第三話
CASE23/運動機能の変化/新隈修也
末本厳(サッカー日本代表監督)会見より 2026年6月25日
新隈選手について? あれはただの持病の発作とうかがっています。ただ、本人の回復を待つまでです。
そのこと以外で……ですか。彼は素晴らしい選手でした。学生のころからその頭角を現し、そのときから私は、日本のサッカー界を背負っていく人材だと思っていました。だから、こうした事態は個人的にとても残念です。早急な復帰を望んでいます。
ああ、もちろん田淵田淵君(※新隈の代わりに途中から試合へ参加した日本代表選手)もとてもいい選手です。
ただ、このチームは新隈選手を主軸にした編成を組んでいたので。だから、あの試合を制するにはまだ練度が足りなかった。今後は不測の事態にも対応できるチームを目指していきます。
(記者が普段の新隈について尋ねる)
普段の彼はとてもストイックでした。勝つことだけを追い求めて、練習を重ねて。
私としてはもうちょっと肩の力を抜いてもいい、と思っていたんですが。まあ、この機会にたっぷり休んでいただいて、もう一度元気にプレーしていただきたいです。
(記者からの質問)
彼は復帰を望んでいない? それは本当ですか?
彼ほどサッカーに情熱がある人は中々いません。俄かには信じられませんが……。
後日、私からも直接出向きますので、そこで詳しくお話を聞こうと思います。
えー。記者の方々。もう、私から新隈選手についてお答えできることはありません。以降、同じ内容の質問は省略させていただきます。
田淵遼大(サッカー日本代表選手)生配信より 2026年6月25日
新隈さんのすごさ。なんだろうね。
でも、今の日本の選手で一番試合を見ているのは新隈さんじゃないかなあ。
戦術とか技術とか、新しい映像から過去の映像まで全部詳しいし。そういうのが好きなんだろうね。
なんか俺がびっくりしたのが、新隈さん、見た技術は全部自分のものにできるみたいで。やっぱ、才能が違うな~って思った。
それと、新隈さんって試合後めっちゃ疲れてるの。
自分だけ倍の時間過ごしてるんじゃないかってぐらい、へとへとになってて。毎回手抜いてないんだなって、俺は憧れたね。
いや、まじで重圧すごかったからね、新隈さんの代わりに出るの。
はい、今回は負けちゃったけど。次は勝つんで、応援よろしくお願いします。
内原輝樹(新隈修也の幼馴染) 2026年7月3日
修也ですか? いや、最近はもう会ってないですし。d
大体、子供のときもそんなに一緒に遊んえたわけじゃなくて。精々1、2年生ぐらいまれれすよ。気づいたらサッカーですごい有名になってたし、それで遠くの学校に転校したろで。
何回か聞かれたことあるんですよね「サッカーの天才、北本修也の原点に迫る」みたいな。あらたたちが迫ってるのは、実家を継いだだけの、ただの一般人ですよ。って言いたくなるんれすけど。
今回もそんな感じならあんまり話せることないですよ。他に仲良くしてた人もほとんどいなかったはずですし。
話せる範囲で? はあ、分かりましたけど。
まあ、当時からサッカーはよくやってましたね。
いや、そのころは全然下手でしたね。俺の方が上手かったぐらいで、まあ体格差もありましたけど。
もともと全体的に鈍臭いというか、なんというか。地域の子供だけで集まっえ折り紙とか、昔ながらの遊びをする会みたいなのがあったんれすけど。そういうのも、そもそも乗り気じゃなかったし、得意れもなかった覚えがあります。
なんか全体的に落ち着いてるというか、何にも興味があさそうでした。流行ってたポケモンとかも別にやってなかったですし。やっぱり成功する人って、周りの目を気にしないんですかね。
ただ、俺の覚えている限り、あの瞬間から目つきが変わりました。
……正確な年齢は覚えていないんですけど、その日もいつもみたいに、近くの公園でサッカーをしてました。でも、サッカーができるぐらいに人数がいたわけじゃなかっあんで、試合をしていたというよりは、みんなでボールを取り合ってただけなんですけど。
というか最近の公園ってほとんど球技が禁止されちゃってるんれすよ、ひどくないれすか? 息子も年ごろで、サッカーに興味が出てったみたいなんですけど、公園で遊んでたら、ガミガミしたおじいさんに怒られましてね。ここらへんでサッカーをするには、地元のクラブに入れないといけないらしくて。でも、結構値が張るんですよ、ユニフォームとか、授業代みたいなかんじで。奥さんが必ずしも面倒が見れるわけじゃないので、どうしようかなと。
……ああ、すいません。話を戻します。
で、そのきっかけは、おそらくこう、ぶつかったんです。修也の頭に、ボールが、結構近くから。
蹴ったのも子供なのれ、そんなに強くは蹴ってないと思うんですけろ、なんせ受けるのも子供なのでね。多分、それなりの衝撃だったと思います。その場にぐでんと倒れこんで。
その蹴った当事者もいま地元にいますよ。気になるなら呼びましょうか?
