第五十三話 棗先生と幽霊、ですわ
病人がいるかもしれない保健室にあまり大人数で押しかけられないのと、馬淵君にいい加減追試の勉強をさせる必要があるのと。
主に後者の理由で、ぴあのさんと馬淵君は教室に戻った。
それで、残る私とタカヒロ君とケロちゃんで保健室に来たわけだけれど。
「失礼しまーす」
「おう、盾のクラスの、伊妻と蛙ヶ口と高尾だな!」
棗先生が明るく私たちを出迎える。その声の大きさから、今日は寝ている人はいないみたいだと察する。
「伊妻と高尾はあのお菓子コンクール事件以来か! その後馬淵は大丈夫なのか?」
「はい、おかげさまで」
頭が大丈夫じゃなかったので今日は来れませんでした、という事実をぐっと飲みこんで、私は答えた。
「でも蛙ヶ口もいるってことは、あの時の件の続きじゃあないよな? どうした」
どうしたって聞かれると、『呪われた』なんて答えにくいわよね。
枇々木先生に堂々と答えたぴあのさんはすごいわ……。
「ええと、実は幽霊ガードレールについて調べなきゃいけなくて」
「は? 幽霊ガードレールについて?」
棗先生は目を丸くしたけれど、ここまでは予想の範疇。
枇々木先生が何か事情を知っていることだ、幼馴染の棗先生も同じ可能性は高いわよね。
「なんでいきなり私に来たんだよ? 先に担任の盾のところだろ」
誰もいないのに声を落として、何かを探るみたいな口調で棗先生が言う。
「枇々木先生にはここに来る前に相談したんですけど、断られてしまって……」
ケロちゃんが言うと、棗先生はぱちぱちと瞬きをして。
「ぶっ……あははははははははははは!!」
と、大きな声で笑い出した。いきなりの大音量に、私たちの耳がキーン。
「盾に幽霊ガードレールについて訊いた! よりによって盾に! しかも伊妻が! 傑作!」
「何がおかしいんですか?」
特に最後の『しかも伊妻が』の部分……私だと何なのよ?
棗先生はまだおかしそうに、笑いすぎて出た涙をぬぐいながら答える。
「話したいのは山々なんだけど――これ勝手に話したら盾と絶交になるからなぁ。保健の先生と担任が絶交してて困るのは生徒のお前らだろ」
うー、なんだかそう言われると意味深で、余計に知りたくなっちゃう。でも詮索して教えてもらえる雰囲気じゃないわよね。
「でもほかの先生のところに行って話が大きくなっても困るし、いいよ、幽霊ガードレールについて調べるのは私の許可ってことで」
「本当ですか?」
「その代わり、今回の件はお前ら三人と、あとたぶんこのメンツってことはもう関わってるだろう馬淵と南。その範囲だけで片付けてくれると助かる。私も盾も、あんまり広めてほしくない秘密の一つや二つあるんだよ」
その口ぶりだと、何か幽霊ガードレールの事件が二人と深く関わってるみたいね?
真剣に棗先生の顔を三人して覗き込んでいると、棗先生がすこし眉間にしわを寄せて続けた。
「あー、もう! これはお前らへの大ヒント、兼、私の罪滅ぼしだ!」
そして、棗先生は大声でまくし立てる。
「幽霊ガードレール事件の被害者は、私のいじめ被害者だよ!」
カクヨム始まりましたね。
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