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塔の賢龍  作者: 鹿の子姫
第1章 出会い
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ヤーゴンの手記

私はヤーゴン・エルグ・レグチャフである。

手記を書こうと思ったきっかけは、あるエルフの少年と出会ったからだ。

彼の平安を願い、この手記を残す。

私はこの手記が他人の手に渡るのを防ぐために、秘密の場所に隠したつもりだ。この手記が見つかるとすれば恐らく私が死んだ後のことだろう。


まずは私の半生から書いていこうと思う。

私はエクーナ王国の出身で十六歳で星読み師育成学校を卒業した。

星読み師として、王に三十年間尽くした。


四十代になると、仲間から星読み師のトップ、長老会へ推薦された。

しかし私は推薦を辞退した。

私は政に興味は無い。

もっと星と魔法の研究をしたいと思い、この城を建設した。

元は憲兵やたくさんの召使いがこの城にいたが、私は静かに余生を楽しみたかったので三人の身寄りの無い召使いだけこの城へ仕えさせた。

国王陛下からのご勅命で私は恒星アルペニオンの周期記録書の制作を進めていた。

静かなこの場所での生活はそれなりに楽しかったものだ。


ある日、私の元に王からの使者が現れた。

南の果て、エルフの住まう森が一夜にして消滅してしまったらしい。その調査への協力をあおぐ内容だった。

私は王直属の星読み師を引退して久しい身。

ここはお断りしたのだが、どうしても手伝って欲しいという。

相当人手が足りないと見える。

私はしぶしぶ調査隊へ同行した。


エルフの森に着いたと告げられた時、私は愕然とした。

そこには丸焦げになった木が立っているばかりで、生物の存在など一切感じられない不毛の地と化していた。

近づいてみると、丸太だと思っていた黒焦げの物体はエルフの亡骸だった。

強い硫黄臭と肉が焦げたにおいが辺りを充満していた。

あまりに凄惨な現場に、吐き気をもよおす者も中にはいた。

さらに亡骸をよく調べていくと、小刀のような切り傷が無数についていた。

おそらくここにあるほぼ全ての亡骸は、小刀で切り殺された後に炎に焼かれたと思われる。

我々は生存者がいないかと歩き回ったが、ついに発見できなかった。

調査が終わると、私は森の入口に繋いであった自分の馬の元へ戻った。

するとその馬の背に一人のエルフの子供が乗っていたのだ。

馬もエルフの子を恐れる様子もなく呑気に草をはんでいる。


「こんにちは」


私は声をかけたが、その少年は返事をしなかった。それどころか、その瞳には私の姿すら写っていなかった。

少年は金切り声で叫ぶと、自分の腕を爪で引っ掻き始めた。


「止めるんだ!」


私は彼の腕を後ろから押さえた。

その時ようやく少年が何を呟いているのか聞こえた。


「魔龍アラストリンに栄光あれ!」


アラストリンと言えば、口にするのもはばかれる魔龍の名前だ。


(この子は魔龍会の者だろうか......)


一瞬そんな思いがよぎったが、すぐにその可能性を捨て去る。

このエルフの少年は何か強いショックを受けて自我を失っているのだろう。そして、自我を失う寸前に聞いた言葉を無自覚のうちに口に出してしまっているのだ。

だが無実でも魔龍の名を呟き続けるのを他の調査隊メンバーに聞かれるのは不味い。魔龍会の者として、憲兵に引き渡されてしまうかもしれない。

そう考えた私はひとまずこの少年を自分の城へ連れて帰ることにした。

自傷行為防止のため、手は縄で縛っておいた。

城へ戻った私はすぐに忘却の魔法をこの少年にかけた。

この日は幸運にも満月で、星読み師である私は星々の力を最大限引き出せた。

魔法で彼の魂に触れると、四日前から彼の記憶が止まっていることが分かった。トラウマがあるとすればその日だろう。

禁忌の星導魔術に記憶をのぞき見る魔法があるが、私の魔力では扱えないので使わなかった。


私は早速星々の力を借りて忘却の呪文を唱える。

この忘却の魔法は好きな日を選んで忘却できる訳では無い。魔法をかける前の記憶を全て消してしまう使いにくい魔法だ。

記憶とは魂だ。

記憶を抜き取るということは魂の一部を取るという事だ。私は抜き取ったその黄色い魂を地下室へ封印した。


忘却が終わると、その瞳にはやっと私の姿が写った。


「......?」


「やぁ。私はヤーゴン。君の主人だよ」


私はこの少年にファシルという名をつけてやった。

ファシルは本当にいい子で、 私の天体観測をよく手伝ってくれた。元々私の城には三人の召使いがいたが、ファシルはすぐに彼らとも仲良くなった。

不思議な事に、ファシルは魔法に関する知識だけは記憶が残っているようだった。

私が見たことの無い魔法を見て驚くと、ファシルはとても面白そうに笑うのだ。

こんな無垢な笑顔を向ける子が、邪悪な魔龍会のメンバーなはずは無い。私はそう確信した。


私は彼に生きる目的を与えた。


「この塔を守りなさい」


地下室で魂を封印したことで、ファシルとこの塔の城は一体化してしまったようだ。塔が傷つけば、ファシルも痛みを感じる。

そして、ファシルは塔の外には出られない。魂からは離れられないのだ。

もし外に出て過去を思い出してしまったら、ファシルはまた自我を失ってしまうだろう。

こうして塔に縛り付けておくことが一番ファシルを傷つけずに済む方法なのだ。


長くなってしまったが、これがこの塔の真実だ。

私はファシルの一部であり、自分の城であるこの塔で生涯に幕を閉じられることをとても嬉しく思う。

今まで謎のベールに包まれていたヤーゴンという人物が明らかになる内容でした。

ヤーゴンもファシルの過去の詳細までは分からなかったようです。まだまだ謎は続きます。

次の連載をお楽しみに!(これが言いたかった)

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Twitter @kanokohime_book
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