19 二人の共有世界
それにしても祷にも好き嫌いはあるらしい。目玉はお菓子の感覚なのか美味しそうに食べるが、脳などは苦い顔をする。
人間の部位で最も栄養があるとされる肝臓は言うなれば野菜のものだろうか。骨は食べずに肉だけを綺麗に食い千切っている。
食べ終わったあとはいつも口回りが血でベタベタになるから仕方なくタオルも同伴してある。何に使うか分からずぐいぐい引っ張る祷にジェスチャーで教えたのも懐かしい。
今てはすっかり人間味を増した祷に、俺はだいぶ絆されていることに気づいている。遺伝子上の父親と聞かされたことで一つ、No.517の面影を重ねることで二つ、俺に懐いて笑顔を向ける祷に三つ。
我ながら単純だとは自覚しているがそれでも、空っぽの箱に入れる形のある『何か』が欲しかった。一、二ヶ月も経つ頃には俺と祷にあった距離がゼロに近くなり、まともな服や家具があしらわれていた。
まだ外に出せる段階ではないが、徐々に人間と同化させるまでの見解は出たのだ。
「ハク、ごちそう、…さま!」
「ごちそうさま」
にんまりと得意気な顔を浮かべた祷はもう獣などではない。
「オイシかった、よ?」
「よかったな」
「ウん…!」
単語の意味も初期に比べ理解が早い。そろそろ外の知識も入れるべきだろう。その日から幼児向けの本を数冊祷に渡し、俺が帰ったあとはそれを読むように命じた。
どうやらそれが相当気に入ったのか俺といるときも好きな箇所を大っぴらに見せてくる。それで気になった俺も俺だが、そうやって二人で本に触れて、世界を広げた。
パンが喋ったり、イモムシがあげは蝶に羽化したり、思った以上に楽しい。幼少の頃から血みどろの世界に染まっていた俺は、ふわふわで、丸っこい、そんな世界の全てが新鮮で祷も同じだった。
「ハク! これ見て!」
嬉しそうに本のページを見せる祷とそれに乗っかる俺。もうすっかり立場が逆だ。それに本の効果か言葉ももう完璧だ。
「りんごが、なんで家になってんだ?」
「『りんごかもしれない』から!」
たまに意味のわからない本があると『?』しかない。そんな俺を見てくすくすと笑う祷もだいぶ年頃の子供だ。
「あ~おもしろかった!」
読み疲れたのかそのままベッドに横になる祷に毛布をかける。
「冷え込むぞ」
「ありがとう、ハク」
食事を三食と取るようになった為見た目はもう普通の六歳児と変わらない。通常であればランドセルをからって学校に登校する年頃だ。
もし、祷が友達を欲しがったらどうなるだろう…。No.517は家族はいたけど、友達が欲しかったと言っていた。
もし祷も『そう』なら…。どうせ眠りにつけないのだから、俺は満足するまで考え耽った。




