第五十六話 弁当屋の国木田君、ですわ
「こんにちはー」
「千和ちゃん!?」
ケロちゃんが最初に弁当屋のドアをくぐると、レジからうれしそうな声が返ってきた。
でもごめんなさい、今日来たのはケロちゃんだけじゃなくてよ。
私たちが続いて店に入ると、声は明らかにトーンが落ちて。
「あ、いらっしゃいませー」
「お久しぶりね、国木田君」
せっかくケロちゃんが遊びに来てくれたと思ったのに、本当にごめんなさいね。
それにしても、まさかくだんの弁当屋が国木田君の家だったなんて。
正直、馬淵君の事件が終わったらもう国木田君と関わる機会なんてないと思っていたから意外だわ。
「国木田君はレジの手伝いですか?」
「バイトの兄ちゃんが、最近ようやく厨房に入れてもらえるようになってね。今日もじいちゃんばあちゃんがつきっきりで指導中」
言われて棚を見ると、盛り付けに失敗した半額弁当の山。会ったこともないけれど、こういうの見てると応援したくなっちゃうわよね。がんばれ、バイトさん。
でも、国木田君じゃ幽霊ガードレールの事故は知らないわよね。国木田君のおじい様おばあ様なら知っているのかしら。
「守君、じつは守君のおじいちゃんかおばあちゃんに話が聞きたいんですが、ここで待っていていいですか?」
「いいよ」
ケロちゃんが悪びれなく聞く。本格的に自分に用はないと察した国木田君、笑顔で返事しながらがっくりと肩を落とす。
腐女子だからか、今の恋愛対象が私だからか。どっちだかわからないけれど、ケロちゃんは国木田君を恋愛対象として全く意識していないみたい。ファイトよ、国木田君。
なんて、心の中で国木田君を応援しながら、お惣菜の棚を眺めたりなんかして時間をつぶしていると、自動ドアが開く音がした。
「いらっしゃいませー」
「今日は国木田が店番か。珍しいな」
あら、何やら聞き覚えのある声だけれど。
私は入口のほうを振り向いた。
「枇々木先生っ!?」
「伊妻!? に、蛙ヶ口に高尾も?」
私の銀髪が真っ先に目に留まったのか、まず私に驚いてから、先生はケロちゃんとタカヒロ君にも気づいたようで。
「はぁ……そうか。ここの店長夫妻なら『ガードレール幽霊』を知っているからな」
と、深々とため息をついた。
そういえばいつだったか、国木田君ちの弁当屋の常連って言ってたわよね。
でも、よりによって今会うなんて、気まずすぎ……!
久々の登場国木田君! 相変わらずの便利なモブ!←