枇々木先生、今日はどのお弁当にしますか? 今なら期間限定の伊勢海老弁当がオススメで」
「いや、いつも通り唐揚げ弁当をもらおう」
「先生は本当に唐揚げ弁当が好きですね」
国木田君が苦笑して、ビニール袋に唐揚げ弁当を一つ詰める。
「あ、こちらバイトの兄ちゃんが練習で作ったものなんで、半額です。――もし半生だったらレンチンしてくださいね」
「少し怖いことを言うな」
「大丈夫ですよ、うちの鶏肉は生食OKのやつ使ってますから、食中毒とかは」
なんだか、枇々木先生と国木田君、高校の教師と生徒じゃなくて、すっかり常連さんと弁当屋の息子の顔。
私の知らない枇々木先生――。
って! なんで私は枇々木先生にばっかり注目してるのよ!? 国木田君は!?
そうよ、国木田君は前に別の一面見たことがあるから! ヤンデレ国木田君! だから今更お弁当屋さんの国木田君ぐらいで驚かなかっただけよ。
――あら、私ったら、誰に言い訳してるのかしら?
「はい、毎度ありがとうございます」
国木田君のお礼とレジの音で我に返ると、枇々木先生はレシートを受け取って帰ろうとしているところだった。
「また来る」
と、言って先生が出た自動ドアが再び閉まると、国木田君が私たちに話しかけてきた。
「枇々木先生って、じいちゃんばあちゃんのお気に入りなんですよ」
「枇々木先生が? なんで?」
さっき見た『お客さんの枇々木先生』は、いつもの枇々木先生より柔らかい表情をしていたけれど、それでもお世辞にも愛想のいいお客さんではないし、意外だわ。
「枇々木先生は小さいころから、勉強でもスポーツでも、何をさせても優秀だったみたいで。それにあやかって俺の名前をつけたぐらいなんですよ」
「あやかって……?」
私は一瞬考え込んだけど、すぐに理解した。
枇々木『盾』先生と国木田『守』君、ね。
「まあ、二十歳過ぎればなんとやら、って枇々木先生自身は言ってますし、俺もどうやらその『なんとやら』みたいなんですけどね」
やっぱり南先輩みたいにはなれないや、と、国木田君は笑う。相変わらずの織牙さん信者みたいだけれど……ケロちゃんが獲物を見る目をしていることに気づいて、国木田君!
「でも、なんで私にそんな話を?」
「なんでって……え? いや、だって伊妻先輩って――」
私が訊くと、逆に困惑する国木田君。すると何やらケロちゃんが国木田君に耳打ちして。
「……伊妻先輩って悪女ですね」
って、なぜか国木田君がため息をついた。
えっ、何よ!? 悪女って……悪役令嬢のイメージは自覚しているけれども、さすがにヤンデレ小悪党の国木田君に言われたくなくてよ!
なろうの最新の流行は伊勢海老と聞いて、さりげなく積極的に使っていくスタイル




