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CASE0  作者: 入呼律
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第四十四話

 一度だけ博士が怒ったことがあった。


102340年6月14日

 あれは、いつものように博士から人間の文明について話を聞いていたとき。

 なぜそんなことを言ったのは分からないが、ふと脳裏にその言葉が浮かんだ。

「何と言うか、地球という惑星は人間のために作られたものだったんですかね」

おそらく、あまりにも人間の生存に適した地球の環境について知ったときに漏らした言葉だったと思う。

「……そんなことを言ってはいけない!」

 しかし、その言葉が博士の逆鱗に触れた。

「人間の方が優れていた、人間がこの地球に住むべきだ、ということを言いたいのかい?」

 静かな口調だったが、博士が怒ることすら初めてのことだったため、僕は少し怯んでいた。

「いえ、そこまでは。しかし、地球はあまりにも人間にとって都合が良いというか」

「地球は確かに人間の生存に適した惑星だ。でもそれは地球が先で、人類が後。この前後関係だけは誤認してはいけない」

 目を伏せてこちらに顔を向けていた。

「その発言は、これまで地球に住んできた生物、そしてこれから地球に住む生物の両方を侮辱する発言だと気付いているかい」

 その視点は、人類の絶滅を見守った博士にしかないものだった。

「気づきませんでした」

 博士の口調はもう元に戻っていた。

「まあ、覚えてくれればいいんだ」

 強調するような言い方で、僕の脳裏に今も残る言葉を言い放った。

「この地球だけは誰のものでもない。私は人間が好きだが、それは地球のほんの一部だ。それを誰かのものだなんて言うのは私が許さない」

 まるで地球の保護者みたいな言い方をしていた。


 ReCASE1追加資料(アディショナルデータ)/感情機能の変化について/少年 終

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