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青い球体からの有権者  作者: 本宮傑
司崎校
20/26

暗躍


 とある居室、ジャラジャラとしたシャンデリアのような光源だけでは照明が足りなく、若干薄暗い。

 周りには大小様々な本が本棚に収納されていた。

 そんな中、初老の男性、砂上達昭さじょうたつあきは立派な椅子の背もたれには寄りかからず背筋を伸ばし、宙に浮く映像を通じてビデオ電話をしていた。


「これはこれは、西城さんではないですか。先日の件は借りを作りましたな、おかげで我が家も潤うというもの」

「ははは、それくらいのことはお互い様ですよ、助け合いでいきましょう」

 西城雄介にしじょうゆうすけは微笑しながら顎鬚を撫でる。

「それでご用件をお聞きしましょうか」

「……霧宮家をご存知でしょうか」

「はぁ、14区に邸宅を構えている得体の知れない家系ですな。関係あるかはわかりませんが司崎校に通わせている娘の監視対象が霧宮という名前でしたな」

「……今日の昼ごろに私の息子がその霧宮一月に手ひどくやられたようでして、西城家としてはこれは見逃せません」

「報復活動に協力して欲しいと? しかしたかだか子供の喧嘩、そこまでする必要がありますかな?」

「今日の夕方にかけて霧宮家の関係者と思われる人員が13区の件を嗅ぎまわっていましてな、私としては霧宮一月を殺害、もしくは拘束して釘を刺したいのですよ」

 語調に揺れはなく冷淡で平坦な声だった。


「なるほど。しかし霧宮一月が14区の霧宮家の縁者かどうかの確かな情報はあるのですか?」

「そもそも霧宮という苗字はそうそうあるものではないでしょう。さらに13区のレンタルカーの店で霧宮一月を目撃したとの情報もあります。もし違うとしても西城家の面子を保つということで通せばいいのです」

「……わかりました。私もこの計画が公になるのは防がなければいけない立場だ、西城さんにはそれを紹介していただいた借りもありますしな、協力させていただきましょう」

「そう言っていただけると思っていましたよ」

 西城雄介は余裕の黒い笑みを浮かべる。

 勿論断れるはずがないと踏んでこの話を持ちかけたのだろう。


「では私はどのように協力すればいいのでしょうか」

「娘さんから霧宮一月の情報を一通り教えていただきたいのと、地獣討伐で派遣された場合はすぐに知らせていただくこと。さらには精鋭の戦闘員を若干貸して頂きたい」

「わかりました、前者の二つは深鈴に手配させましょう。精鋭の戦闘員とは? 霧宮一月は高校生ですが」

「聞くところによると彼はSランク評価のようです、念には念をといったところです」

「はははっ西城さんも用心深いお方だ。ではそのように、何かあればまた連絡いたしましょう」

「はい、ご協力感謝します。ではまた」

 空中に浮かぶディスプレイがプツっと切れる。

 ギィっと背もたれに寄りかかる砂上達昭は軽く息を吐き、娘の名前をタップした。



 外はすっかり暗闇に包まれている。

 学生寮の一室で砂上深鈴はベッドに寝転んでいた。

 相室の人物は晩御飯でも食べに出掛けているのだろうか、室内には見当たらない。

 端末から着信の音楽が響く。宙にでてきたディスプレイをタップする。


「もしもし、お父さん? とりあえず落ち着いたわよ」

 端末から力強い初老の男性の声が響く。

「そうか、周りに人はいないな?」

「相部屋の子は出てるから私一人よ?」

「よし、お前の監視対象の件で話がある」

「霧宮一月君のことで?」

「そうだ。昼ごろに西城家の息子とトラブルがあったそうじゃないか」

「ああ知ってるわ。なんか西城明のほうから突っかかったらしいわよ?」

「……まあどっちが突っかかったなどはどうでもいい、西城家がその件で報復活動をするらしい」

 砂上達昭は聞いた話と事実が少し違っていたので一瞬言葉に詰まる。


「なんでよ!? たかだか高校生の喧嘩よ? 大体報復って何するつもりなのよ」

 余りの唐突さと軍という巨大組織が一般の高校生に報復行動をするというあり得ない決定に声を荒げる。

「私達22家は日本の異能の最前線を走ってる身だ。面子というものもあるのだよ。具体的な行動は殺害、もしくは拘束だ」

「…………なんで、なんでよ!? 大体そんなの私の上司が黙っていないわよ?」

「政府の諜報組織には話をつけて了承も得ている」

「何で……何でよ」

「我々砂上家もこれに協力をする」

 混乱に陥っている深鈴に追い討ちをかけるような言葉。

「…………」

「おかしいとは思うだろうが西城家には借りがあってな、高校生に対しての報復程度で借りが消せるならリターンが大きいのだ」

「借りってなによ! 西城家と関係を持ち始めてお父さん変なのよ! いつから砂上家はそんなことに加担するつまらない組織になったのよ……」


「深鈴、黙って従え」


 凄まじい怒気を含んだ声。

 まるで仕方なしに汚いことに手を染めている自分にも怒っているような、悔しそう声だった。


「わかりました、申し訳ありませんでした」

 深鈴の謝罪の言葉は豹変して冷淡な声だった。話を聞き流しているようにも思えた。

 が、砂上達昭にとってはその返事で満足だった。


「それでいい。お前には霧宮一月の情報開示および霧宮一月の外出報告を担当してもらう」

「都合の良い場所に外出した場合仕掛けるつもりね……」

「お前は何も知らんでいい、わかったな? 動きがあった場合私に連絡しろ」

「はい」

「深鈴、大人の世界には色々とあるんだ、わかっておくれ。連絡は以上だ。おやすみ深鈴」

「おやすみなさい、お父さん」

 映像をタップして通話を切る。

 砂上深鈴は窓から見える夜空に浮かぶ三日月を眺めながら物思いに耽る。

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