第五十四話 棗先生のいじめ、ですわ
「棗先生の……いじめ被害者? えっ……じゃあ棗先生って元いじめっ子?」
いまのさばさばした棗先生から想像がつかなくて、私は頭の中にハテナマークがいっぱいになる。
「なんだ蛙ヶ口。確かに内緒にするって約束したけど、伊妻にも話してなかったのか」
「私、こう見えて口は堅いほうですよ?」
ふんっ、と、ケロちゃんが鼻を鳴らす。
ケロちゃんはもしかして、ユスリ事件の相談に行ったときに聞かされてたのかしら。
「私がいじめ一一〇番担当なのはな、いじめっ子経験者だからだよ。いじめってーのは結局、いじめる側の問題だからな。いじめる側の話聞いてやれる私みたいなのが一番適任ってのが校長の考えらしい。――その代わり、蛙ヶ口の件みたいにいじめっ子側が他校生だとお手上げなんだけどな」
校内のいじめはゼロなのに、ケロちゃんの件がやたら大きくなってたのはそれでだったのね……。
「それじゃ、もしかしてあの事故っていじめを苦にしての自殺」
「バカ、縁起でもないこと言うなよ!」
思わずぽろっと出た独り言みたいな一言を、棗先生は耳ざとく聞きつける。
「否定できないだろ。あいつの死体も撥ねたトラックも見つからなくて、原因がわからないんだからさ」
「あ……」
そうよね。見通しの悪い道路だからってなんとなく事故の気でいたけれど、本当のところは誰にもわからないわ。
それなのに私ってば、ちょっと軽率だったかも。
「すみません」
「あー、そこまで暗くなんなくたっていいって。過ぎたことだし」
棗先生の口調からは、ずっと背負ってきた過去の重み、みたいなものが感じられた。
タカヒロ君の呪いも気がかりだけれど、事故か自殺かはっきりしたほうがきっと、棗先生も救われる。なんとなくだけれど、そんな気がした。
「棗先生はガードレールの幽霊に直接訊きにいかないんですか?」
ケロちゃんが訊いた。
「は?」
「確かにそんなことして、もし呪われたらとか、怖い思いもあるかもしれませんけど……でも、ずっとそのままにしておくのって、私、よくないと思うんです」
結局私に盗んだお金を返してくれた、ケロちゃんらしい意見ね。
確かに、幽霊でも何でも本人に直接確かめられるんだったら、一人で十何年も思い悩むことはないんじゃないかしら。
だけれど、棗先生はそんなケロちゃんを鼻で笑って言う。
「――いや、あいつの幽霊なんていないよ。私、幽霊騒動の真相知ってるからさ」
「えっ!?」
幽霊騒動の真相を知ってる……? それって、タカヒロ君の呪いについてもわかるってこと?
「棗先生、どういうことなんですか、教えてください!」
案の定、これまで黙っていたタカヒロ君が食いつく。
「あー……ダメだダメだ! ヒントはここまで。これ以上は自分たちで調べろ」
「そんな!」
一番大事なところなのに!
私たちは何とかならないかとさらに交渉しようとしたけれど、そのタイミングでチャイムが鳴る。
先生の前で堂々と五限をさぼるわけにもいかなくて、私たちはしぶしぶと保健室を後にした。