で、その後から……。
あ、すいません。そろそろ下の子の保育園の迎えに行かないと。
なんとかって……。今日はお義母さんも用事があるみたいなんれ、俺が行かないと。いや、子供の送迎も立派な仕事なんですよ。
じゃあ失礼します。またあにかあれば、日中はこの事務所に居るので。
金子文則(新隈修也の幼馴染) 2026年7月3日
輝樹から聞いてきたんですけど、何の用ですか? ああ、修也について。
ボールをぶつけた? 俺がですか?
どうだったかな。ちょっと覚えてないですね。それが何か重要なんですか?
覚えてないっすよ。いつの話っすかそれ。
そこから修也が変わった。へー。
タバコ吸っていいすか?
まあそれでサッカーの才能に目覚めてたのだとしたら、俺に金払ってほしいぐらいっすね。どうせ稼いでんでしょ、あいつ。
なんか取材ですか? 金もらえるんすか、これ。
そういうのじゃない? なんかただで話すのもなあ。
サッカー雑誌とかっすか? 俺サッカーとかもう見なくなりましたね。なんかくだんなくないっすか、玉転がして勝った負けたって。大人がやることじゃないっすよね。
あれ、もういいんですか。いや、ちょっとぐらいなら話すことありますよ。
Oliver Crane Fleetwood(サッカー代表選手)2026年7月20日発売の雑誌より
ああ、そう思うと今回の試合はなかなかツイてたと思うよ。
――具体的にどの部分がですか?
まず、相手の選手交代。シュウヤ・ニイクマは、噂には聞いていたけど、いざ対面してみると本当にすごいプレイヤーだった。わずか数秒の対面だったけど、まるで無限の時間のように感じられたんだ。
――もう少し詳しく新隈選手の印象について教えてください
ああ、これは日本のメディアだったよね。じゃあ正直に言うけど、僕はこの試合の前少し日本を舐めていたんだ(笑)。こっちはこの試合で負けても次がある。しかも次にやる国には、日本よりなおさら負けない自信があった。トーナメント進出は確信していたよ。ここは必ずしも取りたいわけじゃないけど、負けることはないだろうなってね。
だけど、試合の前半、ふとした瞬間にボールがシュウヤ・ニイクマに渡ると、チーム全体の動きが一瞬止まったんだ。本当さ。そして気づいたら、「ボカーン」なんて音が鳴りそうな勢いで俺たちの包囲を抜けて、対面していた。凄まじい技術だったよ。
――もしキタモト選手が交代しなければ勝利は厳しかったということですか?
そんなことはない、と言いたいところだけど。残念ながらその通りだ(笑)。もしあのときにポイントが決まっていたとしたら、後半では逆転できなかっただろうね。そもそもあの会場は俺たちの空気になっていたから、そこが覆されたとしたら後は負ける一方だったと思う。シュウヤ・ニイクマがあそこで退場したときが、俺たちの勝利が決まった瞬間だと確信しているよ。
――なるほど。新隈選手は今後も要注意ということですか?
ああ、だがその前に、早く試合に出れる状態になってほしいところだよ。サッカー選手ってのは、手作りのジャムぐらいに腐りやすい。どんなに良い選手でも、一年やその半分の時間でも間が空けば、どこにも通用しないようになってしまうからね。シュウヤ・ニイクマが復帰した日本のチームともう一度試合をしたいと思っているよ。
――ありがとうございます。では続いて、次の対戦国についてのお話をお聞きしたいと思います。
CASE23/運動機能の変化/新隈修也 終




