19話 帰るべき場所には誰もいない
俺は憂鬱な気持ちのまま目を覚ました。この逆さ虹の森で目を覚ますのは何回目だろう。そんなことはどうでもいい。俺は思い出してしまった。思い出さなければよかった。この森に来てからずっと探し求めていた記憶を。俺は今、自分が何者なのか、どこから来たのかを思い出すために森を救った。だけど、その答えがこんなにも悲惨なものだったなんて――。俺の帰るべき場所には、誰もいないじゃないか。
体を起こすと、コマドリを除いたみんながいた。キツネ、リス、ヘビ、クマ、アライグマ。みんな嬉しそうな顔をしている。――俺もみんなと同じように、オンボロ川から生まれたかった。そうすれば、家族を失うつらさを経験しなかったのに。
「ルカ君、やったよ! さっき、翠の光が空に広がったんだ! 今コマドリさんが空から森の荒廃が停止したか確認しているけれど、きっとうまくいったはずだよ!」とキツネが浮かれたようにはしゃぐ。
「そうか……」俺は俯いた。何も嬉しくない。ただ無意味なことをしただけだ。
「あれ、ルカ君、どうしたの?」キツネは察しがよかった。自分が喜ぶことによって俺が負の感情に陥ることに気付き、声のトーンと表情を慎重なものに一転させた。
「俺はこれから、何をしていけばいいのかわからない」
根っこ広場は静まり返った。ある一つの壮大な目標を達成した者たちが集まっているとは思えないほど、沈鬱な空気に満たされていた。俺の作る影は、広場の影よりもずっと暗かった。
「あんた、地下で何かあったんだで?」リスが俺に尋ねた。あの口達者だったリスでさえをも、俺の影は支配してしまう。
「思い出したんだ。俺がここに来る前のことを」
「どこから来たのかわかったっていうことじゃろ? それなら良いことじゃ――」
「良いことなんかじゃない」ヘビの言葉を遮って言った。ヘビは首でも絞められたかのようにぴしゃりと言葉を止めた。
「ど、どうして……?」
「ゆっくりでいい。話してみろ」
クマとアライグマが寄り添うような語調で言った。気持ちは嬉しいが、やはり心は晴れない。
俺は記憶の旅の内容を皆に伝えた。俺の父が既に亡くなっているということ。俺がここに来る直前で母が湖の底へ沈んでいってしまったということを。
皆は真剣な眼差しで話を聞いてくれていた。しかし、彼らは川から生まれた、家族を持たない者たちだ。家族を失った俺の悲しみを理解することはできるのだろうか。
一通り話し終えると、当然ながら皆は言葉を失っていた。話を聞いてくれただけでも感謝すべきことだ。だが、行き場のない気持ちが俺の中で震えている。そして、それが皆にも伝染してしまっているのが心で感じ取れた。俺はどんどん意味のないことを重ねていく。
そこで森全体の様子を確認しにいっていたコマドリが戻ってきた。
「ラララ~♪ 森すべての緑が回復して――」さすがは吟遊詩鳥である。初めは嬉々とした歌声でやって来たが、一瞬で一帯の重い空気を察して旋律を止めた。
「よかった、緑が戻ったんだね」キツネはあまり喜んでいなさそうな笑顔でコマドリに言った。「……言い伝えによると、リントっていうニンゲンは森を救ったあと、虹の湖に飛び込むことによって、この森から立ち去ることができたんだよね」
苦し紛れにキツネはちらりとこちらを見た。俺は何も言えなかった。
「帰っても仕方がない、か」とアライグマがつぶやく。
俺は無言の同意を示し、意味もなく立ち上がった。その拍子で、首にかけていたロケットペンダントが地面に落ちる。
「む、それは……!」アライグマが落としたロケットに強い反応を示した。何かを思い出した様子である。「見覚えがあるなと思っていたが、今思い出したぞ!」彼は目を大きく見開いている。「ルカ、そのロケットは、リントも持っていたぞ!」
「リント……?」以前この森にやって来た人間の名前だ。どうしてその人間がこのロケットを?
アライグマが鋭敏な動きでロケットを拾う。「ルカ、これを開いてもよいか?」
俺はうろたえながらも承諾した。開いて何が変わるのだろう。ロケットに入っているのは俺の失った家族と、守ることについて説いた教訓のような言葉だけだ。
唯一リントを知る動物がロケットを開け、まじまじとその中身を観察する。根っこ広場では、アライグマだけが興奮していた。
「間違いない、そういうことだったのか!」アライグマがしゃがれた声を高らかに上げる。
「そのロケットには、ルカ君のカゾクの写真と教訓のような言葉が入っているけれど、何がわかったの?」キツネがアアイグマに問いかける。
「む、言葉? 言葉なんて書かれていないぞ?」アイライグマはロケットの中身を見つめながら言った。「それより、ルカ、お前のカゾクのうち一人が誰だかわかったぞ!」
「なんだって……、まさか!」アライグマが知る人間はただ一人しかいない。以前、逆さ虹の森にやって来た人間――。
「リント、それがお前のカゾクの名前だ! ルカ!」




