第三十四話 ひとつのハッピーエンド、ひとつのバッドエンド、ですわ
「ゔ……っ! 渋っ、まずっ⁉」
馬淵君が上体を起こして顔をしかめる。栗の渋皮が入ってるからね……。
「タカヒロてめえいきなりなんてモノ飲ませやがる――」
「わー! ストップストップ!」
タカヒロ君は馬淵君に胸ぐらをつかまれて、慌てて叫ぶ。
「それだけ動ければ大丈夫だね。よかったよかった」
「あれ? 本当だ。さっきまで指一本動かせなかったのに……今はちょっとだるいだけだ」
馬淵君が不思議そうに手をぐーぱーさせる。
「全快まではあと丸一日ぐらいかかるかもね。まあ、明日はちょうど振り替え休日でお休みだし、ちょうどよかったんじゃない?」
「そうか……俺は助かったのか」
馬淵君はゆっくりとベッドから起き上がった。そして、国木田君に歩み寄る。
「国木田」
「馬淵先輩、すみません、勝手な勘違いで、こんなこと」
「俺の方こそ、悪かったな」
目に涙を浮かべて震える国木田君の前に屈みこんで、馬淵君が謝る。
「え……?」
「天才ストライカーだなんてもてはやされてはいたが、実際は織牙さんのおかげ。織牙さんの引退で急に評価が下がるのが怖かったから、何も考えないで逃げるようなタイミングで引退しちまって――アレじゃハタから見たら誤解されて当然だ」
「でも、俺、こんなこと……」
「だー、もう、ごちゃごちゃ言うなよ!」
馬淵君の手が国木田君の肩に置かれる。
「俺だってな、前でカッコつけてたい女の一人や二人いるんだよ。そいつに俺が逃げたとか、知られたくねー。だから今回のことは黙ってろ、いいな?」
「だ、黙ってろって」
「わざとやったって言わなきゃいいだろ? 山で取ってきた毒きのこを、食えるやつと勘違いして入れちまったとか言っとけばいいんだよ!」
「あーあ、馬淵君」
クスクスと、こらえきれない様子でタカヒロ君が笑い声を漏らした。
「素直に許すって言えばいいのに」
「ば、バカ! 余計なこと言うな!」
馬淵君が顔を赤くする。
「あー、なんだ。そういうことだ。……だから、気にすんな!」
馬淵君は、国木田君の肩に置いた手を軽く挙げて。そのままバシッと肩を叩く。
「馬淵先輩……」
その時、私の後ろで医務室のドアが開く音がした。
「おーい、馬淵、もう良くなったか?」
入ってきたのは棗先生。手に持っているスマホは、画面が大きくて棗先生の手だと収まりが悪い。だから、きっと馬淵君のものね。
「取り込み中悪いんだが、南から着信。ロックかかってなかったから勝手に出たけど良かったか?」
ぴあのさんからね……。そうよね、ぴあのさんも心配してたはずだものね。大方、通行止めが解除されて、止まってたバスからやっと降りられたタイミング、ってところかしら。
馬淵君は棗先生からスマホを受け取る。保留を解除すると、ぴあのさんの声が聞こえた。さすがに何を言っているのかはこの距離じゃわからないけれど、心配そうな雰囲気は伝わってくるわ。
「もしもし、ぴあの? 俺だよ。ああ、おかげでもうなんともねえよ」
ぴあのさんに電話している馬淵君の声を聞いていると、胸がちくりと痛む。
今は馬淵君が無事だったことを喜ばなきゃいけないのに、やきもちを妬いちゃう私。汚いかもね。
「いいって、謝んなくて。交通事故で動けなかったんじゃしょうがねーだろ。むしろ織牙さんに連絡してくれてサンキューな」
少しずつ興奮で大きくなるぴあのさんの声に、馬淵君が返す。
そう。ぴあのさんは自分がいいところ見せようとか、余計なこと考えないで、馬淵君のことを考えて織牙さんに連絡を回したのよね。
考えてみればお菓子コンクールの時から、私は自分のいいところ見せようとしてばっかり。馬淵君とか、他の人の気持ちってあんまり考えてなかったかも。
――なんて、自分がぴあのさんに敵わないことを悟っちゃったからかしら。
電話の向こうのぴあのさんの声に。
『あのね、トシ君! 今言うのも変かもしれないんだけど』
だんだん耳が慣れてきて。
『でも、本当にトシ君のこと心配で、言えるときに言わなきゃって思ったから』
その一言がはっきり聞き取れてしまった時。
『私ね、トシ君が好き』
反射的に部屋を飛び出してしまったのは。
「伊妻!? どうした!?」
心配そうな枇々木先生の声を振り切って、私はそのまま逃げ帰る。
馬淵君の返事。そんなの聞きたくなかった。
だから、逃げて、逃げて、家まで逃げて。『後でちゃんと説明する』って言ったポチにも何も言わずに。
ベッドに飛び込んで、そのまま眠った。
クリスマスイブによりによってこんな内容の更新ですみません。
キリが悪い感じですが第二章はいったんここで締めます!
第三章は六花ちゃん・ぴあのちゃん・馬淵君・枇々木先生の四角関係にフォーカスしていこうと思います!
お楽しみに!




